西洋音楽史、ロマン主義の4回目です。前回のエントリーでも述べた通り、ロマン主義時の時代には、様々な音楽様式が併存していたため、この時代の様式を統一的にまとめるのは難しい。ただそれでも、或る程度の共通性を見出すこともできます。今回はロマン主義の様式のなかでも、形式とジャンルを取り上げます。
1.ソナタ形式
古典派時代と同じように、ロマン主義の時代においても、もっとも重要な形式はソナタ形式でした。
ロマン主義のソナタ形式は、ベートーヴェン Ludwig van Beethoven の作品が手本にされています。つまり、
提示部(第1主題と第2主題) – 展開部 – 再現部
という図式に則ったソナタ形式です。この形式での作品が、数多く作曲されました。なお、当ブログ「バロック(10)ソナタ」でも取り上げた通り、ソナタは、イタリア語で「鳴り響く」「演奏する」を意味するソナーレ sonare が語源で、西洋音楽史的には16世紀に、カンタータ cantata(声楽曲)に対して、器楽曲を表す語句として使用されるようになったのが始まりです。上述の「提示部(第1主題と第2主題) – 展開部 – 再現部」という図式が登場し始めるのは、19世紀前半の作曲法の教科書からです。なお、「ソナタ形式」という用語が初めて登場するのも、19世紀の作曲法の教科書です。
また、「提示部(第1主題と第2主題) – 展開部 – 再現部」という図式とは異なる個性的なソナタ形式も少なくありません。ロマン主義の作曲家の旋律は長く抒情的であるという特徴がありますが、このような旋律の特徴と、主題を短い部分に分解して処理したり体位法的に扱ったりする展開という、ソナタ形式に則った技法は、なじみにくかったからです。
2.形式
二部形式や三部形式は主に、抒情的な小曲や歌曲、舞曲的な楽曲に使用されました。
複合三部形式には、その変形として中間部(トリオ Trio とも呼ばれます)を2種類もつものがみられます。
多楽章作品においては、1つの楽章のなかに遅いテンポの主部と速いテンポであるスケルツォ Scherzo 風のトリオを組み合わせ、緩徐楽章とスケルツォ楽章を兼ねる例もあります。
比較的大きな規模の2部形式などには、ソナタ形式の図式の影響が認められることがあります。
3.ジャンル
ロマン主義音楽には様々なジャンルがありましたが、特に
- 歌曲の発展
- 性格的小品 = キャラクター・ピース Character Pieces の流行
- 標題音楽の新たな開拓
が目立ちました。
3−1.歌曲
歌曲の中でも、ピアノ伴奏歌曲は、すでに前古典派時代に生まれ、発展していました。
ロマン主義時代になると歌曲は、
- 繊細さの付加
- ピアノ・パートの表現力の増加
- 様々な国・民族の特色の反映
という特徴を呈し質的・量的に中心的なジャンルになりました。
歌曲はドイツではリート Lied と呼ばれていました。19世紀前半のフランスでは、ロマンス Romance と呼ばれるようになり、後半にはメロディ Mélodie と呼ばれるようになりました。また、オーケストラを伴奏にした歌曲も書かれました。
3―2.性格的小品
性格的小品は、ピアノ用に作曲された抒情的な小曲です。器楽の分野において、声楽における歌曲と同じような位置を占めています。
楽曲の規模は様々ですが、「小品」というだけあってあまり大きくありません。印象的なイメージや感情を繊細に、あるいは情熱的に表現しています。個人的な表出の性格を有しているのも特徴です。
性格的小品には、様々な題名がつけられており、形式は2部形式や3部形式など単純なものが多いです。独立した1曲として作曲されることもありますが、組曲としてまとめられたものもあります。
舞曲や練習曲なども、性格的小品の一種として数えることができます。
※練習曲: フランス語風にエチュード Étude ともいいます。 Étudeは「学習」の意味で、英語の study に相当します。練習曲と呼ばれる楽曲は大きく2種類に分けられます。(1)楽器や歌の演奏技巧を修得するための楽曲。(2)演奏会用練習曲で、演奏するために非常に高い技巧を要求する比較的短い楽曲。後者が、性格的小品の一種です。
3−3.標題音楽
標題音楽は、詩や物語、歴史上の事件、絵画的なイメージ、海や河などの風景、哲学的な思索などと関連した音楽です。
19世紀における標題音楽の先駆けになったのは、ベートーヴェンの交響曲第6番ヘ長調《田園》Pastorale です。
ロマン主義音楽には、初期の段階から標題音楽的な傾向を有していたと考える立場があります。
ロマン主義における標題音楽の創作が本格化するのは、ベルリオーズ Louis Hector Berlioz の《幻想交響曲》Symphonie fantastique からです。
リスト Franz Liszt の作品集《巡礼の年 第1年: スイス》Années de Pèlerinage. Première Année: Suisse は、ピアノのために作曲された標題音楽です。
またリストは、交響詩 Sinfonische Dichtung を創始し、多くの作曲家がこのジャンルを手がけることになりました。
- リスト《人、山の上で聞きしこと》
【参考文献】
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』