特集 = ブーレーズ: その音楽観を知るための 15 のキーワード ( 1 )

2016 年 1 月 5 日に, 90 年の生涯を閉じたブーレーズ.

ブーレーズの生涯や作品の解説などは他の web メディアにゆずるとして,

本サイトではあらためてブーレーズの音楽観を知るために, 現代音楽に関する 15 のキーワードを挙げ, それに関するブーレーズ自身の文章や, ブーレーズへの論評を集めました.

全 3 回を予定している 1 回目の今回. キーワードは, 「連続性/非連続性」,「偶然」, 「開かれた形式」,「電子音楽」「具体音楽」です.

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連続性/不連続性

連続性/不連続性は, 音楽において興味深い問題のうちの 1 つです. クセナキスは連続性/不連続性について, 「人間は不連続な存在である」「連続した動きを想像しようという試みは, 我々の知覚と判断をめぐる永遠の課題である」と述べています ( Arts-sciences alliages, 1979 ) が, ブーレーズは,「直流」という言葉を用いて, 次のように述べています.

「音楽家は, 初めて, 直流の概念に向き合った. この直流というものが, 音高の持続についてだけでなく, 音価や強弱, さらには——— 最も驚くべき現象として——— 音色の持続について, 音楽家の注意を引き出したということを, はっきり述べておくべきだろう」

Releves dapprenti , 1966 (『ブーレーズ音楽論: 徒弟の覚書』) )

偶然

シュトックハウゼンの「ピアノ曲 ⅩⅠ」と, ブーレーズの論文「アレア」( 1957 )によって, 1955 年頃に生まれた表現. 偶然性の音楽では, 基本図式が演奏者に提示され, 演奏者はそこから着想できる解決法を選ぶことができる.

ブーレーズは「アレア」において, 次のように述べています.

「作品がある程度の堅牢さを獲得するためには, もちろん合理性が必要ではあるが, 音楽創作にはいかなる瞬間にも驚きや「気まぐれ」が含まれているべきだ」

「人が必死に熱烈にたゆまず寸分の隙もなく素材を支配しようと努力していると, 偶然も必死に存続し, 塞ぐことのできない幾千の抜け道をくぐりぬけるのだ・・・. 「然り!」しかし, この偶然性を汲み尽くすことこそ作曲家の最終的な計略ではないのか? なぜ, この潜在的可能性を飼いならし, この潜在的可能性が弁明し始め, 説明し始めるようにはしむけないのか?」

「いずれにせよ弱さや安易さをもって偶然を採用したり, 偶然性に身を任せたりするのは放棄の一形式である. 放棄に賛同するとしたら, 創造される作品の持つあらゆる特権的な位置やヒエラルキーが否定されることになるだろう. それなのに, いったいどんな場面で作曲と偶然が両立するだろうか?」

ここからは, 音楽における「偶然」について, 相反する, あるいは慎重な考え方が読み取れます. つまり, 音楽を営むうえで偶然は決して逃れられない, しかし, 弱さで・安易に偶然性に身を任せてはいけない———, いわゆるクラシックや現代音楽のようないわゆる「お高い」音楽以外にも, あてはまる考え方ではないでしょうか.

開かれた形式

偶然性に関連し, 「開かれた形式」という考え方においてブーレーズがどのように論じられているか, フランス国立科学研究センター主幹で国営放送局プロデューサー, Jean-Yves Bosseur, VocabuLarie de la Musique Contemporaine (『現代音楽を読み解く 88 のキーワード』) からみてみましょう.

「P. ブーレーズや K. シュトックハウゼンのような作曲家は, モビール形式の問題を, 結合が当初から決定的な役割を果たすセリー技法の論理的な延長上に捕らえている. したがって, ある形式を指定したり変装したりする方法の複数性は, 演奏者からみると, 複数の気道の選択肢と言い換えられる. しかしながら, たとえば P. ブーレーズの「ソナタ第 3 番」( 1957 ), や K. シュトックハウゼンの「ピアノ ⅩⅠ」( 1957 ) といった, 初期の様々なモビール形式の作品群では, 作り手の責任は, もはやまったく問題として取り上げられることなく演奏者に引き渡されている. こうした作品には果てしなく多様な実施形があり, どの実施形にも明確な質が確保されている. あらかじめ綿密に輪郭をとって限定された, いくつかの可能性の編み目に沿ってさえいれば, 行程は自由である」

電子音楽

電子音楽は, その誕生当初, 自然界の音も伝統的な楽器の音も真似ていない音の, より拡大された音階をつくるための方法として着想されました. ブーレーズは電子音楽の誕生に関して,「音楽家が「音自体を想像する」というかつてない状況に直面している」としたうえで, 次のように述べています.

「その素材に含まれている内部構造の諸特性ゆえに, その素材を選択するのである. 演奏つまりレアリゼーションが最も重要になるとき, 作曲家は, 作曲家兼演奏家になる, 音楽家はある意味で画家になる. つまり, 彼は自分のレアリゼーションの質について直接的にふるまうのだ」

Releves dapprenti , 1966 (『ブーレーズ音楽論: 徒弟の覚書』) )

いまの DTM における, トラックメイキング ≒ 作曲からミックス・マスタリングまでの行程をイチ個人がすべて引き受けるような状況を, 電子音楽黎明期当時に, すでに予見しているかのような内容です.

具体音楽

具体音楽はピエール・シュフェールが RTF で具体音楽のグループを結成した1948 年に始まりました. 最初は, あらかじめ存在する鳴り響く素材であればなんでも, 借用して加工する, というのが, 具体音楽の考え方でした. しかし P. シュフェールが重要としたのは, 次の 2 点にあります. つまり, ( 1 ) はじめから音楽用につくりだされたあらゆるものに反対すること, そして, ( 2 ) 伝統的な作曲書法やソルフェージュといった作曲家の抽象的判断・プロセスではなく音の経験の具体的把握でした.

ブーレーズは, 具体音楽という電子音響的方法は, 音楽語法の一部に組み込まれる必要があるとしたうえで, 次のように述べています.

「しかしながら, 「具体」という言葉から, 今日の問題をいかに粗雑なやり方で検討したかがわかる. つまり, 「具体」という言葉は響く素材の加工を定義しようとしているのだが, この響き自体はいかなる定義にも対応しておらず, はじめから制限不能であるという問題だ. 素材はこうした冒険においては何よりもまず大切なのに, 誰も素材に注意を払わない」

「響きの素材を取捨選択していく場合に統制的思考が働かなければ, 作曲がどんなに良いものであっても, 無秩序な有害さが必ず伴う. 作曲にふさわしい音楽的素材は, 充分に混合可能で, 変形可能で, 弁証法を生み出し, かつ弁証法を支持するものでなければならない」

「この最も重要な手続きを拒否するなら, 我らが「具体音楽の音楽家たち」は責められ, 排斥されるだろう」

(  Releves dapprenti , 1966 (『ブーレーズ音楽論: 徒弟の覚書』) )

次回はコチラ.

特集 = ブーレーズ: その音楽観を知るための 15 のキーワード ( 2 )
2016 年 1 月 5 日に, 90 年の生涯を閉じたブーレーズ. ブーレーズの生涯や作品の解説などは他の web メディア...

【参考文献】

  • ピエール・ブーレーズ ( 船山 隆・笠羽 映子 訳 )『ブーレーズ音楽論―徒弟の覚書』( 晶文社, 1982 )
  • ジャン=イヴ・ボスール ( 栗原詩子 訳 )『現代音楽を読み解く 88 のキーワード』 ( 音楽之友社, 2008 )
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