西洋音楽史、バロックの4回目です。さて、前回は、バロック時代に誕生したオペラについて、主にイタリアにおける発展を取り上げましたが、
今回はフランスのオペラについて取り上げます。
1.宮廷バレー
16世紀末から1670年頃までの感、フランス宮廷での楽しみの楽しみは、宮廷バレー(バレー・ド・クール Ballets de cour )でした。宮廷バレーで有名なのは、リュリ Jean-Baptiste Lully《夜のバレー》Ballet de la nuit です。
宮廷バレーは、神話に由来するあらすじ、独唱や合唱、フランス風序曲、器楽曲から構成されています。なお、フランス風序曲とは、付点リズムによる緩やかな部分の後、フーガ風のアレグロが続き、最後に冒頭の緩やかな部分が戻って集結する———、という曲風です。この序曲は、リュリが1650年代から宮廷バレーの序曲として作曲し始めたました。
※付点リズム: 音符の「たま」の右に点を添えたものを「付点音符」といい、元の長さの1.5倍の長さを表します。
※フーガ fuga: 遁走曲と訳されます。対位法を主体とした楽曲形式のひとつです。同じ旋律が複数の声部に順次現れるのが大きな特徴です。
※アレグロ allegro: 音楽用語の一種。イタリア語における本来の意味は「陽気に」ですが、音楽用語としては一般に「速く」の意味で使用されます。フランスでは、舞踏が大切な教養の1つだったと言われています。というわけで、国王や貴族も、慣習的に宮廷バレーの上演に加わりました。
2.フランスのオペラ
ただ、1670年頃、国王が踊ることをやめ、宮廷バレーが衰退すると、オペラが宮廷音楽の中心になります。リュリはルイ14世の宮廷音楽の実権を手にしていたと言われていますが、王立アカデミーを設立し、オペラの独占体制を固めたと言われています。その一方、「トラジェディ・リリック」tragédie lyrique(叙情悲劇)を生み出しました。トラジェディ・リリックとは、コルネイユ Pierre Corneille 、ラシーヌ Jean Baptiste Racine の古典悲劇の朗唱法を作曲に応用し、フランス語を生かしたレシタティフ recitatif = 叙唱と、エール ayr = 歌を完成させ、これに宮廷バレーの伝統を重ねた、新しいタイプのオペラでした。
リュリのトラジェディ・リリックの代表作としては、《アルセスト》Alceste ou le Triomphe d’Alcide,《アティス》Atys,《アルミード》Armide などが挙げられます。
なお、1730年代から活躍したラモー Jean-Philippe Rameau は、《イポリトとアリシ》Hippolyte et Aricie などのオペラを作曲しました。
- バレーを用いること
- 管弦楽をイタリアよりも重視したこと
- カストラートが一般化しなかったこと
- フランス語のアクセントを重視し、朗唱法は明晰であったこと
- フランス風の序曲を用いたこと
- 歌手の名人芸的技法を追求しなかったこと
が挙げられます。
3.ロココ趣味
17世紀末には、ロココ趣味による2〜3幕のオペラ・バレーが作られました。主な作者は、
- カンプラ André Campra
- ドラランド Michel-Richard Delalande
- ラモー Jean-Philippe Rameau
特に有名なのは、
- カンプラ《優雅なヨーロッパ》L’Europe Galante
- ラモー《優雅なインドの国々》Les Indes Galantes
です。
- 《町人貴族》Le Bourgeois Gentilhomme
【参考文献】
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』