20世紀前半の音楽(6)アメリカ実験音楽

西洋音楽史、20世紀前半の6回目です。前回はコチラ

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今回は、ヨーロッパではなく、20世紀アメリカの音楽を取り上げます。アメリカでは、ヨーロッパとは違った流れで新しい音楽が誕生しました。

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アイヴス

アイヴス  Charles Edward Ives は日曜大工ならぬ日曜作曲家でした。彼はヨーロッパの音楽家よりも早い時期に、ポリリズムや複調を試みました。

※ポリリズム: 声部によって拍の位置が異なること、またはそのようなリズムのこと。拍の一致しないリズムが同時に演奏されることにより、独特のリズム感が生まれます。

現実の生活の中で耳に触れる音を出来る限り拾おう、とする彼の音楽には、さまざまな楽曲の引用が含まれています。例えば、

  • 《ニューイングランドの3つの場所》Three Places in New England

では、行進曲が近づいてきては去っていく、もしくは野外の音楽がまぎれこんでくる、といった方法で、楽曲が引用されています。

ヴァレーズ

1915年にアメリカへ渡ったヴァレーズ Edgar Victor Achille Charles Varèse は、同時代のアメリカの作曲家たちに衝撃を与えました。

彼はイントナルモーリ Intonarumori のデモンストレーションを実際に聴いた1人です。また、科学技術と魔術の神秘に魅せられた音楽でもありました。

その影響から、打楽器だけによるアンサンブルのための《イオニザシオン》Ionisation 

管楽器と打楽器のみによる《ハイパープリズム》Hyperprism

といった作品を作りました。

ケージ

ケージ John Milton Cage Jr. は現在、東洋思想の影響の下に独自の美学を展開し、前述のアイヴスやサティからうけついだ実験的な精神に則って唯一無二の音楽活動をした人物として知られています。が、こうした音楽活動は、第2次世界大戦以降になってからです。

第2次大戦前のケージは、生活のなかの音に耳をひらき、日常のノイズや打楽器のの音を積極的に音楽へ生かしていきました。

ケージは当初、前述のヴァレーズと同様に、打楽器のみのアンサンブルを作って演奏し、モダン・ダンスの伴奏をして生計を立てていました。

やがてプリペアド・ピアノ prepared piano を考案します。
プリペイド・ピアノは、グランド・ピアノの弦の間に多様な物を挟み込んで、音を響かせるという手法です。やはり一種の打楽器音楽と言われ、ひとつひとつの音が画一化された楽音ではないために、独特の響きのする作品ができました。

ジャズの影響

20世紀における音楽で決して欠いてはいけないのは、ポピュラー音楽の隆盛です。しかし、ポピュラー音楽を含め「西洋音楽史」を概観するとなると、いままで取り上げてきた「西洋音楽史」と同じ程の文量になりますので、とりあえず当ブログの「西洋音楽史」では取り扱いません(ゆくゆくは「ポピュラー音楽史」に取り組むかも?)。

とは言え、全く見過ごすわけにはいけません。ここでは20世紀初頭に、19世紀までの伝統的な西洋音楽、つまり、いわゆる「クラシック」作品にも影響を与えた「ジャズ」Jazzについて、簡単に取り上げることにします。

ジャズの影響として代表例に挙げられるのは、ジョージ・ガーシュイン George Gershwin の《ラプソディ・イン・ブルー》Rhapsody in Blue です。

いやー、打楽器のアンサンブルとかプリペアド・ピアノを聴いた後だと、非常に安心しますね(笑

この作品では、いわゆるクラシック作品のなかに、ジャズの要素が大胆に取入れられました。

間もなくヨーロッパでも、ジャズは浸透し始めます。例えばストラヴィンスキー И́горь Фёдорович Страви́нский  やミヨー Darius Milhaud 、ラヴェル Joseph-Maurice Ravel といった作曲家たちの新作に、ジャズの影響が見られるようになります。

実験音楽以外の潮流

20世紀初頭のアメリカ音楽は実験的なだけではありませんでした。例えば、アメリカの国民性に根ざした創作に取り組んだ音楽家として、

  • コープランド Aaron Copland
  • バーンスタイン Leonard Bernstein

などが挙げられます。

電子楽器

実験音楽と関連して忘れてはならないのは、電子工学の発達です。

20世紀に発達した電子工学は、新しい音楽の創造に深く関わり、例えば未来派によるラジオ・ドラマの試みや、ケージはラジオを使用した楽曲を作っています。

電子工学と新しい音楽の関係の典型的な例としては、電子楽器の発明です。

  • テルミン Theremin

  • トラウトニウム Trautonium

  • オンド・マルトン Ondes Martenot

といった楽器が、1920〜30年代にかけて発明されました。

オンド・マルトンは、フランスの音楽家であるメシアン Olivier-Eugène-Prosper-Charles Messiaen による《トゥランガリラ交響曲》La Turangalîla-Symphonie で使用されています。

次回は 20 世紀前半のロシアの音楽です。

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参考文献

  • 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
  • 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
  • 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
  • 山根銀ニ『音楽の歴史』


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