西洋音楽史、バロック音楽の10回目です。
前回はバロック音楽における器楽についてでした。
今回はバロック期に生み出された器楽ジャンルの1つである、ソナタ sonata を取り上げます。
1.語源
ソナタは、イタリア語で「鳴り響く」「演奏する」を意味するソナーレ sonare が語源です。16世紀に、カンタータ(声楽曲)に対して、器楽曲を表す語句として使用されるようになりました。
ただ、ソナタという用語は厳密ではないそうです。例えば、トッカータ toccata、コンチェルト concert、シンフォニア sinfonia、パルティータ partitaなどが、ソナタと呼ばれることもありました。
2.音楽的起源
ソナタの音楽的起源には、2つあります。
(1)1つは、イタリアで愛好されたフランス多声声楽曲シャンソン = カンツォーナ・フランチェーゼ Canzoni Franzeseの、鍵盤楽器またはリュートのための独奏用編曲です。
この、カンツォーナ・フランチェーゼの独奏用編曲は、インタヴォラトゥーラ intavolatura と呼ばれ、声部が別々の譜表を持つ多声声楽曲から鍵盤楽器用楽譜やリュート・タブラチュアに書き直すことで、声楽曲を器楽様式に適合させる意味も、実質的には含んでいます。
(2)2つ目は、インタヴォラトゥーラと同じスタイルで新しく作曲された器楽曲、カンツォーナ canzona(複数形がカンツォーネ canzone)です。
カンツォーナは、声楽に適した長音符を細かく分割したり、華やかな装飾を施すなど器楽独自の語法を用いて、器楽曲としての性格を確立していきました。
それと同時に、原曲のシャンソンにもともと含まれていた速度や、拍子の異なる部分の対比を一層強め、こうした部分を拡大し、楽章として独立させることで、17世紀前半に他楽章形式のバロック・ソナタが生み出されました。
3.編成上の分類
当時の一般的なソナタは、編成の点から
- トリオ・ソナタ: 2声+通奏低音
- ソロ・ソナタ: 1声+通奏低音
に分けられます。
4.楽章構成上の分類
ソナタはまた、楽章構成の点から、
- 教会ソナタ: 緩-急- 緩-急の4楽章。第2楽章はフーガ、第3楽章は緩やかな3拍子。
- 室内ソナタ: 速度や拍子の異なる同一調(もしくは同主調)の舞曲から構成される。アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグなどを含む。
に分けられます。
こうした分類は、1700年頃イタリアで定式化されましたが、以降、両者の区別は曖昧になっていっていきます。
5.作曲家
ソナタの名曲を残した作曲家としては先ず、コレッリ Arcangelo Corelli が挙げられます。
コレッリは、2本のヴァイオリンと通奏低音の為のトリオ・ソナタによる、教会ソナタと室内ソナタを残しています。
他には、イタリアでは、
- ヴェラチーニ Francesco Maria Veracini
- アルビノーニ Tomaso Giovanni Albinoni
- ヴィヴァルディ Antonio Lucio Vivaldi
フランスでは、
- クープラン François Couperin
- オトテール Jacques-Martin Hotteterre
- ルクレール Jean-Marie Leclair
ドイツでは、
- ピゼンデル Johann Georg Pisendel
- テーレマン Georg Philipp Telemann
- ヘンデル Georg Frideric Handel
- バッハ Johann Sebastian Bach
らが、ソナタの作曲家として知られています。
6.楽器
ソナタの楽器としては、先ずはヴァイオリンが上げられます。
その他には、
- オーボエ
- フラウト・トラヴェルソ
- リコーダー
などが好まれました。
【参考文献】
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』