近代の音楽思想 (4) ワーグナー: 総合芸術作品の理念

近代の音楽思想において、音楽とドラマはどのような関係にあるのでしょうか?今回の記事では、リヒャルト・ワーグナー Richard Wagner の音楽哲学を通じて、このテーマを探求します。前回の記事までで、ショーペンハウアーやヘーゲル、シェリングといった哲学者の音楽思想について解説しましたが、今回はその続きとして、ワーグナーの音楽とドラマの結びつきを詳しく見ていきます。参考は History of Western Philosophy of Music: since 1800

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ワーグナーの音楽思想の背景

リヒャルト・ワーグナー(1813–1883)は、19世紀の西洋音楽における最も重要な作曲家の一人であり、音楽と哲学に関する膨大な著作を残しました。彼の音楽思想は、ショーペンハウアーの思想から深い影響を受け、さらにフリードリッヒ・ニーチェへ多大な影響を与えました。

チューリッヒ時代の著作

ワーグナーの最初の重要な理論的貢献は、1848年革命に参加した後、亡命中のチューリッヒで執筆されたものでした(1849–52年)。これらの著作で、ワーグナーは現代社会における芸術の状態に異議を唱え、芸術の真の役割を取り戻すためには、「総合芸術作品」 Gesamtkunstwerk と呼ばれる新しい形式の芸術が必要であると主張しました。この総合芸術作品は、様々な芸術形式を結合し、社会全体の真の表現となることを目指しました。

総合芸術作品の理念

ワーグナーの総合芸術作品のパラダイムは、古代ギリシャの悲劇祭でした。彼は、将来の芸術作品がギリシャのそれといくつかの重要な点で似ているべきだと主張しました。具体的には、総合芸術作品は社会のあらゆる層を巻き込み、様々な芸術形式を結合することによって、没入的でリアルな体験を生み出すことができると考えました。また、芸術が単独では不自由であり、他の芸術形式と協力することで自由になるという考え方も提唱しました。

ショーペンハウアーとの出会い

1854年、ワーグナーは初めてアーサー・ショーペンハウアーの作品に出会いました。この出会いは、ワーグナーの世界観と音楽制作に決定的な影響を与えました。ショーペンハウアーの音楽哲学は、純粋器楽音楽に特権的な地位を与えており、これはワーグナーの芸術形式の結合に対する中心的なコミットメントと対立するものでした。

『ベートーヴェン』と『オペラの運命』

ショーペンハウアーの影響下で、ワーグナーは彼の初期の見解の一部を放棄し、音楽と詩の結合について新しい見解を打ち出しました。『ベートーヴェン』(1870年)と『オペラの運命』(1871年)では、音楽が詩に従属するのではなく、音楽自体が独立した価値を持つべきであると主張しました。

メロディーと感情表現

初期のワーグナーは、メロディーを「言葉で既に明確に輪郭を描かれた感情の最も表現力豊かな手段」として見ていましたが、後期のワーグナーはこれを放棄し、音楽が独立した芸術としての価値を持つべきであると考えました。しかし研究者のなかには、ワーグナーの著作と音楽制作の両方から、明らかな変化が見られると指摘している者もいます。特に、『ラインの黄金』に続く『ニーベルングの指輪』の3作品にその変化が顕著です。

結論

リヒャルト・ワーグナーの音楽哲学は、彼の作品と密接に関連しており、ショーペンハウアーの思想から深い影響を受けています。彼の総合芸術作品の理念は、音楽とドラマの結びつきを探る上で重要な視点を提供しています。次回の記事では、ワーグナーの音楽哲学がどのように具体的な作品に反映されているかをさらに詳しく探求していきます。

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