西洋音楽史、ロマン主義の2回目です。
1.根源的な芸術としての音楽
ロマン主義時代においては、様々な芸術の中で、音楽が最も根源的な芸術であるとされました。というのも音楽は、当時、非物質的だと考えられていた音という素材を用い、具体的なものの描写から最も遠い芸術であるから、他の芸術よりも無限なるものの表現に適している、と考えられていたからです。
また音楽は、時間の中に存在し、時間とともに展開する芸術です。人間の精神・感情もまた、時間的であると考えられ、音楽は人間の精神・感情の様々な段階・変化・運動を表現することができるとも考えられていました。
2.器楽作品の優位
音楽が根源的な芸術であると考えられたロマン主義の時代において、最も高い地位が与えられていたのは器楽作品でした。
器楽作品は、言語や絵画的イメージなどの音楽以外の手段を借りません。つまり、器楽作品においては、音と作曲家の想像力だけによって、無限なる何か化の源泉から汲み取った神秘的な力を表現することができる、と考えられていたのです。このような器楽に最高位を与える考え方から、、音楽そのものを表現しようとするような音楽 = 絶対音楽という考え方が生まれました。
3.聴衆
音楽家と聴衆の関係という点でも、19世紀は歴史的に大きな変化がありました。
18世紀以前においては、ほとんどの音楽家は王室や貴族、教会などの保護下におかれていました。
ところが18世紀後期から、ブルジョワジーが社会の富と実権を握るようになります。これに伴い、王室・貴族・教会などからの保護制度は衰退します。結果として多くの音楽家たちは、コンサートなどに集まってくる不特定多数の聴衆を相手に活動するようになりました。
このような社会状況下で作曲家たちは、自らの存在意義を社会に認めさせる・収入を得るために、自らの独創性を大衆に強くアピールしなければなりませんでした。この結果、19世紀は強烈な個性の時代へとなっていったのでした。
4.ヴィルトゥオーソ
演奏の分野では、極めて高度な技能を身につけた名人芸的演奏家 = ヴィルトゥオーソ virtuoso が多くの聴衆から絶大な人気を集めました。
ヴィルトゥオーソが人気を集めるきっかけになった音楽家は、パガニーニ Niccolò Paganini です。
パガニーニは、シューマン Robert Alexander Schumann 、ショパン Fryderyk Franciszek Chopin など、19世紀の多くの作曲家たちに大きな影響を与えました。
5.歴史主義・民族意識
19世紀には、歴史主義と呼ばれる思潮が一般化しました。歴史主義とは、社会や文化、そして音楽は、歴史的に発展する存在であり、歴史的な観点から理解・評価されなければならない、という考え方です。この考え方が一般化するのと同時に、過去の時代の音楽作品の歴史的意義を、学問的に解明しようとする機運が高まりました。
19世紀のもう1つ重要な側面として、民族意識の高揚が挙げられます。それぞれの民族に固有の文化が探究され、音楽においては民謡や民俗舞曲が各民族の音楽的ルーツとして意識されるようになりました。そしてこうした音楽的ルーツの、旋律・リズム、雰囲気といった要素が、芸術音楽のなかで活用されるようになりました。
【参考文献】
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』