哲学系の事典で「音楽」はどう論じられているのか?: 『哲学事典』(平凡社)「音階」のノート

音楽は哲学的にどう議論されているのか、あるいは議論されてきたのか。その大枠を捉えるために最も有効な手段のうちの1つが、「事典を調べる」でしょう。ということで、様々な哲学・思想系の事典で音楽に関する項目をノートをつくってみることにしました。調べてみるとけっこうでてくるものですね。事典ということで、1つ1つの項目のボリュームが大きいので、内容をかいつまんでの紹介になります。

前回まではコチラ。

今回は、第1〜2回に引き続き平凡社の『哲学事典』から「音階」です。



この事典、ちょっと説明が古い感じは否めないんですが(初版は1971年)、音楽に関する項目がなぜかかなり充実しています。が、なぜか残念ながら「音」だけはありません。ということで、「音階」。はたして哲学・思想とどう関連づけて説明されるのか。みていきましょう。

  • 参考事典・ページ: 『哲学事典』(平凡社、1971)p. 198-199
  • 項目名: 音階
  • 執筆者: 不明
  • 参考文献: なし

なお以下の「内容」中、関連しそうなウェブサイトや文献へのリンクを勝手に挿入していますのでご了承ください。


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音階の語源

  • ラテン語で「階段」を意味する scalae が語源
  • つまり、音の階段

音階とは?

  • 一定の順序で、高音から低音へ、あるいは低音から高音へと配列した音の系列のこと
  • 音階は音の高低の関係の土台でもあり、旋律の基本でもあるといわれてきた
  • ただし、各時代・各民族によって異なる様々な音階があり、おのおのの民族性やそれぞれの社会環境にしたがって発生し選択された、人間の発明のうちの1つといえる

現代の一般的な「音階」

  • 今日、一般的な西洋音階でもちいられている音階は、1オクターブを12半音に等分した12平均律に依っている
  • 12平均律に依っている西洋音階は、いわゆる長音階と短音階として知られているもので、ともに全音と半音の8個の音(1オクターブ)でできている

音階の論理的歴史

  • 音階が歴史的にいつごろから論理的にあつかわれるようになったのかは明確ではない

古代ギリシア

  • プラトンは、音階の性質を論じ、国家の音楽とすべきものと、そうでないものとの区別を語っている(『国家』)



  • アリストテレス派のアリストクセノスは歴史上はじめて平均律を考案し、半音階・1/3音階、1/4音階とともに、ギリシア音階をすべて包含できるものとした

※関連ページ: 古代ギリシア(7)ギリシアの音楽理論家: アリストクセノス


初期キリスト教時代

  • 初期キリスト教時代には、音楽は主として東方の後半な地域から影響をうけたために、音階も多様に変化した

中世

  • 中世になると、ギリシア音階をうけつぎながら、教皇グレゴリウス1世は教会音楽のためにグレゴリウス旋法と称する数種の音階を設定した

※関連ページ: 中世音楽(2)グレゴリオ聖歌

  • しばらくは教会音階が支配的だったが、世俗音楽や吟遊詩人のあいだで、現在の長音階・短音階にちかい音階が愛好されるようになり、これが芸術音楽にも影響をあたえた

中世音楽(3)世俗音楽

17 世紀

  • 17世紀には、和声的な音楽に適したものとして長音階・短音階という概念がはっきりとうちたてられていき、これが20世紀初頭までつづいた。

19 世紀

  • 19世紀以後はしだいに音階以外の音を使うことが好まれ、また転調などもひんぱんになった
  • この結果、長・短音階の秩序もくずれはじめていった

※関連ページロマン主義の音楽(3)様式: 旋律・リズム・和声

20 世紀

  • 20世紀になって、シェーンベルクは12半音をそれぞれ独立した音響としてとらえた12音音楽を創始し、従来の音階を破って現代音楽の新しい音の組織化の可能性をこころみた

※関連ページ: 20世紀前半の音楽(9)新ウィーン楽派: 十二音技法

  • またヴァレーズは打楽器による撥音を中心に音楽を構成した

※関連ページ: 20世紀前半の音楽(6)アメリカ実験音楽

  • ハーバは1/4音、1/16音といった微分音音階をこころみた

※参考サイト: chronological list of works of Alois Hába

第二次世界大戦後

  • 第二次世界大戦後は現実音や電子音響を録音テープにモンタージュするミュージックコンクレートや電子音楽のように、音階の存在をまったく否定する音楽が生まれた

※関連ページ: 20世紀後半の音楽(4)テープ音楽・コンピュータ音楽

現代音楽における音階

  • 現代音楽は、平均律の長・短音階の秩序がつづいてきた音楽の世界へ、長・短音階以外のさまざまな音階が存在すること、また音階によらないそれ以外の音の組織化が可能であることをしめしている

東洋の音階

  • 日本の伝統音楽もふくめ、五音音階が多い
  • しかし能楽・雅楽などにみられるようにかなり特殊な種類の音階が多いことも特徴である
  • また日本の都会の小唄(陰音階 = 都節)と地上の民謡(陽音階 = 田舎節)とが、それぞれ性質の異なる音階のうえにつくられているように、音楽の種類や性質に依って異種の音階がもちいられていたりする


以前調べた「音楽」の項目に比べると、哲学・思想系の人物名はあまりでてきませんが、音階史ともいえるものを、西洋音楽を中心にコンパクトにまとめているといえるでしょう。やはり執筆者が不明であることと、文献案内がないのが残念ではありますが…。

次回は「音楽芸術論」です。

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