ロマン主義の音楽(1)概要

今回からロマン主義の西洋音楽を取り上げます。

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1.ロマン主義の語源と意味

1−1.ロマン主義の語源

さてそもそも、ロマン主義 Romanticism とはどういう意味でしょうか。 

「ロマン主義」あるいは「ロマン派」という言葉は、「ロマンス」 romance という言葉に由来します。本来は「ローマ的」という意味で、中世ヨーロッパでは、正式な古典文化を意味する「ラテン」に対し「民衆のもの」という意味合いがあり、そこから様々な意味が派生しました。例えば、「空想的で大衆向けの小説、物語」「中世騎士物語」「史詩(中世スペイン文学の一ジャンル)」「民族叙事詩」「恋愛話、恋愛事件」「ロマンス諸語」、そして音楽における自由な形式と甘美な楽曲という意味での「ロマンス」です。つまり、もともとはラテン語から派生したふるい言語「ロマンス語」で書かれた詩や物語を指していて、その特徴としては、奇想天外な冒険物語や空想的なないようでした。ここから「ロマン的」という形容詞が、「不思議な」「現実離れした」という意味で使われるようになりました。

1−2.ロマン主義の時代的意味

また歴史的には、「ロマン主義」という用語は18世紀とは対称的な時代を意味しています。

18世紀は啓蒙主義の時代でした。この啓蒙主義という考え方に基づき、理性や普遍性、規範的な秩序、形式均衡を尊重するのが、18世紀だったのです。

これに対しロマン主義の時代は、感情と直感、強烈な表現力と想像力、偉大な主観性と個性を強調したと言われています。

1−3.芸術におけるロマン主義

ロマン主義芸術の諸要素のなかでもっとも特徴的なもののひとつに、「無限への憧れ」があります。「無限」は永遠であり、過去であり、未来であり、遥か遠い国々であり、、、というふうに、ロマン主義者たちは現実の世界を超え、何か宇宙の真理のようなもの、そして人間の生の本質への予感・理解を獲得しようとしたのです。そして芸術家たちはこの「無限への憧れ」を、作品のなかで表現しようとしたのでした。

2.ロマン主義の時代

2−1.ロマン主義の始まり

音楽におけるロマン主義は、19世紀に入ると間もなく始まりました。この頃には、フンメル Johan Nepomuk Hummel やヴェーバー Carl Maria Friedrich Ernst von Weber といったロマン主義の最初の作曲家たちが、個性的な作品を発表し始めたのです。

・ヴェーバー《魔弾の射手》Der Freischütz

1800年代の最初の約30年間には、まだベートーヴェン Ludwig van Beethoven  が活躍していましたが、

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彼の後期の作品のなかには、ロマン主義音楽の特徴を多く認めることができます。

2−2.18世紀におけるロマン主義

18世紀にも、ロマン主義的傾向の音楽は認められます。

最も特徴的なのは、C.P.E.バッハ Carl Philipp Emanuel Bach に代表される「シュトゥルム・ウント・ドラング」Sturm und Drang でしょう。

モーツァルト Wolfgang Amadeus Mozart の後期にも、ロマン主義と考えられる作品があります。

ただこれらの作品はあくまで、ロマン主義の「先駆け」として、あるいは18世紀音楽の特異例としてみなすべきだと言われています。

2−3.ロマン主義の終わり

ロマン主義の終わりは、1910年前後と考えられています。

この時期に、マーラー Gustav Mahler が最後の交響曲を完成させ、シェーンベルク Arnold Schönberg が無調の作品を書き始めるからです。

  • マーラー《大地の歌》Das Lied von der Erde

同じ時期に活躍していた、R.シュトラウス Richard Georg Strauss 、ドビュッシー Claude Achille Debussy 、ラベル Joseph-Maurice Ravel らは、1910年以降も作曲を続けますが、彼らに並行して、

  • ストラヴィンスキー И́горь Фёдорович Страви́нский《春の祭典》The Rite of Spring

  • ベルク Alban Berg《ヴォツェック》Wozzeck 

など、新しい時代を象徴するような作品が次々と生まれました。

1800年頃から1910年頃までの西洋音楽全てが、単純にロマン主義だったわけではありません。ただ当ブログでは、この時代の音楽をロマン主義という表題の下に、扱うことにします。

3.過去の音楽の再評価

さて、次回からロマン主義の音楽をさらに具体的に取り上げる予定ですが、最後に、19世紀の音楽史的トピックをもう1つだけとりあげることにします。それが、「過去の音楽の再評価」です。

19世紀には、音楽の歴史主義的研究が盛んになり、パレストリーナ Giovanni Pierluigi da Palestrina 、バッハ  Johann Sebastian Bach、ヘンデル Georg Frideric Handel , モーツァルト、ベートーヴェンなどの作品全集が刊行されるようになりました。1829年には、メンデルスゾーン Jakob Ludwig Felix Mendelssohn Bartholdy の指揮でバッハ《マタイ受難曲》Matthäus-Passion が復活演奏されるなど、歴史的な意義を有する演奏家も活発になりました。

  • 《マタイ受難曲》

【参考文献】

  • 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
  • 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
  • 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
  • 山根銀ニ『音楽の歴史』


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