ロマン主義の音楽(13)フランス: グランド・オペラ、サン=サーンス、フランク、フォーレ

西洋音楽史、ロマン主義の13回目です。前回のエントリーまででは、ドイツを中心にしたロマン主義音楽、および、19世紀イタリアの音楽について取り上げました。今回はフランスです。

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1.オペラ

19世紀前半のフランスでは、ブルジョワジー階級の台頭とともに、オペラが人気を集めていました。自国であるフランス人オペラ作曲家だけではなく、外国出身の作曲家たち、特にイタリア人も活躍していました。例えば、

  • スポンティーニ Gaspare Luigi Pacifico Spontini
  • ケルビーニ Luigi Cherubini
  • ロッシーニ Gioachino Antonio Rossini

らです。

1−1.グランド・オペラ

フランス独特の新しいオペラも生まれました。グランド・オペラ grand opéra です。グランド・オペラは、リュリ以来の音楽悲劇の伝統を受けつぎつつ、バレエや合唱の場面を多く取入れ、視覚効果を重視したものでした。このジャンルの様式を確立したのは、ドイツ出身のマイヤベーア Giacomo Meyerbeer でした。

  • 《ユグノー教徒》Les Huguenots

1−2.オペラ・コミック

18世紀末に成立したオペラ・コミック Opéra comique も、引き続き作曲されていました。オペラ・コミックは、グランド・オペラとは異なりレチタティーヴォ recitativo を用いず、普通に話すセリフによって劇を進行させます。また、英雄的で大げさな題材を扱わず、直截な表現が特徴です。オペラ・コミックの代表作としては、グノー Charles François Gounod《ファウスト》Faust と、ビゼー Georges Bizet《カルメン》Carmen があります。

ただ、この2作品とも、後に作曲家自身によってレチタティーヴォ付きのかたちに書き直された楽譜が残されています。

2.ベルリオーズ

19世紀前半、オペラ界以外で注目されたフランス出身の音楽家が、ベルリオーズ Louis Hector Berlioz です。パリ音楽院で学び、作曲家になりましたが、あまりに個性的な音楽であったため、フランス国内では認められませんでした。

2−1.《幻想交響曲》

代表作は、《幻想交響曲》Symphonie fantastiqueでしょう。

《幻想交響曲》は、「ある芸術家が失恋の悲しみのあまり自殺を図るが死にきれず、奇怪な夢を見る」という物語をともなった標題音楽です。恋人の幻影を象徴する「固定楽想」(イデー・フィクス idée fixe)と名付けられた旋律が5つの楽章すべてに形を変えながら盛り込まれています。その技法と表現の独創性は、シューマン Robert Alexander Schumann 、リスト Liszt Ferenc 、ワーグナー Wilhelm Richard Wagner らドイツのの作曲家に影響を与えました。

2−2.声楽

しかし実際には、ベルリオーズは、純粋な管弦楽曲よりも声楽をともなう作品を多く残しました。この分野では、

  • 劇的交響曲《ロミオとジュリエット》 Roméo et Juliette
  • 劇的物語《ファウストの劫罰》La damnation de Faust
  • オペラ《トロイアの人々》Les Troyens
  • 歌曲《夏の夜》Les nuits d’été

など、優れた作品を残しています。

2−3.著作

ベルリオーズは著作も残していて、

  • 『近代器楽法と管弦楽法』


は同時代と後世に大きな影響を与えました。

3.サン=サーンス

オペラの流行とは別に、19世紀後半のフランスでは、新しい音楽の潮流が始まろうとしていました。

1828年、パリ音楽管弦楽団 Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire が創設されました。ここで指揮者アブネック François Antoine Habeneck などによって、べートーヴェン Ludwig van Beethoven の交響曲や室内楽を広めようとする動きがありました。

また、1860年代からは、知識人や音楽家たちがワーグナー Wilhelm Richard Wagner を崇拝するようになりました。

1871年には、サン=サーンス Charles Camille Saint-Saëns 、フランク César-Auguste-Jean-Guillaume-Hubert Franck 、フォーレ Gabriel Urbain Fauré らが国民音楽協会 Société Nationale de Musique を設立し、新しいフランス音楽の普及に努めました。

サン=サーンスは自らも、器楽、声楽を問わず、幅広い分野で質の高い作品を作曲しました。

4.フランク

サン=サーンスらとともに国民音楽協会を設立したうちの1人、フランクの音楽は、

  • ワーグナーの影響を受けた半音階的和声
  • 多楽章の器楽作品に明確な動機的関連によって統一性を与える「循環形式」と呼ばれる技法

を用い、当時のフランス音楽に着実な業績を残しました。

交響曲ニ短調や5曲の交響詩、ヴァイオリン・ソナタを始めとする室内楽などが代表的です。

  • 交響曲 ニ短調
  • 交響詩《アイオリスの人々》Les Éolides
  • ピアノとヴァイオリンのためのソナタ イ長調

フランクはなかなか聴衆の理解を得ることができませんでした。しかし、

  • ダンディ Paul Marie Théodore Vincent d’Indy
  • ショソン Ernest Chausson

などの後継者を得ました。

5.フォーレ

19世紀後半には、新しい芸術歌曲であるメロディ mélodie の作曲もさかんになりました。フォーレはその代表的な作曲家の1人です。

  • 〈月の光〉 Clair De Lune

フォーレはメロディを、ドイツのリート Lied と比肩するほどに水準を高めました。

フォーレの音楽は、

  • 半音階的傾向と旋法的傾向をあわせもつ和声
  • 美しい旋律

を特色とします。

彼は100曲近くのメロディの他に、ノクターン nocturne や即興曲といったピアノ曲、室内楽などを作曲しました。

  • 《夢のあとに》Après un rêve
  • ピアノ三重奏曲 ニ短調 

【参考文献】

  • 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
  • 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
  • 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
  • 山根銀ニ『音楽の歴史』


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