最近、MPC を触っていて、改めてサンプリングとパクリの違いについて考える機会がありましたので、私の考えを述べます。
自分の演奏でもサンプリング
サンプリングは、自分が作ったフレーズをサンプリングすることもサンプリングと言います。また、自然音もサンプリングできます。オリジナルのサンプルという言い方もできますね。
サンプリングの多義性
なお、サンプリングという言葉は、サンプラー的機能を使うだけに収まらず、もっと幅広く用法されています。転じて、転じて、転じまくっているのです。
他人の著作物の既存のフレーズを自分で演奏しなおしても、サンプリングだと言うこともあります。というかこれはサンプリングです。ですから、他人の著作物をサンプリングする場合、それは録音物かどうかに限りません。
サンプリング = 録音物の一部利用に限らない
さらに音だけに限りません。他人の考案したフレーズを演奏し直して自らの作品に取り込んだ場合、それは他人の著作物を楽譜に起こした場合その一部をサンプリングしたと、解釈できなくはないですね。しかし、歌詞も「サンプリング」すると言われることもあります。
「引用なのでは?」とお気づきの方も多いでしょう。そう、サンプリングという言葉の用法を挙げていくと、「それは引用では?」とツッコミたくなることもあります。ただ、その辺の細かい話はここではしません。正直、私もよく分かりません。というか正直、どうでもいいです。
サンプリングに「対しての」パクリ
対して、パクリについて。サンプリングに対して。
パクリは、自分以外の作者の著作物を、自分の著作へとして引用の範囲をいちじるしく逸脱して用いた場合。といったところでしょうか。おりこうな答え方をすると。だから、他人の著作物をサンプリングする場合、パクリとの境界は非常に曖昧です。
チョップしたのはさすがにセーフでは?
チョップして順番を入れ替えて演奏する、というのはセーフに近いと思いたいですね。というかチョップ〜分解演奏は、立派なサンプリングでしょう。サンプル音源に自分なりの解釈 = 演奏を加えているので。
ただし、いわゆる「2 枚使い」のように、一部のパートを切り取ってそれだけループさせるのは、場合によっては顰蹙を買うでしょう。私は 2 枚使いも肯定派です。私は DJ でもあるので。
サンプリングではないパクリ
パクリではないサンプリング、つまり、自分の演奏や許可を経た録音物のサンプリングがある一方、サンプリングではないパクリもありますよね、当然。サンプラー的機能や DJ 的手法を用いないパクリです。盗作という厳しい言葉が充てられることもありますね。J-POP には、洋楽を替え歌しただけじゃないの!? と思わせる楽曲も多い。例は挙げませんが。見つかれば匿名掲示板などではパクリだと騒がれますね。
パクリか? オマージュか?
しかし、オマージュと捉えられるケースもあるので、判断は難しいでしょう。
1 曲だけ挙げるとしたら、例えば、ゆるキャン△の OP 曲は、Jackson 5 のパクか? オマージュか? 私はオマージュだと思います。
無名なアーティストの楽曲を、有名なアーティストが使用したら?
無名なアーティストの楽曲のフレーズを、(サンプリングという形ではなく) 有名なアーティストが無断で使用した場合は、パクリだと糾弾されてもおかしくないでしょう。パクった側は決して認めないでしょうが。
サンプリング「無罪」
しかしこれも「サンプリング」と言えばグレーゾーンになります。例えば、有名 DJ が、世間で知られていないマニアックなファンクバンドのビートをサンプリングしたとします。いわゆるレアグルーヴのサンプリングですね。この場合は、無名なアーティストの楽曲の一部を、有名なアーティストが無断で使用したと事例ですが、糾弾されるでしょうか?
無断サンプリングはけっこう身近
レアグルーヴのサンプリングなんて、有名な DJ と言ってもクラブシーンの話で、日常的な場面で耳にしたりとかはあまりないのでは? と思われるかもしれません。しかし今や、DJ がオリンピックの音楽を担当する時代です。東京オリンピックで、降板したコーネリアスの代打に起用された FPM こと田中知之は、サンプリングで楽曲を制作します。レアグルーヴ的なレコードを、著作者の許可を得ずにリミックス制作のためにサンプリングして使用し、それマネタイズしてきたことを明言しています。しかもそのことが好ましい行為でないことも認めています。Web インタビューで読むことができます (https://freepaperdictionary.com/article/fpm-artschool/ (閲覧: 2023 年 4 月 14 日))。
東京オリンピックの音楽監督が、著作者に無断で楽曲の一部を切り取って制作していた、しかも好ましくないと認めている、というのは、小山田圭吾が中高生の頃、友だちをイジメていたの (ウワサがあるの) と同じくらい見過ごせないのではないでしょうか。というか小山田よりやっかいでは? と私は思いますが、どうでしょう。私はサンプリングによるリミックスを否定しているわけではありません。私もするし、ネットで公開もしています。ただ、東京オリンピックの音楽監督として、そのような音楽手法を取り入れるアーティストがふさわしいかと問われたら、肯定的はし難い。
東京オリンピックの音楽で無断サンプリングがされていないことを願うばかりです。
あ、あと特段、FPM を批難しているわけでもありません。『too』は私のお気に入りのアルバムです。
ちなみに逆のパターン、つまり無名が有名をサンプリングしたらしたで、「大ネタ」の「まんま使い」だと揶揄されます。
正直どうでもいい。
パクリではないサンプリングは、あります
この文章で言いたいことは、何がパクリで、何がパクリではないのか、といった、そういった境界問題ではありません。ちなみに私はそこにはあまり興味がありません。
この文章で言いたいことは、パクリではないサンプリングがある、ということです。
自分の演奏を録音してチョップしてパッドにアサインして演奏し直せば、それはサンプリングではあるがパクリではありません。
信頼ある仲間たちのバンドセッションを、DJ という立場で録音して、同じようにチョップするなり煮るなり焼くなりで再クリエイトすれば、それもサンプリングだがパクリではありません。
自然音もサンプリングできます。
演奏でなくても、自分でワンショットだけドラムを叩いて、つまり、未楽の音を録音して煮て焼いて自分の曲に使っても、サンプリングではあるが、パクリではありません。
もちろん、フリー素材と言われているものの使用も、パクリではないサンプリングです。
しつこいですが、いま挙げた例以外がパクリだと言いたいわけではありません。音楽表現はそんなに単純ではないので。
しかし、サンプリングとパクリの違いは何ですか? と問われたら、「自分の演奏を録音して切って貼って新しい音楽を作ってもサンプリングですよ」と私なら答えます。
自分で演奏できたらサンプリングする必要ない?
自分で演奏したものをサンプリングするのは、サンプラーでしか表現できない音があるからですよ。
分からない方はサンプラーを使ってみてください。
私のオススメは MPC 。ぜひお買い求めを。