西洋音楽史、ルネサンスの7回目です。前回はコチラ。
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今回でルネサンス期の音楽を取り上げるのは最後になります。今回は器楽がテーマです。以前、「ルネサンス(4)16世紀」でも述べたように、16世紀後半から器楽が徐々に盛んになってきたのも、ルネサンス期の音楽の特徴だと言われています。
1.器楽と声楽
現在、残されている楽譜から判断すると、ルネサンス期全体を通じては器楽はあまり盛んではありませんでした。ただ、器楽が少なかった、というわけでもありません。
当時は現在のように、器楽の様式と声楽の様式が十分に分離していませんでした。また、楽器の特徴も、音色・音域・音量などの点で、人間の声に近いものが多かったようです。この為、楽譜に書かれている歌詞を無視し、まるで合奏曲のように全パートを楽器で演奏することも、ごく自然に行われていたと言われています。何て気ままなんでしょう!(笑
したがって、歌詞がついているからと言って、必ずしも声楽の楽譜であるとは限らなかったそうです・・・。けっこうスゴい話ですよね、コレ(笑 実際に、16世紀末頃までの現存する楽譜のなかには、「歌っても楽器で奏してもよい」と但し書きがされているものあるとのことです。
また、このようなことから、或るパートだけを歌い、残りのパートを楽器で演奏するということも行われ、合唱曲のようにみえる楽譜であっても、独唱曲になることもあり得ました・・・、気まま過ぎる!
2.器楽とア・カッペッラ
また、即興的な伴奏は常にありました。
さらにまた、楽器奏者が参加する場合、楽器指定が楽譜に記されていたわけではなく、演奏する人の音楽的な好みや都合によって選択されていました。
こうした音楽の在り方は、現在のいわゆる「クラシック」的なイメージとは、かなり懸け離れている印象を受けます。
3.カンツォーナ、リチェルカーレ
- カンツォーナ canzona
- リチェルカーレ ricercare
カンツォーナはイタリア語で「歌」を意味します。つまり、シャンソンの様式を手本にして生まれた器楽形式です。各部分の対比的効果が重視されるという特徴は、バロック時代のソナタ sonata へ発展していく要素の1つになりました。
4.舞曲
当時の舞曲は、2曲が組にされる習慣がありました。
16世紀後半に最も好まれた舞曲の組み合わせは、
- パヴァヌ pavane: ゆったりとした2拍子系の舞曲
と、
- ガイヤルド gaillarde: 活発な三拍子系の舞曲
これらの舞曲形式を用いて、リュート、鍵盤楽器、各種の合奏の為の作品が作られました。
5.スペイン
※変奏曲: 主題となる旋律が変奏され、主題と変奏の全体が一つのまとまった楽曲となったもの。
6.イギリス
彼らはヴァージナリストと呼ばれ、変奏曲以外に、舞曲やファンタジアなども作りました。
7.ヴェネツィア楽派
ジョスカンの死後からパレストリーナの時代の到来までの間、ヨーロッパで最も影響力のある音楽家の1人に、ヴィラールト Adrian Willaert が挙げられます。
彼はフランドル出身でしたが、ヴェネツィアに移り、フランドル楽派の音楽様式をイタリアに広め、ヴェネツィア楽派の創始者になりました。
彼の主な業績に、1527年のサン・マルコ大聖堂の聖歌隊長への就任があり、二重合唱(複合唱)の様式を音楽的に高めました。
8.ガブリエーリ
ヴェネツィア楽派の代表者の1人として、G.ガブリエーリ Giovanni Gabrieli が挙げられます。代表的な作品集に《サクラ・シンフォニア》Sacrae Symphonia があります。
《サクラ・シンフォニア》に収められている《ピアノとフォルテのソナタ》では、強弱 ≒ ピアノ・フォルテが書かれていて、また、パートごとに楽器名が記入されています。《ピアノとフォルテのソナタ》は、こうした類いの楽譜のうち、歴史上最古のそれとして、重要な意味を与えられています。
G.ガブリエーリの作風の特徴は、音色の華やかさ、音量の増大、音量の対比、声楽と器楽の対比、小合奏と大合奏の対比などから生まれる、ダイナミックな表現の仕方にあります。
このようなG.ガブリエーリに代表されるヴェネツィア楽派の音楽的な特徴は、バロックへ受け継がれていきます。
次回からバロック音楽について紹介します。
【参考文献】
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』