ルネサンス音楽(2)ブルゴーニュ楽派

西洋音楽史、ルネサンスの2回目です。今回から具体的にルネサンス期の西洋音楽を取り上げていきます。

目次

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ブルゴーニュ公国

15世紀の新しい音楽様式が作られていくにあたり、中心的だったのがブルゴーニュ公国 État bourguignon だったと言われています。ブルゴーニュ公国は初代フィリップ大胆公が1364年にフランス国王シャルル5世からブルゴーニュ公爵領受領したときから始まります。

その後、歴代の公爵たちにより領土が拡大されました。特にフィリップ善良公とシャルル大胆公は芸術を厚く保護し、ヨーロッパ各地から優れた芸術家たちがブルゴーニュ公国に集まりました。こうしてブルゴーニュ公国は、国際的な音楽様式が生まれる条件の整うことになったのです。

ただし、ブルゴーニュ公国だけが、15世紀における音楽的国際化の舞台だったわけではありません。当時の音楽家たちは、特定の場所で障害を送るよりも、ヨーロッパ各地(特にフランスやイタリア)の宮廷や礼拝堂を渡り歩くことが多かったと言われています。

国際的な音楽様式

既に何度か言及しましたが、15世紀の西洋音楽は「国際的」だと言われています。というのも、中世以来のヨーロッパにおける、音楽的に主要だった国々の特徴が統合されたからです。

つまり、

  • フランスの高度な作曲技法
  • イギリスの3度、6度を多用するやわらかな三和音の響き
  • イタリアの優美な旋律を追求する姿勢
といった要素が融合され、中世とは異なるルネサンス特有の音楽が誕生したと言われています。

デュファイ

このような国際的な様式の音楽を発表した、そしてブルゴーニュ楽派を代表する音楽家が、デュファイ Guillaume Dufay です。

デュファイの発表した主要なジャンルは、ミサ曲、モテット、シャンソンで、特にミサ曲に彼の音楽様式の特徴が表れます。

また彼のミサ曲では、「循環ミサ曲」と呼ばれる構造をもったものが重要だと言われています。

「循環」という用語は、ミサ通常文を構成している5つの各章において、同一の音楽的要素が繰り返し用いられていることを意味しています。ただし、ミサ通常文の各章は、実際の典礼にて通して歌われることはありません。ミサ固有文の旋律などによって各章は分断されてしまうからです。

このように、分断されるにもかかわらず、ミサ通常文を音楽的に統一感のあるものにしよう、といった創作態度には、音楽を独立した芸術として考え始めたルネサンス音楽家の姿勢が表れていると言われています。

循環ミサ曲

循環ミサ曲における音楽的要素のなかで最も重要なのは定旋律です。定旋律とは、ミサ曲の場合には各章において繰り返し用いられる旋律を指しますが、自分で作曲したものよりも、既存の楽曲(特に世俗曲)からの借用が多かった。

定旋律は主として、テノールのパートに比較的長い音符で配置されることが多い。これはオルガヌム以来の伝統です。この定旋律を作品の支柱とし、そこに新たに作られた他の3声の旋律を自由に絡み合わせていく———、このようにして作られたミサ曲は、「定旋律ミサ曲」あるいは、「テノール・ミサ曲」と呼ばれています。

曲名の由来

当時のミサ曲は、曲名によって、用いられている定旋律や作曲の基礎になっている手法が分かるものがたくさんありました。例えば、
  • 《ロム・アルメ》 L´Homme Armé
  • 《もしも顔が青いなら》Missa Se la face ay pale
  • 《第1旋法による》
  • 《無題》
といった曲名が付けられていました。

各声部の名称

15世紀中頃の多声音楽では、4声部が最も一般的な構成になりました。各声部の名称は、

  • スペルウス・・・「さらに上の」声部。旋律の動きが豊かな最上声部。
  • コントラテノール・アルトゥス・・・テノールに対して「高い」声部。スペリウスに次いで旋律の動きが目立つ
  • テノール
  • コントラテノール・バッスス・・・テノールに対して「低い」声部。全体的な響きを支える役割を果たす。

が使用されるようになりました(なお、スペルウスはカントゥス(「歌」「旋律」という意味)、ディスカントゥス(最高声部という意味)と呼ばれることもありました)。

以上のように、スペリウスとアルトゥスには、現在のソプラノとアルトのような女声パートといった意味はありませんでした。同様にテノールとバッススにも、男声パートといった意味ではありませんでした。

参考文献

  • 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
  • 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
  • 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
  • 山根銀ニ『音楽の歴史』


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