いきものがかり「ありがとう」に込められた感情の揺れ: いきものがかりのヒット曲を紐解く

ふとした瞬間に、なぜか心に深く響くいきものがかりの「ありがとう」。実は隠された音楽的な仕掛けが満載なんです。なぜ、この曲がこれほどまでに感情を揺さぶるのか、羽島亨の著書『ヒット曲は発明だ!』(2018年)を参考にしながら、その秘密に迫ってみましょう。

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楽曲概要とイントロの魅力

「ありがとう」は、Cメジャーキーを基調としながらも、楽曲全体でマイナーキーへの転調が随所に見られるのが特徴です。特に、イントロからの流れはBm7-5から始まり、暗いマイナーの雰囲気を持ちながら、すぐにメジャーに戻るという複雑な展開を見せます。このイントロ部分は、聴く者に感情の揺さぶりをかける仕掛けとなっており、羽島も指摘する通り、イントロで曲の「雰囲気」を強調することで、歌詞が始まる前にリスナーが楽曲の感情に入り込みやすくなっています。

「胸キュンコード」と感情の波

この楽曲の魅力は、ただメジャーとマイナーを行き来するだけでなく、その転調のタイミングにあります。羽島の言う「胸キュンコード」は、その名の通り、聴いている人の心を揺さぶる力を持っています。例えば、サビ部分でBm7-5からE7、そしてAmに進行する箇所は、突然の感情的な展開を生み出し、明るいCメジャーキーに戻るまでの一瞬の切なさが、楽曲に深みを与えています。

このように、メジャーとマイナーを行き来することで、曲はリスナーに喜びと切なさを同時に感じさせる複雑な感情を表現しています。この技法は、羽島によれば、特に1990年代以降のポップスに多く見られるもので、リスナーに対して強い感情的な効果をもたらすものです。

現代の恋愛感情と複雑さ

歌詞に焦点を当てると、特に「あなたを見つめるけど」というフレーズが、主人公の微妙な心情を表現しています。普通、「けど」という言葉は、否定的なニュアンスを伴うことが多いですが、この楽曲ではその後に否定が続かない点が特徴です。この「けど」は、何か不安や迷いを表しているとも解釈できますが、それは必ずしも悪い意味ではなく、恋愛における微妙な心の揺れや不確実さを反映していると考えられます。羽島は、この微妙な心の揺れが、現代の若者の恋愛感情に多く見られる特徴だと指摘しています。

メジャーとマイナーの交錯が描く現代社会

羽島はまた、メジャーキーとマイナーキーを行き来する楽曲の構造が、現代社会の複雑さや、人々の感情の揺れを反映していると述べています。SNSなどを通じて見える一見「完璧な生活」の裏には、決断の迷いや不安が潜んでおり、それがこのような楽曲の感情的な複雑さに反映されているというのです。

特に、「ありがとう」というシンプルな言葉でありながら、その裏に複雑な感情が込められていることが、この楽曲の大きな魅力のひとつです。この感情の揺れを表現するために、メジャーとマイナーを行き来するコード進行が選ばれたと考えると、曲の深みがさらに増して感じられるのではないでしょうか。

まとめ

「ありがとう」は、シンプルな言葉やメロディの中に、非常に繊細で複雑な感情を織り交ぜた楽曲です。羽島亨『ヒット曲は発明だ!』を通じて、私たちはこの楽曲の背景にある音楽的な工夫や、現代の若者たちの心情がどのように表現されているかを理解することができます。単なる恋愛ソングに留まらず、感情の揺れをも包み込むこの楽曲は、今後も多くの人に愛され続けるでしょう。

羽島亨『ヒット曲は発明だ!』(2018年)ではいきものがかり「ありがとう」がより詳しく解説されています。ぜひお買い求めのうえ、ご参考ください。

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