20世紀前半の音楽(4)イタリア未来派

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(By ウンベルト・ボッチョーニ – The Yorck Project: 10.000 Meisterwerke der Malerei. DVD-ROM, 2002. ISBN 3936122202. Distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH., パブリック・ドメイン, Link)

西洋音楽史、20世紀前半の音楽の4回目です。

本サイトの西洋音楽史全体の目次はコチラです。

また, 20世紀前半の音楽の目次はコチラになります。

前回は、20世紀前半の音楽の潮流の1つである「原始主義」について取り上げました。

今回取り上げるのは、新ウィーン楽派が表現主義として無調の音楽を書き始めたのとほぼ同じ頃、つまり1900年代初頭に、イタリアで起こった未来派 Futurismo 運動です。

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1.未来派

1900年初頭のイタリアのミラノでは、詩人マリネッティ Filippo Tommaso Marinetti を中心に未来派と呼ばれた運動が始まりました。未来派は、文学、音楽、演劇、美術、建築、映画、モード、料理などなど、あらゆる方面で19世紀の枠組みを破壊しようと試みました。つまり、それまでの音楽の分野名と同じく、音楽に特化した運動ではなく、総合的な芸術・政治運動でした。

2.「未来派宣言」

未来派の中心人物であったマリネッティは、1909年2月20日付けのフランスの新聞『フィガロ』紙に、「未来派設立宣言」Manifesto del futurismo を発表しました。その一部が現在、「未来派宣言」として、20世紀初頭の芸術運動を取り上げる際によく話題にされます。内容は、「すべての生きた人間たち」に命じる11箇条の宣言文であり、速度・破壊・暴力・危険・騒音への愛を読み取ることができます。

この「未来派宣言」を皮切りに未来派は、機械文明を賛美し、未来への楽観的な展望を次々と宣言文として、新聞や雑誌で発表しました。また、街頭でプロパカンダを行ったり、劇場で「未来派の夕べ」Serata Futurista を開くなど、毎回、警察沙汰の騒動を起こしました。

3.ルッソロ

演劇とコンサート、政治集会といった内容を組み合わせた「未来派の夕べ」では、音楽が重要な役割を果たしました。

音楽家としては、プラテッラ Francesco Balilla Pratella(1910年に「未来派音楽宣言」Manifesto dei musicisti futuristi を発表)や、ルッソロ Luigi Russolo(1913年に「騒音芸術」L’arte dei Rumori という声明文を発表)が挙げられています。

ルッソロは、騒音を再生したり演奏するための楽器「イントナルモーリ」 Intonarumori を製作し、騒音のための新しい楽曲を作りました。泣き叫ぶような声、ぶつぶつとした感触の音、パチパチという音、きぬずれの音、爆発音を鳴らしました。

代表作としては《都市のめざめ》Risveglio di una città が挙げられます。

楽譜にして見開き2ページの短い楽曲ですが、高さの異なるノイズが轟く作品になっています。

また、《自動車と飛行機のランデヴー》や、《カジノのテラスでの夕食》といった楽曲も、騒音で満たされています。

このように、音楽を例にとっても、未来派の人たちは、あらゆる芸術を現代生活や機械のダイナミズムに向かって開かれたものにしよう! と主張していたのです。

4.イントナルモーリの影響

1914年には、ミラノ、ジュネーヴ、ロンドンなので、イントナルモーリによるコンサートが行われました。また、1921年にも、作品の発表とデモンストレーションが行われました。

こうした発表を会場で聴いたストラヴィンスキー И́горь Фёдорович Страви́нский やネオゲル Arthur Honegger 、ヴァレーズ Edgar Victor Achille Charles Varèse らがその後、機械時代にふさわいい騒音を含む作品を書くようになりました。


次回はエリック・サティを取り上げます。

【参考文献】

  • 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
  • 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
  • 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
  • 山根銀ニ『音楽の歴史』


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