バロック音楽(8)宗教音楽

西洋音楽史、バロックの8回目です。今回は、バロック期の宗教音楽を取り上げます。宗教改革以降、カトリックもプロテスタントも独自の音楽の伝統を築いていきました。

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1.カトリック教会音楽

バロック期の新しい宗教音楽は、17世紀初めのイタリアのカトリック教会音楽から見てとれます。

1-1.イタリア

当時のイタリア・カトリック教会音楽は、ミサやモテットでは、ルネサンス期の対位法による古い様式が尊重されていました。

ただ、バロック音楽の新様式である、通奏低音 Basso continuo つき独唱や重唱、協奏様式、複合唱なども取り入れられるようになりました。

通奏低音: バロック期に広く普及した伴奏の形態です。通奏低音パートには、バス旋律と和音を示す数字や記号が記され、チェンバロやオルガン、テオルボなどの和音楽器の奏者は、その数字記号に従いながら即興的に上声の和音を補充し、バス旋律を演奏しました。

また、教会で演奏される器楽として、教会ソナタが生まれました。

1-2.フランス

フランスのカトリック教会音楽では、カンタータ形式のモテットが用いられるようになりました。

活躍したのは、

  • シャンパルティエ Marc-Antoine Charpentier
  • ドラランド Michel-Richard Delalande

といった作曲家でした。

2.プロテスタント

ドイツの中・北部では、プロテスタントが主流でした。ここでは、教会カンタータが典礼の重要な部分を占めたといわれています。

教会カンタータと通常、アリア、重唱、レチタティーヴォ、合唱、器楽から構成されます。また、ルター派のコラール(衆賛歌)の歌詞や旋律が、しばしば借用されました。

コラールを、作品の骨組みにしたり、終曲の合唱をなどの重要な部分に使用したカンタータは、コラール・カンタータと呼ばれます。

教会カンタータの初期の作曲家には、

  • シュッツ Heinrich Schütz
  • シャイン Johann Hermann Schein
  • シャイト Samuel Scheidt

が挙げられます。

また、中期・後期の作曲家には、

  • トゥンダー Franz Tunder
  • ベーム Martin Behm
  • ブクステフーデ Dieterich Buxtehude
  • クーナウ Johann Kuhnau
  • テーレマン Georg Philipp Telemann

が挙げられます。

教会カンタータ最高の巨匠と言えば、バッハ Johann Sebastian Bach です。バッハは、200を超える作品を残しました。

なお、教会での主要な器楽曲には、オルガンで演奏されるコラール前奏曲がありました。

3.イギリス

イギリス国教会の礼拝に使われていたのは、アンセム Anthem でした。

アンセムは、カンタータと同様に、独唱・合唱・器楽から構成されています。そしてフーガ形式のアレルヤが最後に置かれました。

当時のイギリスで活躍した作曲家としては、

  • ブロウ John Blow
  • パーセル Henry Purcell
  • ヘンデル 

が挙げられます。

4.オラトリオ

礼拝に用いられない宗教音楽では、オラトリオ oratorioが重要です。

オラトリオの起源は、中世の神秘劇や典礼劇にさかのぼることができます。ただ直接の由来は、16世紀後半の反宗教改革のさなか、フィリッポ・ネーリ Filippo Neri がローマの修道院の、オラトリオと呼ばれる祈祷所で行った私的な祈祷集会で歌われた、ラウダ Lauda や宗教的対話でした。

ラウダは、歌手が或る登場人物(美徳や悪徳など)の役割を演じ、対話の形で歌われました。

最初のオラトリオは、カヴァエーリ Emilio de’ Cavalieri《魂と肉体の劇》Rappresentazione di anima et di corpo(1600年、ローマ)です。

イタリアでは、

  • カリッシミ Giacomo Carissimi
  • ストラデッラ Alessandro Stradella
  • スカルラッティ Domenico Scarlatti

らがオラトリオの作曲家として知られています。

また、ドイツでは、

  • シュッツ
  • バッハ 

がオラトリオを作曲しました。

イギリスでは、ヘンデル Georg Frideric Handel がバロック・オラトリオの最高峰を築き上げました。

【参考文献】

  • 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
  • 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
  • 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
  • 山根銀ニ『音楽の歴史』

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