西洋音楽史、ルネサンスの6回目です。
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さて、1510年代からヨーロッパでは、宗教改革、反宗教改革、ヘンリー8世とローマ教会との不和などの様々な宗教上の出来事が起こりました。こうした出来事が原因となり、フランドル楽派に代表されるルネサンス期の本流とは異なる性格を持った音楽が生み出されることになりました。
目次
ルター派
1517年、ドイツの神学者マルティン・ルター Martin Luther が、当時様々な問題を孕んでいたローマ教会に対し「95ヶ条の意見書」Disputatio pro declaratione virtutis indulgentiarum を発表します。これが契機となり、つまり、宗教改革がきっかけで、「ルター派のコーラル」という新しいスタイルの教会音楽が誕生することになりました。
※コラール Choral:もともとは、ルター派教会にて全会衆によって歌われるための賛美歌。現代では、これらの賛美歌の典型的な形式や、類似した性格をもつ作品をも含めて「コーラル」と呼ばれています。
ルター派のコーラルは、会衆によって簡単に歌える歌で、初期は単旋律音楽でした。ドイツ語に適った、簡潔かつ力強い表情豊かな旋律が、グレゴリオ聖歌・リート・民謡などを参考にしながら、ルター派コーラルのために作られました。
このような単旋律のコーラルは、16世紀後半には多声音楽へと変化していきます。主旋律を最上声部に配置し、単純なリズムによる和声的なコーラルが作られるようになりました。こうした楽曲は、無伴奏で歌われていました。
反宗教改革
ルターによる宗教改革に対し、カトリック教会は1545年〜63年、北イタリアのトレントでキリスト教の最高会議である公会議を開きました(トレント公会議 Concilium Tridentinum)。トレント公会議によって、宗教改革に対するカトリック教会の姿勢を明確にし、カトリック教会の刷新と自己改革が目指されましたが、このなかには音楽上の諸問題も含まれていました。
公会議では音楽における反省点として、世俗曲から引用した定旋律、世俗曲のパロディ、複雑なポリフォニー、楽器の使用などが取り上げられました。
パレストリーナ
反宗教改革を受け、カトリック教会音楽の理想像を作り上げようと努めたのが、ローマ楽派の代表者パレストリーナ Giovanni Pierluigi da Palestrina です。
代表曲である《教皇マルチェルスのミサ曲》Missa Papae Marcelli では、半音階をなるべく避け、かつ、不協和音は厳格な規則の下に使用されました。
結果、澄んだ明快な響きといった印象の楽曲だと言われています。こうした特徴に加え、旋律線で重視されたのはなめらかさであり大きな飛躍は控えられ、リズムが規則的であることによって、穏やかで控えめな雰囲気を持つことで、言葉が聴き取り易くなったとも言われています。このように、劇的な表現を避け、自然で落ち着いた内省的な表情が、パレストリーナ音楽の本質です。
パレストリーナの音楽は、基本的にはフランドル楽派の対位法 Kontrapunkt 様式を受け継いでいます。
※対位法: 音楽理論の1つ。複数の旋律を、それぞれの独立性を保ちつつ互いによく調和させて重ね合わせる技法。
各声部が対等の立場で動き、模倣が適度に用いられています。フランドル楽派との違いは、フランドル楽派が和声的な制約から自由であったのに対し、パレストリーナはバスの旋律に機能和声的(例えば、属音→主音。現在のポピュラー音楽でいうところの、G → C)な動きが目立っている、という点にります。
このような対位法様式を有していたパレストリーナの音楽は、必ずしも後期ルネサンス音楽の代表的なそれだとは言えないそうです。パレストリーナの音楽は、宗教改革の影響を受けた、彼独特の個性のある音楽だと考えられています。
ヴィクトリア
パレストリーナに学んだと音楽家に、スペイン人のヴィクトリア Tomas Luis de Victoria がいます。ヴィクトリアは宗教音楽しか残していないと言われています。代表曲に、《おお、すべての人々よ》O vos omnes, qui transitis per viam が挙げられます。
バード
1534年、イギリスはヘンリー8世の時代に、ローマ教会から正式に分離しました。この出来事の原因は、宗教上のもめごとではなく、政治上のもめごとであったため、宗教改革の際に見受けられたような、音楽的に急激な変化があったわけではありませんでした。ただ、英語の歌詞による宗教音楽が増えたと言います。
この時期のイギリスを代表する作曲家が、バード William Byrd です。
バードはカトリックの信者でした。しかしイギリス国教会のための音楽としてサーヴィス Service (カトリックの聖務ニッカやミサに相当する部分を含む)や、アンセム Anthem(カトリックのモテットに近い)なども残しています。
バードの作品には、3声のミサ曲がありますが、イギリス特有の和音的センスの良さの伝統的な例です。
バードはまた、マドリガルの代表的作曲家の一人でもありました。さらにまた、合奏音楽や鍵盤楽器(主にヴァージナル Virginal )のための作品も残しました。
次回は「ルネサンス音楽(7)器楽」です。