日本人なら一度は聴いたことがあるだろうわらべうた「はないちもんめ」。子供の頃に遊んだことがある方も多いのではないでしょうか。では、この「はないちもんめ」が地域ごとに異なる特徴を持っていることはご存じですか? 今回は、わらべうた「はないちもんめ」の地域的特徴とその意義について、詳しく解説した学術論文・本野洋子「わらべうた『はないちもんめ』の地域的特徴の比較から見えてくるもの」(2024)をもとに紹介します。
わらべうた「はないちもんめ」の地域的特徴の比較
本論文で本野は、各地域で遊ばれていた「はないちもんめ」の旋律、歌詞、リズムを比較し、現代におけるわらべうたの意義や今後の方向性について検証しています。
研究の背景と目的
わらべうたの「はないちもんめ」は、日本各地で異なる形で伝承されています。研究者たちはこのわらべうたの特徴を調査し、地域ごとの違いを明確にすることで、現代におけるわらべうたの意義を見直し、保育や教育の現場での適切な取り組み方を探ることを目的としています。
研究方法
本研究では、浅野ほか監修『日本わらべ歌全集』および尾原編著「日本のわらべうた 戸外遊戯歌編」に掲載されている「はないちもんめ」の旋律、歌詞、リズムを抽出し比較しました。全国で32曲の「はないちもんめ」を分析し、地域ごとの特徴を明らかにしました。
各地域の「はないちもんめ」の特徴
調号と終止音
分析の結果、23曲(72%)がG(ト長調)で示されており、特に中部地方では7曲すべてがG(ト長調)でした。関東ではG(ト長調)とC(ハ長調)が混在し、中国・四国地方ではF(ヘ長調)やD(ニ長調)も見られました。終止音については、A4が24曲(75%)と多く、G4やD5も一部の地域で見られました。
拍子
拍子については、2/4拍子が24曲と圧倒的に多く、近畿や中国・四国地方では6/8拍子も見られました。4/4拍子は少数で、北海道・東北、中部、九州でそれぞれ1曲ずつ確認されました。
メロディとリズム
「勝ってうれしいはないちもんめ」と「負けてくやしいはないちもんめ」の部分のメロディとリズムも地域ごとに異なり、特に近畿地方では「もんめ」の部分が同じ音の連続で歌われる傾向がありました。一方、関東や東北、九州では「n」の音が「mo」よりも1音下がり、「me」で再び1音上がるパターンが見られました。
現代のわらべうたの標準化と地域性の消失
標準語化の影響
本論文では、現代のわらべうたが標準語化されつつあることへの懸念が示されています。メディアの影響や教育現場での指導方法により、地域ごとの特色が失われつつあるという指摘です。例えば、大阪では高齢者が小さい頃に歌っていたわらべうたと、現在の子供たちが歌うわらべうたには違いがあり、標準語アクセントが主流になっているとのことです。
保育や教育現場での意義
わらべうたの地域性を生かすことは、子供たちが自分の住んでいる地域に対する愛着を育むうえで重要です。地域の方言や特色を取り入れたわらべうたを保育や教育現場で取り入れることで、子供たちの創造性や地域への愛着を育むことができます。
今後の課題と方向性
実際の保育・教育現場での調査
本論文では、今後の課題として実際の保育・教育現場でのわらべうたの使用状況を調査することが挙げられています。わらべうたがどの程度取り入れられているのか、またどのように指導されているのかを調べることで、より効果的な指導方法を模索する必要があります。
保育者養成校での指導
さらに、保育者養成校でのわらべうた指導に関しても研究が必要です。学生たちに地域の伝統文化としてのわらべうたの重要性を教え、実際の保育現場でどのように子供たちに伝えるかを学ばせることが重要です。
まとめ
わらべうた「はないちもんめ」の地域的特徴を分析した本論文は、わらべうたの持つ地域性とその意義を再確認するものでした。わらべうたは単なる遊び歌ではなく、地域の文化や子供たちの創造性を育む重要な役割を果たしています。現代の標準化されたわらべうたに対して、地域性を生かした取り組みを保育や教育の現場で進めていくことが求められます。
わらべうたを通して、子供たちが地域の文化に触れ、愛着を持つことができるよう、保育者や教育者はその重要性を理解し、適切な指導を行っていくことが必要です。今後もわらべうたの研究が進み、子供たちにとってより豊かな文化体験が提供されることを期待します。