前回のエントリーから、以前から学習していた西洋音楽史について、本サイト上でまとめることにしました。
さて、西洋音楽史を具体的に追う前に、そもそも音楽の歴史の始まりはどこに求められるか、つまり、「音楽の起源」について、音楽学的にはどのように考えられてきたかを取り上げてみたいと思います。
18世紀末: キリスト教的見解への反対
音楽の起源についての考察は、18世紀末まで遡ることができると言われています。この当時活躍していたルソーやヘルダーによると、「音楽は人間に由来する」ものです。これは現代では当然のことと考えられますが、当時はキリスト教的見解である「音楽は神より人間に授けられた」が主流であり、これへの反対意見として提唱されたものです。ルソーやヘルダーの提唱した音楽起源論は、現在では「言語起源説」、つまり、音楽の起源は「言語」であると呼ばれています。
19世紀後半: 本格的な「起源論」の展開
19世紀後半には、様々な音楽起源説が論じられるようになりました。
- 言語起源説(スペンサー)
- 感情起源説(ヴント)
- 恋愛起源説(ダーウィン、イェスペルセン)
- 魔術起源説(コンバリュー)
- 労働起源説(ビュヒャー、エンゲルス)
- 信号起源説(シュトゥンプ)
- リズム衝動起源説(ワラシェク)
などです。これらの各説について詳細に検討することはしませんが、しかしこれらのいずれも、実証的・科学的裏付けがあるとは言えず、想像の域を出ないと言われています。
20世紀: 民族音楽学の登場
19世紀の実証的・科学的裏付けのない「起源説」に対し、20世紀には民族音楽学(比較音楽学)が登場しました。最も有力な見解を打ち出したのがクルト・ザックスです。
- クルト・ザックス『音楽の起源』
ザックスは、実証的・科学的裏付けのない起源論ではなく、資料を客観的に検討し、自然民族における音楽現象を研究することで、音楽の起源を追究しました。彼は音楽の起源、というか最も「原初」的な様式として2つを挙げています。
(1)「言語起源的」な様式(抑揚をつけて言葉を唱えることから始まった)
(2)「感情起源的」な様式(形にとらわれず感情をほとばしらせることから始まった)
そしてザックスによれば、この2つの様式が混ざり合ったことで、
(3)「旋律起源的」な様式
に発展します。
ザックスの見解の意義は、音楽の起源を1つに求めず、複合的・客観的に研究した点にあると言われています。
【参考文献】
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』
次は「音楽理論の歴史的展開」をとりあげます。