西洋音楽史、20世紀前半の3回目です。前回はコチラ。
さて、今回取り上げるのは「原始主義」Primitivism と呼ばれる作曲家たちです。
1.原始主義
表現主義と同じく、原始主義もまた、印象主義の影響から表れました。
印象主義が隆盛すると、中央ヨーロッパ以外の地域の音楽に興味を持つ、言い換えれば、異国趣味の傾向のある作曲家たちが増え始めました(ドビュッシー自身も、ジャワ音楽(ガムラン Gamelan )からの大きな影響を受けました)。
これに加え、「表には現れないような追いつめられた感情を強調しよう」とする表現主義的な欲求とも結びつき、文明社会の陰に隠れていた人間のもっている本来の激しい力 = 原始的な強さを、音楽で表現しようとする作曲家たちが表れたのです。そして彼らが、原始主義と呼ばれています。
2.フォーヴィズム
原始主義は、同時代の美学であるフォービズム Fauvisme(=野獣派)の絵画や彫刻と同じ立場です。フォービズムの例としては、ゴーギャン Eugène Henri Paul Gauguin が挙げられます。ゴーギャンがタヒチ島で描いた絵画表現からは、この時期の原始主義の音楽に通じるものがあります。
( By ポール・ゴーギャン – The Yorck Project: 10.000 Meisterwerke der Malerei. DVD-ROM, 2002. ISBN 3936122202. Distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH., パブリック・ドメイン, Link )
3.ストラビンスキー
原始主義の代表作と言えば、何と言ってもストラヴィンスキー И́горь Фёдорович Страви́нский の三大バレエ音楽《火の鳥》L’Oiseau de feu、《ペトルーシュカ》Petrushka、《春の祭典》Le sacre du printemps です。いずれもロシア民話・民謡を取材し、ロシアを舞台とした作品で、ロシア・バレエ団に捧げられました。
特に有名なのは《春の祭典》です。
激しく刻まれるリズムの構造が非常にユニークで、原色を思い起こさせるオーケストレーションに野生の趣があり、太鼓の人間がもっていた生命力を感じさせる作品です。1913年のパリでの初演では、相当な衝撃をもって受け止められ、スキャンダラスな騒動になりました。
《春の祭典》のリズムは、第2次世界大戦後、ブーレーズ Pierre Boulez によって分析されました。また、2つの調性を重ね合わせる「複調」は、伝統的な調性の世界を乗り越える手法として、フランスの新古典主義へと受け継がれました。
4.バルトーク
1910年前後のバルトーク Bartók Béla Viktor János もまた、原始主義に近づきました。
バルトークは、ハンガリーとその周辺の地域の民族音楽を採集して研究することで、独自の作風をつくりあげました。
ピアノ曲《アレグロ・バルバロ》Allegro barbaro や、弦楽四重奏の第1番・第2番では、激しい和音の連打を用い、原始主義に接近しています。
原始主義はその後、第2次世界大戦後の作品にいたるまで、その潮流を追うことができます。例えば、ジョリヴェ André Jolivet《赤道》、メシアン Olivier-Eugène-Prosper-Charles Messiaen《トゥランガリラ交響曲》La Turangalîla-Symphonie などです。
しかし、新しい音楽語法の誕生を促す役割として、原始主義が最も隆盛したのは、1910年頃からの数年間だった、というのが通説のようです。というのも、バルトークもストラヴィンスキーもこの後、大きく作風を転換させるからです。
次回は「イタリア未来派」を取り上げます。