ロマン主義の音楽(12)イタリア: ロッシーニ、ベルディ、プッチーニ

西洋音楽史、ロマン主義の12回目です。さて、前回のエントリーまでで、ドイツを中心にしたロマン主義音楽について取り上げましたが、前古典派やバロック、そしてそれ以前に音楽の中心であった19世紀のイタリアはどのような様相だったのでしょうか。

【スポンサーリンク】
スポンサーリンク

1.オペラの伝統

19世紀のイタリアで主流だったのは、やはりこの国の伝統であるオペラでした。外国からの影響もたしかにありましたが、フランスのグランド・オペラ grand opéra 程度でした。ドイツを中心にしたロマン主義の音楽からの影響は、ほとんどありませんでした。

※グランド・オペラ: 19世紀前半のフランス・パリのオペラ座を中心にして流行した、オペラの一様式。歴史的題材を採用した台本、数多くのキャスト、大規模なオーケストラ編成、豪華な舞台衣装、スペクタクル的な舞台効果などに加えて、音楽面では台詞語りがなく(ドラマ進行はレチタティーヴォ recitativo による)、構成上は4幕あるいは5幕の多数幕立てとして、多くの場合バレエを含むことなどが特徴。ただ、正確に定義付けるのは難しく、現在では多くの場合、様々な要素において「大規模」なオペラをグランド・オペラ様式と呼びます。

2.ロッシーニ

19世紀イタリアのオペラ界において、最初に登場したのはロッシーニ Gioachino Antonio Rossini でした。1810年のデビューから19年にオペラの筆を折るまでの20年間に、40曲近くのオペラを作曲しました。ロッシーニの作品は18世紀オペラの流れを受け継いでいます。彼の代表作としては、

  • 《オテロ》Otello(オペラ・セリア)
  • 《セミラーミデ》Semiramide(オペラ・セリア)
  • 《アルジェのイタリア女》L’italiana in Algeri(オペラ・ブッファ)
  • 《セビリャの整髪師》Il barbiere di Siviglia(オペラ・ブッファ)

が挙げられます。最後の作品となったのは、《ギョーム・テル》Guillaume Tell です。この作品は、フランス流のグランド・オペラでした。

ロッシーニの後に続いたのは、ドニゼッティ Gaetano Donizetti とベッリーニ Vincenzo Bellini でした。

3.ドニゼッティ

ドニゼッティは70曲ものオペラを残しました。彼の《ドン・パスクアーレ》Don Pasquale は、オペラ・ブッファの精神を受け継いだ最高傑作と言われています。

  • 《ドン・パスクアーレ》

また、オペラ・セリアの有名な作品としては、

  • 《ルクレツィア・ボルジャ》Lucrezia Borga
  • 《ランメルモール・のルチア》Lucia Di Lammermoor

が挙げられます。

4.ベッリーニ

ベッリーニは、デビューから亡くなるまでわずか10年と、短い活動期間でした。この間に10曲のオペラを残しました。特に有名なのは、

  • 《ノルマ》Norma
  • 《清教徒》I Puritani

です。ベッリーニは、ロマンティックで抒情性に満ちた、美しい旋律を書くことが得意でした。

5.ヴェルディ

ドニゼッティとベッリーニの後に続いたのが、ヴェルディ Giuseppe Fortunino Francesco Verdi でした。ヴェルディは、イタリア・オペラの伝統を最高度に完成させた作曲家で、1842年、ヴェルディは《ナブッコ》Nabucodonosor でオペラ作家としての地位を確立しました。

しかしこれには政治的な背景がありました。当時のイタリアは、オーストリア圧政下で分裂国家状態にあり、民衆は国家の統一を望んでいました。《ナブッコ》は、民衆の統一運動の機運と通ずるものがあったのでした。《ナブッコ》のなかでも、合唱曲《行け、思いよ、黄金の翼に乗って》Va, pensiero, sull’ali dorate は、第2の国歌として広く歌われました。

  • 《行け、思いよ、黄金の翼に乗って》

ヴェルディは26曲のオペラを残しました。大部分は悲劇です。音楽は直截な表現と情熱に溢れていると言われます。旋律は輝かしく力強く、イタリアの伝統に従い声の表現力を重視し、対位法・和声・管弦楽などのあらゆる音楽上の手段を駆使し、鮮やかな劇的表現を作り上げました。なお、中期のヴェルディの代表作には、

  • 《レゴレット》Rigoletto
  • 《椿姫》La Traviata

があります。後期の代表作には

  • 《アイーダ》Aïda
  • 《オテロ》Otello
  • 《ファルスタッフ》Falstaff

があります。

6.ヴェリズモ

19世紀末には、自然主義文学の影響を受け、ヴェリズモ verismo = 現実主義と呼ばれる運動が生まれました。これは日常生活の中に起こる刺激的な事件をありのままに描き出そうとするオペラです。代表作としては、

  • マスカーニ Pietro Mascagni《カヴァレリア・ルスティカーナ》Cavalleria Rusticana
  • レオンカヴァッロ Ruggero Leoncavallo《道化師》Pagliacci

が挙げられます。

7.プッチーニ

ヴェリズモと前後して人気を集めたのが、プッチーニ Giacomo Antonio Domenico Michele Secondo Maria Puccini でした。代表作には、

  • 《ラ・ボエーム》La Boheme
  • 《トスカ》Tosca
  • 《蝶々夫人》Madama Butterfly

などがあります。プッチーニの音楽は甘美な感傷を帯びていて、通俗的だと評されることがあります。しかし当時の現代的な和声語法を巧みに取入れ、さらには劇的効果を挙げることも得意としていました。



【スポンサーリンク】
スポンサーリンク