大人になると、新しい音楽を聴かなくなるという説があります。この「大人」というのが、何歳からかは、たとえば 28 歳とか、36 歳とか、諸説ありますけど、とにかく、歳を取ると、10 代の頃に聴いていた音楽ばかり聴くようになって、新しい音楽は聴かなくなる、と。それは半分は当たってますよね。だって、新しい音楽と言われたって、どれも、10 代の頃に聴いていた音楽の焼き増しに聴こえてしまうから。特に、音楽を真剣に聴いてきたリスナーに顕著な現象だと思います。新しく、注目される作品を聴いても、「あ、これが元ネタだな…」、みたいなのが耳についてしまう。だから、本当の意味で、自分にとって新しく、かつ、カッコいい音楽になかなか出会えなくなる。出会えるまでは、自分にとって慣れ親しんだ音楽を聴いておこう… そうして、だんだん、新しい音楽へのアンテナが鈍ってしまって、やがて、新しい音楽を聴かなくなってしまう。それが、28 歳だったり、36 歳だったりする。
しかし、めげずに、しつこくしつこく、新しい音楽がないか、探しているうちに、たまに「あ、これだ!」ていう音楽に出会える瞬間というのがあるんですよね。
そういう作品は、たいてい攻めてる。ポピュラー音楽の体をなしているのかなしているのか、よく分からないまま、楽曲が進んでいき、でも、楽曲の終わりに近づくに連れ、「これは確かにポピュラー音楽なのだ」とはっきり認識できるようになる、そういったギリギリのラインを攻めてくる。いわばポピュラー音楽の境界を探す冒険で、ふつうはそんな冒険はしたくない。そんな冒険をしたところで、境界に気付かずにポピュラー音楽の枠から転げ落ちてしまうのが関の山で、境界を探り当て留まる芸当を成し遂げられるのは稀だから。
でも、リスナーはそれを望んでるし、そういうのを聴くと気持ち良いんですよね、単純に。境界の音楽を聴くのが。それで、なかなかないわけですけど、そんな音楽は。年に 1 度か 2 度か、多くても片手で数えられる、それくらいの頻度でしか出会わない…、ていうのが、Moses Sumney『græ: Part1』。
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アルバム情報
- タイトル: 『græ: Part1』
- ミュージシャン: Moses Sumney
- リリース: 2020 年 2 月 21 日
Moses Sumney『græ: Part1』トラックリスト
- Insula
- Cut Me
- In Bloom
- Virile
- Conveyor
- Boxes
- Gagarin
- Jill/Jack
- Colouour
- Also Also Also and and and
- Neither/Nor
- Polly
ソウルを基盤に、可能的なポピュラー音楽を領域をぐいぐい広げて、境界を顕にする、現時点で最もスリリングな作品。聴きましょう。