ロマン主義の音楽(15)ロマン主義の終焉: マーラー、ヴォルフ、R.シュトラウス

西洋音楽史、ロマン主義の15回目です。19世紀後期になると、ロマン主義音楽の終焉を示す兆候が現れ始めます。要因としては、
  • 転調や和声の複雑化が進んだこと
  • 調性の体系にない音階・和声が頻繁に使用されるようになったこと

が挙げられます。結果的に調性が著しく曖昧になり、ロマン主義の様式や形式の有する可能性の限界を表すような、作品が生まれるようになります。さらに、音楽美に対する新しい考えが芽生え始め、ロマン主義終焉に向けて拍車がかかるようになりました。

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1.マーラー

19世紀後期のオーストリアを代表する音楽家の1人として、マーラー Gustav Mahler が挙げられます。

マーラーは、巨大な規模の交響曲と管弦伴奏付き歌曲の分野で個性的な作品を残しました。

完成した交響曲は全部で9曲。うち4曲(第2〜4番、第8番)は独唱や合唱を用いていて、マーラーにおいては交響曲と歌曲が創作の根底では深く結びついていたことが表れています。このことは、交響曲第1番が歌曲集《さすらう若人の歌》Lieder eines fahrenden Gesellenと、第2〜4番《子どもの魔法の角笛》Des Knaben Wunderhorn第5番《リュッケルトの詩による歌曲集》Rückert-Lieder と関連づけられていることからも読み取ることができます。これらの交響曲・歌曲では、共通の動機や主題を用いたり、歌曲の1曲をそのまま交響曲の1つの楽章にしたりしてます。

  • 交響曲第8番《千人の交響曲》 Symphonie der Tausend
  • 交響曲第1番《巨人》Der Titan
  • 《さすらう若人の歌》 〈朝の野を歩けば〉Ging heut’ morgens übers Feld
  • 交響曲第2番《復活》Auferstehung
  • 《子どもの魔法の角笛》〈原光〉Urlicht
  • 交響曲第5番 第4楽章
  • 《リュッケルトの詩による5つの歌曲》〈私はこの世に捨てられて〉 Ich bin der Welt abhanden gekommen

さらに《大地の歌》Das Lied von der Erde においては、ジャンルとしての交響曲と歌曲が、ひとつの作品に統合されています。

2.ヴォルフ

マーラーと同じく、19世紀後半のオーストリアを代表する1人の音楽家として、ヴォルフ Hugo Wolf が挙げられます。ヴォルフは多くの歌曲を残しました。

ヴォルフの歌曲の特徴は、歌の旋律が詩の朗読の調子を最大限に尊重する様式で書かれた点にあります。一方でピアノ・パートは、半音階的な和声法を用い、言葉と声の表現の限界を超えた深い内面的な意味を表出しているかのようです。

  • 〈炎の騎士〉Der Feuerreiter

ヴォルフは、シューベルト Franz Peter Schubert からシューマン Robert Alexander Schumann 、ブラームス Johannes Brahms を経て発展した、ロマン主義ドイツ歌曲の最後を飾る作曲家だと言われています。

3.R.シュトラウス

R.シュトラウス Richard Georg Strauss は、マーラーやヴォルフと同じ頃にミュンヘンで生まれました。交響詩とオペラに数々の傑作を残しています。

交響詩は7曲。いずれもリスト Liszt Ferenc やワーグナー Wilhelm Richard Wagner の流れをくむ様式と、大規模な管弦楽によって書かれていて、強い叙事詩的性格があります。

最後の交響詩となった《英雄の生涯》Ein Heldenleben は、自伝的な作品で、他の交響詩からの引用がされています。

1898年以降は、交響詩の作曲をやめ、オペラに力を注ぎました。《サロメ》Salome 《エレクトラ》Elektra では、表現主義 Expressionism 的で革新的な技法が示されています。

※表現主義: 人間の内部の、ふだん表には現れないような追いつめられた感情を強調しよう、とする音楽。「追いつめられた感情」とは、例えば、不安・恐怖・罪・死・狂気といった生々しい情感です。

  • 《サロメ》
  • 《エレクトラ》

一方で後には、《ばらの騎士》Der Rosenkavalier のような、モーツァルトを回顧するようなオペラも残しています。

【参考文献】

  • 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
  • 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
  • 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
  • 山根銀ニ『音楽の歴史』


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