2017 年ポピュラー音楽 5 選 +α: 音楽は退化する. ただし, 進化という形で

ほぼ毎年書いています, その年に聴いたポピュラー音楽の新譜のうち, 気に入ったものセレクト. 今年はあまりピンとくる作品が少なく, 5 作品 + α みたいな感じです. それで, これまたほぼ毎年のように但し書きをしていますが, 網羅的に話題の新作をすべて聴いているわけではありませんので, この記事は何か音楽シーン的なことを書いているわけではありません. あくまで個人的な, 気になった音楽作品セレクト, ということで.

という但し書きをしておきながら, これもまた, 個人的な印象ではありますが, 2017 年によく耳にした音楽 (今年も相変わらず, ヒップホップを中心に追いかけいたのですが) について 1 つ, 気付くことがあるとすれば, 今年に限って言えば, ラップは退化してるな, と.

ただ, 退化と言っても別に悪い意味ではなく, まあ, 進化にも, 生物学的には (急に生物学とか言ってしまってますが), 特に良い意味があるわけでもないんですが, 退化したから 2017 年のラップはダメだ! と言いたいわけではありません.

退化とは, 時間的な経過のなかで生じ・遺伝するようになった変異が失われることです.

今年は, 同じ言葉が, 同じ (言葉ではなく, 音程・リズム的な意味での) フレーズが繰り返されるパートが多い楽曲が, リスナーの好奇の耳を集めることが多かったかな, と. 要するに, ラップの構造が単純な楽曲が目立つようになった, ということですね.

さて, その, 単純な構造のラップの, ジャンルとしての象徴が, 2016 年からちらほら見聞きするようになり, 2017 年に一気に認知度が広まった「サウンドクラウドラップ」. まだまだ新しい言葉ですので, 使われ方に統一感がありませんが, サウンドクラウド・ラップとは, まず第一に, その言葉の意味の通り, サウンドクラウドでのラップ・シーンです.

サウンドクラウドは, ただの音楽アップロードサービス = プラットフォームですので, サウンドクラウド・ラップという言葉それ自体に, 何か音楽的な特徴を表す意味はありません. が, サウンドクラウドでラップを発表し, かつ注目を集めているアーティストの楽曲には, だいたいの共通的な特徴があって, それが, ローファイであること, あるいはトラップ的であることです. サウンドクラウド・ラップで聴いておくべきラッパーとしては, 昨年 (2016 年) であれば Lil Uzi Vert や Lil Yachty, 今年では Lil Pump や Lil Peep, Smokepurpp, そして XXXTentacion.

サウンドクラウド・ラップの文脈で語られるラッパーのなかには, どうしようもなく単純に同じようなフレーズを繰り返すだけのラッパーがいて, そのなかでも目立った, まあ, 悪目立ちと言った方が正しいかもしれませんが, が, Lil Pump です.

特に「D Rose」が本当に衝撃的で, そのラップのお粗末さもさることながら, インストが全編クリッピングを起こしている, ていうですね, どう考えても「ナシ」なんですけど, めちゃくちゃカッコ良い.

ただちょっと, アルバム・サイズになると話は別で, さすがに同じような楽曲ばかりで飽きてしまうんですが (笑).

本当に最近のところだと,  Zillakami ですかね…

もうここまでくると分けわかんねぇ (笑)

こうした音楽的な退化は, ヒップホップ自体がそもそも退化とも言えなくもないですし, ポピュラー音楽は退化することで新しい音楽を生み出してきた, ていうところがありますので, 決してネガティヴな現象ではありません.

さて, もう少し落ち着いたところに目を移すと, エモ・ラップも 2017 年, 注目されるタームとなりました. サッドラップ, あるいはメロディック・トラップとも呼ばれたりするエモ・ラップは,インディー・ロックからのサンプリングとトラップのビートををミックスしたインストと, 内面的なリリックが特徴的. 上記挙げたラッパーたちのうち, XXXTentacion や Lil Peep がエモ・ラップに分類されます. さらに付け加えるとすれば, nothing,nowhere. .

サウンドクラウド・ラップとエモ・ラップの関係性は, サウンドクラウド・ラップが音楽プラットフォームにおける大きなヒップホップ・シーンで, その一部が今年, エモ・ラップとして注目された, という感じでしょうか. ただ, エモ・ラップという言葉は, XXX や Peep が登場する以前から, 悲哀を表したリリックのラップを形容する言葉としてメディアで使用されてはいましたが.

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1. XXXTentacion『17』

さて, サウンドクラウド・ラップ, あるいはエモラップの作品, 今年は本当に掃いて捨てるほど, ほぼ毎日のようになんらかの新曲なりミックステープが発表され, 聴いた端からどれも似たようなもんなので忘れていく, て感じだったんですが, そのなかでもほとんど唯一, ミックステープあるいはアルバム単位で強烈に印象に残ったのが XXXTentacion『17』です.

この作品は悪夢, 思想, そしていままで生きてきたリアルな人生についてがテーマだ

もし俺の感情を受け入れたくなくて, そして俺の言葉を耳にしたくなければ, 聴かなくていい

という「説明」から始まる『17』. その魅力は歌詞だけなく, インストにおけるシンプルかつ幅広い音楽性にもあります. ド直球のイマっぽいトラップがある一方, まんま「ロックやんけ」という感じの, アコギだけ, あるいはピアノのコードだけの楽曲があり, ではまったくアルバムを通じて統一感がないのかというとそうではなく, 抑鬱的な雰囲気が全編を通じてただよっている. インストがロックっぽくて, そしてボーカルがほとんどラップではなく「歌」の場合もあるので, じゃあヒップホップではなくてロックって言った方が良いんじゃないの, ていう感じがありつつ, でも, ヒップホップではないというのはやはり違う. ヒップホップだ. ていう. ここまでヒップホップとロックがガッチリ組み合わさった音楽は, なかなか他にないのではないでしょうか.

ということで, 今年はなんか, すごく頭の悪い感じの音楽に魅かれました. いや, 以前から頭の悪い音楽は好きなんですが, 今年はその, 頭の悪い音楽の豊作の年だったのではないか, と (笑).

2. The Juju『Exchange』

Chance The Rapper の盟友でトランペッターの Nico Segal が結成したジャズ・バンド, The JuJu の 1 st アルバム. 多彩なゲストを迎えたソロ名義作『Surf』からも聴き取れるように, ジャズ, ヒップホップと, Juke を始めとするベースミュージック系のセンスを 1 曲へまとめあげることで独自の音楽観を実演してきた Nico ですが, 今作はそういった音楽観を, 可能な限り生演奏で再現すればどうなるか, といった意欲作に思えました. 収録されている, シンプルな楽器編成を複雑にレイヤーしていく楽曲群は, しかし難解な構築物になっているわけではなく, また, 意味不明なフリーっぽさもなく, どれもなぜかポップで聴きやすい. どことなく見え隠れするラテン・アメリカ的なセンスも気持ち良い 1 枚.

Chance 周辺だと, 今年は, Towkio「Wave」も良かったですね. アルバムは来年ですかね〜〜〜.

3. Sir The Baptist『Saint Or Sinner』

シカゴ出身, 2016 年にリリースした「Raise Hell」が, BET アワードでベスト・インパクト楽曲賞にノミネートされた, シカゴ出身の Sir the Baptist によるデビュー・アルバム. Baptist = バプティストは, プロテスタントの宗派の 1 つ. その「Sir」を自称しているのですから, 当然, キリスト教的な世界観が色濃く反映されていて, 最近であれば Kanye West「Ultralight Beam」や Chance The Rapper『Coloring Book』を指して使用されるゴスペル・ラップに分類されるだろう作品です. 音楽的には, ソウルフルな生音系の演奏に, 力強いゴスペルのコーラス, そしてこれらを支えるトラップ系のビートが混在したインストに, 歌とラップを縦横無尽に行き来するボーカルが魅力的です.

と, この 3 作品が, 今年聴いたなかで本当に印象に残っている作品で, ということで実際は「5 選」ではなく「2017 年ポピュラー音楽 3 選」なんですが, 3 つだと少し寂しいので, あと 2 作品紹介します.

4. MANON「xxFANCYPOOLxx」

福岡出身, ASOBISYSTEM に所属している 16 歳のファッションモデル, MANON によるデビュー曲. 内容は, 近年の流行を受けてか, ラップ! なんですが, ナボコフ原作の映画『ロリータ』劇中歌である「Lolita Ya Ya」サンプリングの激ローファイなインストに, MANON の日常っぽい感じのリリックがゆるーく, かわいーく, しっかりとした日本語でのラップで, なんか, 変にシリアス出したい高校生文化系女子ラッパーとか, とにかくスキルスキルで「もうちょっといいです」てなってしまうガチ系とは一線を画した快作. 本作以外にも, 今年は 4 曲発表しているのですが, どれもめちゃくちゃいいです. 早くアルバムが聴きたい!

MANON で思い出してはいけないんですが, 今年, 日本のフィメールラッパーでヤバかったのはちゃんみな.

ほとんどバラエティ番組を観ないので, バラエティで彼女の活躍具合はよく知らないんですが, ドキツいトラップ系のインストに, ほとんど喧嘩ゴシなラップが, 女子高生を売りにするラッパーとしてはいままでにない (て言えるほど女子高生ラッパーなんて知らないんですけど) 感じでスゴくカッコイイ.

この動画からもわかるんですが, 歌もめちゃくちゃ上手い!!!!

で, フリダンに端を発しているここ 1, 2 年のラップ・ブームですが, とんでもないヒット曲こそありませんが, ラップが CM に取り入れられたり, ドラマや漫画の題材になってたりしてるんですが, そういった余波が届いていたか, まあ, 多少は届いていたとは思うんですけど, モノ凄く意外なところでラッパーデビューをしている方がいて, それが小西真奈美.

女優の音楽デビューというのが, CD 不況に伴ってだんだん少なくなってきているんですが, そんななかでの小西真奈美の音楽デビュー. ということで気になって, 前情報ゼロの段階で聴いたら, あれ, これ, 808 じゃね? てなって, 韻踏んでね? てなって, あれこれラップじゃね? てなって, 調べてみると,

まさかの KREVA プロデュース. 正直, アリかナシかで言えば, ナシな部類に入る楽曲なんですが, 好きか嫌いかで言えば全然好きです.

女優の音楽デビューと言えば, 今年はのんで, のんの歌声は『あまちゃん』での, 舌足らずな可愛いイメージが強かったので, キリンジ「エイリアンズ」での落ち着いた・柔らかい・大人っぽい歌声に驚きました.

のんは歌手としての才能もめちゃくちゃありますね.

話がだいぶそれた所で, 2017 年ポピュラー音楽 5 選 +α の続きです.

5. 小沢健二「流動体について」

これはもう, 個人的に痛いところを衝いてくれるような楽曲で, ある年代以上の東京に対するコンプレックスのある地方出身者の心をぐさぐさと刺してくる容赦なさがあるのではないでしょうか. 東京コンプレックスの地方者は, 東京にい続けるか, 地元へ帰るか, ていう 2 択になりがちで, 東京出身 = 神なんですが, 小沢健二はそういった地方者の憧れのはるか彼方に行ってしまっていて, 東京出身で音楽で成功して, 世界中を旅して, 人間的に柔らかくなって戻ってきた, ていう. そしてまた東京を 90 年代の感性で楽しんでいて様になってる, ていう. 前はそこまで小沢健二なんて好きじゃなかったんですけど, この楽曲は, やられました, て感じですね.

次点: 奥田民生『サボテンミュージアム』

もういい加減, 奥田民生なんて聴かなくていいだろう, と, 民生が新作をリリースするたびに思って, でも, なんとなく惰性で新作が出たら聴いてしまうんですが, 新作出て聴く度, やっぱこのおっさん最高だな, てなります. 独立してから初のスタジオアルバムは, 前作の全曲 1 人レコーディングとは打って変わって, MTRY バンドによるレコーディング. ユニコーンとはまた違う, 民生のバンド楽しんでる感が伝わってきて, 聴いてるとすごくバンドやりたくなる.  楽しそうであると同時に, 歌唱に新たな試みが取り入れられたりしていて, その辺からも, まだまだ追いかけねばならないおっさんなのだなあ, と思う次第です.

次点: EXILE THE SECOND『BORN TO BE WILD』

自称音楽ファンにとっては, EXILE を聴くなんて野蛮だ, てなりがちで, 自分も前はそうだったんですけど, 三代目の「J.S.B Love」の, EDM Trap と J-POP  の高度な融合っぷりを聴いて以来, あれ, これアリなんじゃね, て思うようになりまして. いまでは, 秋元康やジャニーズを評価して Exile Tribe を評価しない評論家は野蛮だ, くらいになっています. THE SECOND のアルバムは,「EXILE を卒業したマイルドヤンキーに送る大人の J-POP」的な感じなんですが, ブラックミュージックのルーツを感じさる楽曲あり, 最先端の US のシンガー的な楽曲あり, ド直球な J-POP バラードありで, かなり楽しめる内容. ただラップが単調なのが残念ですが.

と, いうことで 2017 年, 今年は, 実際はもっとたくさん聴いて, カッコイイ! と思えるものもたくさんあったんですが, 年末, 改めて振り返ってこれを語りたい, て思える作品となると, まあ, そんなにありませんでした. 来年はもっとたくさん, カッコイイ音楽に出会いたいですね.

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