昨年 2014 年にブランド復活したテクニクス.
復活以降は, CDプレイヤーやアンプ, スピーカーなどのラインナップでしたが, 本日 9 月 3 日, ターンテーブルを開発中であることが発表されました.
テクニクスのターンテーブル, 特に SL – 1200 は, DJ 用ターンテーブルとして長らく不動の地位を築いています. 2010年の生産完了のニュースには, DJ・クラブ界隈から多くの惜しむ声が寄せられました.
あれから 5 年. パナソニックが後継機とともとれるターンテーブルを展示したり ( 「展示」以降, 情報がよくわかってないんですが ),
先日も Numark が SL – 1200 にそっくりの製品を発売というニュースが入ったり,
しましたが, ここにきてようやく本命登場というところでしょうか.
ただ, どうやらゼロベースでの開発のようで, SL – 1200 の再生産というわけではなさそうです. どうなんでしょう, そこのところ.
次世代のスタンダードになるのかどうか. 注目させられますね.
ところで, ふだんから DJ やクラブカルチャーに親しんでいる音楽ファン以外にとって, なぜこんなアナログ・ターンテーブルが発売されるくらいで話題になるんだ, みたいなところがあるかもしれません.
そこでこのエントリーでは, 簡単に楽器としてのターンテーブルの歴史を簡単に振り返りたいと思います
1. ターンテーブリスト
一口に DJ といってもそのスタイルは様々ですが, DJ の花形といえば, バトル DJ とも呼ばれるターンテーブリストではないでしょうか. 矢継ぎ早にスクラッチ, 2 枚使いを繰り出すそのプレイはまさにターンテーブルを楽器として扱っていると言っても過言ではありません. いやてか, これひさしぶりにみたけどやべーわ.
以上の 2 つは, ターンテーブリストの大会, DMC Worldchampionship で優勝した 2 人の日本人の動画です. DJ Kentaro の方はまだ PCDJ の普及する以前もので, これぞ DJ ! という感じです. が, PCDJ を使っている DJ Izoh の方も, まさにターンテーブルでしか演奏できない音楽になっています.
2. ヒップホップ以前
このような DMC で競われているようなターンテーブリストは, ヒップホップの文脈が出自です. この点については後にみてくとして, まずは西洋伝統音楽 = ( いわゆる )クラシックにおいてターンテーブルを使った例から紹介します.
ヒップホップという文脈を切り離せば, 楽器としてのターンテブルの仕様の起源は, 1930 年 〜 40 年代, そして 50 年代に遡ることができます. 当時は使用していたのは, ミュージック・コンクレートなどの実験音楽の作曲家 ( John Cage, Halim El-Dabh, Pierre Schaeffer など ) です. たとえばケージの「Imaginary Landscape No. 1」( 1939 )という作品は, 2 つの異なるスピードのターンテーブルとミューテッド・ピアノ,シンバルによって作曲されています.
また, Edgard Varèse は1930年代前半にターンテーブルによる実験をしましたが, まとまった形には残していません.
しかし前述の通り, こうした 1930年代 〜 50 年代にかけてのターンテーブルを使用した実験音楽は, 直接いまの「ターンテーブリスト」に影響を与えているわけではありません ( こうした実験音楽に影響を受けているのは, Christian Marclay, Philip Jeck, Janek Schaefer, 大友良英などでしょう ).
ヒップホップ登場以前のターンテーブルを楽器として使用したポピュラー音楽の例としては, 60 年代にもみることができます. たとえば Creedence Clearwater Revival が 1968 年に発表したデビューアルバムでは, 「バックスピン」というターンテーブリストの技を確認できます.
3. ヒップホップ黎明期
現在の「ターンテーブリスト」のルーツは, やはり 1970 年代後半, ヒップホップにあります.
ターンテーブリストという呼称が登場する以前, すでに Kool DJ Herc, Afrika Bambaata, Grandmaster Flash といったヒップホップ DJ, プロデューサーは, 「 DJ 」という「楽器」担当で楽曲にクレジットされていました.
( 諸説はありますが, というかこういうのに諸説はつきものですが, もっとも流布している説として, ) Kool Herc の発明である「ブレイク・ビーツ」は, 一般的にヒップホップの歴史において重要な発展だとみなされています.
これは現在のいわゆる 2 枚使いの源流で, 同じレコードを 2 枚用意し, 同じ曲の同じ部分を繰り返し流すという技です. たとえばお祭りとかで太鼓が同じリズムどんどこ繰り返したり神輿を同じリズムでわっしょいしたりして盛り上がったりする, ていうのを, レコードで演奏するわけです.
ブレイクビーツの発明は確かにヒップホップの発展に大きな影響を与えましたが, しかしそれ以上に重要なのは, DJ が「次から次へ別の曲をかけない」という点にあります. 従来の DJ というか, ふつういまでも DJ というと, ある楽曲の次に別の楽曲をスムーズに途切れ目なくつなげる = 「ミックスする」ことがその役割で, それはそれで全く正しいのですが, 一方で同じ曲の同じパートを繰り返しかける, この点に DJ スタイルとしてのブレイクビーツの新しさがあったと言っていいでしょう.
Kool Herc の発明したと言われるブレイクビーツをさらに発展させたのが Grandmaster Flash ですが,
その弟子の Grand Wizzard Theodore は, 現在のターンテーブリストにとってさらにさらに重要な歴史的位置を占めています. つまり, 「スクラッチ」の発見です.
彼は曲を止めるためにレコードの上に手を置いていたところ, 母親に大声で呼ばれた際にアクシデント的に手を前後させてしまい, スクラッチを発見した…, てホントかよ笑 らしいのですが,
この発見はアクシデントでしたが, Wizzard Theodore の発見を大々的に広めたのは Flash でした.
これ以降, 1980 年代のあいだにスクラッチはヒップホップ・ミュージックになくてはならない存在になり, レコーディングやライヴで頻繁に使用されるようになりました.
4. ターンテーブリストの登場
ターンテブリストが, ヒップホップ・グループ以外から現れるようになるのは, 90 年代に入ってからです. これには, レコーディング・テクノロジーの発展とともに, 「MC と対等な立場としての DJ」というヒップホップ DJ の在り方が変化していったことが関係しています.
- Tricia Rose, Black Noise: Rap Music and Black Culture in Contemporary America (Music / Culture) ( 2014 )
90 年代中盤になると, ヒップホップ・グループ出身ではない DJ が, ターンテーブルとミキサーを操作し音楽を創り出すようになりました. このときに「ターンテーブリスト」という呼称も生まれたと言われています.
ターンテーブリストという呼称の由来については, DJ Disk が使い始めたという説, あるいは DJ Babu だという説, あるいは DJ Supreme だという説などなど,
諸説ありますが, アメリカ西海岸が発祥であることは間違いないようです.
- Doug Pray’s SCRATCH ( 2001 )
- ウルフ・ポーシャルト「DJカルチャー―ポップカルチャーの思想史」( 三元社, 2004 )
と, ここまでくると, 90 年代になるとかなり前出の Kentaro や Izoh に近いプレイスタイル, ていうかもう楽器だろ, リズムともメロディーとも違う音楽を演奏するターンテーブルという楽器だろ, ということがだとおわかりいただけるかと思います.
このように, その発明以来, 実験音楽という前例期を経てそこから断絶したヒップホップというポピュラー音楽の一要素, そして独立したジャンルへと「ターンテーブリスト」が登場するまでのあいだ楽器としての立ち位置をしっかり確立してきたターンテーブル. その歴史を大雑把にざっくりはしょってゆるーく紹介してましたが, テクニクスの新しいターンテーブルがこのカルチャーにどう影響を与えるのか, あるいは与えないのか. 非常に楽しみです.