Angine de Poitrine(アンジーヌ・ドゥ・ポワトリーヌ)徹底解説——仮面のマス・ロック・デュオが世界を席巻するまで

2026年2月、インターネット上の音楽コミュニティに一本の動画が投下されました。映っているのは、白黒水玉模様のコスチュームを身にまとい、巨大なパピエ・マシェ(張り子)マスクで顔を完全に隠した2人組。片方は変則的なダブルネック・ギターを奏でながら、素足のつま先でループペダルを操作し、もう片方は怒涛のドラムを叩き続けます。

投稿から一週間で200万回以上再生されたこの動画をきっかけに、カナダ・ケベック州発のロック・デュオ Angine de Poitrine(アンジーヌ・ドゥ・ポワトリーヌ) は、一夜にして世界規模の現象となりました。4月現在、KEXPへの動画再生回数は600万回超(一部報道では900万回近くとも)。Dave Grohl(Foo Fighters)が「完全に頭おかしい、最高だ」と絶賛し、ニューヨーク・タイムズが謎に迫る特集を組み、ツアーチケットは即完売——転売チケットは500ドル超まで高騰しています。

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音楽はなぜ、理解するより先に「効く」のか?: リコ・グラウプナー「物語を追い越す音」を読む

あなたにも、こんな経験はないでしょうか。はじめて耳にした曲なのに、気がつくと涙が滲んでいる。歌詞の意味もわからない外国語の音楽なのに、胸の奥が締め付けられる。あるいは逆に、理屈のうえでは「素晴らしい音楽だ」とわかっているのに、何も感じない。

音楽と私たちの感情の関係は、一見わかりやすそうで、じつはひどく謎めいています。「感動する曲には深い意味がある」「歌詞に共感したから泣けた」――そういった説明は直感的には納得しやすいものです。しかし本当にそうなのでしょうか。意味を「理解する」ことが、感動の原因なのでしょうか。

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リディアン・クロマティック・コンセプトはカルトなのか?

X(旧Twitter) で、酩酊状態でさささっとポストした内容に、菊地成孔さん(以下、直接の知り合いでもないのに「さん」付けはなれなれしいかな、と思い、菊地氏と表記します)からリプライをいただきました。

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Dilla Beat(Drunk Beat)理論化の歴史: グルーヴ感覚から数値へ

最近、Dilla っぽい Beat の作り方を教える機会がありまして、ただ、その作り方というのも、自分が 2012 年頃だか 2013 年頃だかにちょろっと小耳に挟んだものを、ずっと「そういうもんなんだな」と思って実践している内容で、それが本当に理論的に大勢の支持を得ているのかどうか、というのが、自分のなかでは疑問でした。

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音楽における主体性とは何か?: AI 時代のライブコーディングから考える

AIと音楽の融合は、我々の創作活動にどのような可能性をもたらすのか。その中でも「ライブコーディング」という即興性と技術が融合した音楽パフォーマンスの実践において、人間と機械の役割はどのように変化しつつあるのだろうか。

Anna Xambó & Gerard Roma「Human–machine agencies in live coding for music performance」(2024)によれば、ライブコーディングは、人間と機械が音楽制作の過程で協力し合う一つの舞台を提供する。この研究では、ライブコーディングにおける人間と機械のエージェンシー(主体性)の関係性を掘り下げ、その特性を明らかにしている。

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19 世紀における音楽の科学的分析: ヘルムホルツ、ウェーバー、シュトゥンプフが解き明かしたモーツァルト

音楽を「聴く」という行為は、私たちにどのような知識や感覚をもたらすのでしょうか? また、それを「分析」することで、作曲者の意図や楽曲の構造をより深く理解することができるのでしょうか?これらの問いは、音楽愛好家だけでなく、音楽学者や哲学者にとっても長年のテーマとなってきました。

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ファスト教養をファスト哲学でファスト批評: レジー『ファスト教養』書評

話題になってたし、読んだ、ていうか、オーディオブックで聴けるようになってたから聴いてみたいのですが。

三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んだときもそうだったけど、このあたりの文筆家のものは自分は読まなくていいのだな、とというのが感想。

「ファスト教養」を槍玉にあげる本書が、ファスト的な読み物・内容なので、どうもそのあたり、読みながら違和感しかありませんでした。

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民族音楽の保存と普及戦略: デジタル技術と地域コミュニティ

「民族音楽」と聞いて、皆さんはどのような音楽を思い浮かべるでしょうか?アフリカの太鼓の響き、インドのシタールの繊細な音色、あるいはラテンアメリカの情熱的なリズムが頭に浮かぶかもしれません。民族音楽は、特定の文化や共同体に根ざした伝統的な音楽であり、単なる音楽的表現を超えて、その地域や文化のアイデンティティや歴史を反映するものです。しかし、現代のグローバル化や文化の均一化が進む中で、民族音楽はどのように保存され、その価値を伝えていくべきなのでしょうか?

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AI 時代における新しい音楽と、音楽学

近年、AI(人工知能)による音楽生成が飛躍的な進化を遂げています。特に、ディープラーニング技術の発展により、AIは膨大な音楽データを学習し、楽曲の作成やアレンジを人間が驚くほど自然な形で行う能力を獲得しています。その結果、「AIが作曲家の仕事を奪うのではないか」という懸念が、音楽業界や社会全体で広がりつつあります。しかし、この懸念がどこまで現実的で、どのような本質的な課題を示しているのかについては、深い議論が求められています。

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音楽はなぜ心を動かすのか?: 脳科学が解き明かす感情の秘密

私たちが日々耳にする音楽には、心を揺さぶる特別な力があります。喜びに包まれるような楽曲、あるいは悲しみに寄り添うメロディに触れたとき、私たちの心はさまざまな感情で満たされます。こうした音楽と感情の結びつきは、単なる感覚的な現象にとどまらず、実際に私たちの脳内で具体的なプロセスを伴っています。

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