古代ギリシア音楽(4)ギリシアの音楽理論家: ピュタゴラス

西洋音楽史の出発点、古代ギリシアについての4回目です。さて、前回まででムーシケー μουσικη という考え方から始まり、叙事詩、抒情詩、ギリシア悲劇と、古代ギリシアにおける音楽作品についておおまかに取り上げました。

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今回からは、古代ギリシアにおける音楽理論についてみていききましょう。先ずは前6世紀に活躍したと言われるピュタゴラス Πυθαγόρας ( 紀元前582年 – 紀元前496年 )です。

古代ギリシアにおける音楽理論の出発点は、ピュタゴラスにあると言われています。現在では、三平方の定理が「ピュタゴラスの定理」と呼ばれたりするので、数学者として有名かもしれません。一方でピュタゴラスは、音楽理論家でもありました。

ではピュタゴラスは、数学者かつ音楽理論家だったのか、というと、正確にはそういうわけではありません。彼は言わば「思想家」であって、数学と音楽理論が彼の思想の非常に重要な位置を占めていた、しかも、この2つは密接に関連していた、といったところでしょう。

また、現在まで残っているピュタゴラスの思想は、ピュタゴラスただ1人によってのみ考えだされたわけではありません。彼はオルフェウス教という宗教の、魂の輪廻の思想を信じ、南イタリアのクロトン周辺で宗教的秘密結社を組織していて、この言わばピュタゴラス教団、もしくはピュタゴラス派といわれる人々の思想が、現在まで伝えられていると言われています。

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「数」と協和音

結成された当初の初期ピュタゴラス派は、万物の根源を「数」だと考えていました。

音楽に関連した思想としては、彼らは、協和音を作る弦の長さが、

  • オクターブ(例えば、「ド」と「上のド」) = 2対1
  • 5度(例えば、「ソ」と「ド」) = 3対2
  • 4度(例えば、「ファ」と「ド」)= 4対3

という単純な整数比になっていることを発見していました。

なお、「ド」「ソ」「ファ」というのは、現代の初歩的な音楽理論において最も基礎的な音として、重要視されています。

このような音楽理論的考察は、ピュタゴラス派が解体されて以降も、

  • ヒッパソス(前5世紀前半)
  • フィラオス(前5世紀後半)
  • アルキュタス(前4世紀前半)

らに継承されました。

天体の音楽

初期ピュタゴラス派の人々にとって、「数」は単に計算に使われる数ではありませんでした。前述の通り、「数」は「万物の根源」であり、言い換えれば、すべての存在の諸原理あり、さらには宇宙全体の構造原理でした。端的に言うと、宇宙は数からできている、ということです。

「宇宙は数からできている」、という思想は、音楽とは音程関係だけではない、という考え方へつながります。つまり、「協和音を作る」「単純な整数比」(2対1、3対2、4対3・・・)を、宇宙がどのようにできているかの説明へ応用し、宇宙の秩序・調和を音楽として考えました。このような考え方は、「天体のハルモニア」と呼ばれています。つまり宇宙は、「宇宙の音楽」という音楽を奏でているというのです!

魂の音楽

初期ピュタゴラス派の人々は、宇宙の調和を音楽として考えましたが、同様に、人間の魂の調和もまた音楽的状態として考えました。

彼らは、そもそも宇宙が「単純な整数比」によって成立しているのであれば、人間が実際に耳にしている「音楽」は、宇宙の真似をしていると考えました。そして人間は、調和のとれた宇宙の真似をしている音楽を通して、天体のハルモニアを魂のなかに同化し、そして浄化することができるのです。

このような考え方は後に、「エートス論」と呼ばれる問題へとつながっていきました。

次回は「古代ギリシア(5)ギリシアの音楽理論家———プラトン」です.

参考文献

  • 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
  • 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
  • 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
  • 山根銀ニ『音楽の歴史』

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