音楽ゲームにおける音楽性とは、どのようなものでしょうか? 恥ずかしながらいままでこの観点を持っていませんでした。音楽ブログの管理人をしておきながら、です。
今回紹介する論文、「「音楽ゲーム」は何が音楽的なのか」(山本揚平, 2024) は、音楽ゲームにおける音楽性を考察する視座を与えてくれます。この論文は、音楽ゲームのジャンルを音楽性の観点から深く掘り下げ、どのようにして音楽ゲームがプレイヤーに独特な体験を提供するのかを考察しています。
さらに、クリストファー・スモールが提唱した「ミュージッキング」(musicking)の概念を踏まえ (「〈音楽する〉とはどういうことか」(中村美亜, 2010))、音楽ゲームがいかに音楽的行為の一形態として機能するか、そしてそれが私たちの音楽体験にどのような新たな地平を開くのかを探求します。これは、音楽ゲームだけでなく、音楽を取り巻く環境全体に新たな光を投げかけるものです。
今回は山本 2024 および 中村 2010 を基に、ゲーム音楽の音楽性とその背後にあるミュージッキングのプロセスを深く掘り下げていきます。音楽とインタラクションの融合がもたらす、音楽性の新たな地平について、一緒に考えていきましょう。
音楽的行為としての音楽ゲーム
この論文は、過去10年間のゲームオーディオ研究と音楽学からの議論を掘り下げ、音楽ビデオゲームの音楽性に新たな光を当てます。著者たちは、音楽ゲームのジャンル名が示唆する「音楽的な」要素を正当化し、デジタルゲーム内での「音楽的行為」の可能性を探求することを目的としています。
音楽ゲームの分類と革新
音楽ゲームは、その音楽との相互作用に基づいて様々に分類されます。リズムに合わせる、音楽を作る、音楽をミックスする、音楽をテーマにしたゲームなど、これらがプレイヤーにどのような音楽的体験を提供するかが詳細に分析されています。特に興味深いのは、サンドボックス型音楽ゲームや伝統的なゲームプレイの境界を超えた音楽の関与です。これらのゲームでは、プレイヤーは自由に音楽を探索し、創造し、独自の音楽体験を生み出すことができます。音楽はゲームの物語進行に影響を与えたり、プレイヤーの行動に応じて動的に変化することで、ゲーム世界との相互作用を深める役割を担っています。
サンドボックスゲームと、「ゲームプレイの境界を超えた音楽の関与」
音楽ゲーム内でのサンドボックスゲームや伝統的なゲームプレイの境界を超えた音楽の関与についてもう少し詳しく説明しましょう。これらは音楽ゲームがただのリズムやメロディーの追跡から離れ、より広範な音楽的創造性や表現の場を提供していることを意味します。
サンドボックスゲーム
サンドボックスゲームでは、プレイヤーは与えられた環境内で自由に探索し、創造することができます。音楽ゲームの文脈では、これはプレイヤーが自らの音楽を作り、編集し、共有する能力を意味し、ゲームの枠組み内で独自の音楽体験を生み出すことができるのです。
伝統的なゲームプレイの境界を超えた音楽の関与
また、「伝統的なゲームプレイの境界を超えた音楽の関与」とは、音楽がゲームプレイの中核的な要素でありながらも、単にリズムに合わせる以上の役割を果たしている状況を指します。例えば、音楽がゲームの物語を進展させるためのキーとなる場合や、プレイヤーの行動に基づいて音楽が変化し、ゲーム世界とのより深い相互作用を生み出す場合などがこれに該当します。これらのアプローチは、音楽ゲームがプレイヤーに提供する豊かな音楽体験と、音楽とゲームプレイの融合に新たな可能性を示唆しています。
音楽的行為とゲームデザイン
音楽ゲームが提供する「音楽的行為」は、伝統的な音楽消費や創造とは異なる独自の体験をプレイヤーに提供します。音楽ゲームのゲームデザインでは、音楽は単なる背景や装飾ではなく、ゲームプレイの中心的な要素として機能します。このことから、音楽とゲームプレイの密接な統合が新しい創造的可能性を引き出していることが分かります。
ここまでで、「ゲーム音楽における音楽性」の概観を紹介しました。そこで明らかになったのは、音楽ゲームが、伝統的な音楽消費や創造とは異なる独自の体験をプレイヤーに提供する「音楽的行為」であるということです。
このゲーム音楽の「音楽的行為性」は、クリストファー・スモールのミュージッキングの概念に呼応するのではないでしょうか。
ゲーム音楽とミュージッキング: インタラクティブ体験が拓く音楽の新境界
音楽ゲームにおける音楽性を考えるとき、クリストファー・スモールによる「ミュージッキング」(musicking)の概念は避けて通れません。音楽を単なるオブジェクトとしてではなく、人間の行為として捉えるこのアイデアは、ゲーム音楽がどのように音楽的行為であるかを考察する上で重要な視点を提供します。ゲーム音楽は、プレイヤーに音楽を聴くだけでなく、演奏や創造に参加するインタラクティブな体験を提供します。これにより、音楽はアクティブな参加者によって体験され、ゲーム内での行動や選択によって変化し、豊かな音楽的体験を生み出します。
音楽すること: ゲーム音楽の社会的役割
中村美亜の論文「音楽するとはどういうことか」では、音楽が社会学的、実践理論的な側面を持つこと、そしてそれが「ミュージッキング」としての行為にどう関わるかが詳述されています。この文脈での「音楽する」とは、音楽を演奏する、聴く、練習する、作曲する、踊るといった、あらゆる形で音楽演奏に関わる行為全般を指します。ゲーム音楽の体験がこれらの「音楽する」行為にどう応え、またそれを拡張するかは、音楽の体験をより深く理解する上で不可欠です。
インタラクティブな音楽体験としてのゲーム音楽
ゲーム音楽が「ミュージッキング」の形態として機能することにより、プレイヤーは音楽的環境にアクティブに影響を与え、それによって音楽の体験が変化します。このプロセスは、音楽が単に受動的に消費されるのではなく、プレイヤー自身の選択と行動によって創造され、変化するものであることを示します。この観点から、ゲーム音楽は音楽と人々との関係性を探る貴重な手段となり、音楽を通じたコミュニティ形成やコミュニケーションの橋渡し役を果たします。
ゲーム音楽の音楽性とミュージッキング
スモールの「ミュージッキング」概念をゲーム音楽に適用することで、音楽がいかに社会的な行為として機能するか、また人々が音楽を通じてどのように関わり合い、コミュニティを形成していくかを理解できます。ゲーム音楽はこのプロセスにおいて、プレイヤーが自分自身の音楽性を探求し、音楽をメディアとして他者やコミュニティとの関係を築いていくための有効な手段です。この視点は、音楽とインタラクションの融合を通じて、音楽性の新たな地平を切り開くゲーム音楽の可能性を示唆しています。
ゲーム音楽における音楽性の探求は、音楽が個人の内面や身体的側面とどのように関わるかを再考する機会を提供します。このように、ゲーム音楽は「ミュージッキング」という行為を通じて、音楽と人々の間のダイナミックな相互作用の場を提供するのです。
音楽ゲームの未来への誘い
音楽ゲームというジャンルが、ただの娯楽を越えた芸術的な探求と文化的な価値を持つ領域へと進化していることは、もはや疑いようのない事実です。本記事を通じて、音楽ゲームにおける音楽性の深掘りと、「ミュージッキング」概念の適用を試みたことで、音楽とゲームプレイの相互作用がもたらす無限の可能性に光を当てることができました。音楽ゲームが好きな人もそうでない人も、この視点から新たな発見をすることは、音楽とインタラクションの未来を形作る上で重要な一歩となるでしょう。
音楽ゲームの音楽性を「ミュージッキング」の視点から再考することで、音楽が単に耳で楽しむものではなく、参加し、創造し、共有するためのものであることが再確認されました。この理解は、音楽ゲームを設計し、プレイするすべての人々にとって、音楽という媒体が提供する新しい表現の形と体験の可能性を開くものです。
音楽とゲームの融合は、単に新しい技術やトレンドに留まるものではありません。それは、音楽的行為が人々の生活の中でどのような意味を持ち得るか、そして私たちが互いにどのように繋がり合うかという、より深い問いに答えるための手段です。音楽ゲームは、この探求の旅において重要な役割を担っています。