1. それは恋ではないですの?
さて, いよいよ 1 位なのだが, レビューの前に, せっかくなのでこのベスト 50 を作成するうえでどのような評価基準があったのか, この点について明らかにしたい.
すでにレビュー内で折りに触れて述べてきてはいるが, ここまでのベスト 50 でみてきた, キャラソンをふくむアニソンを楽しむための要素を確認しよう. それはおよそ 3 つに集約できる.
( 1 ) セリフ, ガヤ, 歌唱の混合
( 2 ) 曲調の変化・2 ジャンル以上のミクスチャー
( 3 ) 歌詞と物語との関係
だ. もちろん, すべてのアニソンが, このような要素をもっているわけではない. アニソンは, 単に「アニメに関連づけられた楽曲」というだけで, アニメから切り離されると, 共通の音楽形式・様式を見出すのは難しい. というのもアニソンは, アニソン以外で確立されたジャンルの手法を節操もなく取り込むからだ. ロックだろうとジャズだろうとヒップホップだろうと演歌だろうと… , アニメに関連づけられれば, それはアニソンになってしまう. いまうえに挙げた 3 つの要素は, アニソンを楽しむための要素であり, そこからアニソンが十分に定義づけられたりするような要素ではない. これらの要素がなくてもアニソンはアニソンだ. さて, これらの要素がよく聴き取れるのは, 特に, 物語と楽曲の関係を強めようとされた楽曲である. 物語の進行は, 既に確立された音楽のジャンルにおける楽曲の進行とは異なる. 当然のことだが物語と音楽とは全く別のものであって, 音楽に物語を反映させようとすれば, 物語の進行の規則が音楽へ反映されることになり, その反映された物語の進行が ( 例えばコメディーのように ) 特異であれば, 音楽的には変化に富んだ・突拍子もない楽曲が生まれる. なお, こういった物語と音楽を関連づけた楽曲というのはアニソン以外にももちろん無数にある. しかしアニソン以外の物語と関連づけられた楽曲も, 再三の「但し」になるが, うえに挙げた 3 つの要素を必ずしも含んでいるわけではない.
さて, この 50 選もおおよそ, うえに挙げた 3 つの要素に注目して選定しランキング化した. もちろん, この 3 つの要素を全く無視し, 個人的な思い入れのみで, いやまあ, ぜんぶ個人的な思い入れなんだけど, 極論を言えば. そういう極論はなしにしても, 個人的な思い入れの程度の強い選定もあるにはある. ではこの 3 つの要素に注目したうえで, どのような評価基準があるのか, というと, やはり結局は, 楽曲と物語との関連だ. この楽曲はどれくらい物語, この場合の物語は, アニメに限らず ( ある場合は ) 原作も含むのだが, どれくらい物語と関連しているか, この点が評価基準である. 歌詞の内容はもとより, その歌詞の内容に合わせた曲調, 歌唱, セリフといった( 音楽家が意図しているか意図していないかに関わらず ) 楽曲の諸要素が, どれくらい筆者の物語解釈と合致しているのか, 言い換えれば, 楽曲という外部と, 物語解釈という ( 筆者の ) 内部との, 内的な必然性があると強く「判断された」あるいは「感じた」楽曲が, このベスト 50 の上位を占めるのである ( そして, 筆者の内的な必然性と, 読者の内的な必然性の一致が高ければ高いほど, レビューは説得力をもつだろう ) .
なお実は, うえに挙げた 3 つの「アニソンを楽しむための要素」に加えもう 1 つ, アニソンを楽しむうえで欠かせない要素があるのだが, それは声優である. すべてのアニソンを声優が歌っているわけではないので, うえの 3 つからは外したが, 「声優が歌っているアニソン」に限定すれば, 声優は, うえの 3 つと同じ強度の「楽しむための要素」になる. その声優が, 彼・彼女のキャリアにおいて, そのキャラソン, そのアニソンを, そのタイミングで歌う意味とは何か. こういった視点からアニソンを聴けば, より楽しむことができる. そうなれば, 作曲家や作詞家へも注目したいところで, そこまで注目することで, あるアニソンを, より内的な必然性で以て評価できることになるだろう. しかしいまの筆者にはそこまでの気力はない. 何より, アニソンの場合は 1 つのアニメ作品において, 作曲家・作詞家が実に多様で, そのなかには, 1 曲たまたま提供できた, その楽曲以外は目立った楽曲提供情報を見つけられない, といったような事態もままある. そうなれば, 1 曲 1 曲について, アニソンの作曲家・作詞家まで注意深く追うのは難しい ( もちろん, アニソンや劇伴であっても, 多く提供しているいわゆる「売れっ子」音楽家はしばしば注目の的だ ). ということで, 今回の 50 選では, あえて音楽家へは注目しないことにした. いや, 絶対おもしろいんだけどね. Funta とかイイジマケンとか, 『ゆるゆり』関連楽曲ででよくクレジットで見かける音楽家で, そのキャリアにおいて『ゆるゆり』楽曲はどのような立ち位置なのか, とかね. 気が向いたら書いてみようと思ったりするけど, でもめっちゃ大変だし, 面白いとか言ってあれだけど, あんま興味ないし.
では, 以上の評価基準, すなわち, ( 1 ) セリフ, ガヤ歌唱の混合, ( 2 ) 曲調の変化・2 ジャンル以上のミクスチャー, ( 3 ) 歌詞と物語との関係, に加え, 声優という要素で以て, 3 期レギュラー放送以前までにフルで聴くことのできる『ゆるゆり』関連楽曲のなかで最も, 筆者にとって内的必然性の強かった楽曲は何か. それは当 50 選の 2 位である, 「女と女のゆりゲーム」だ. おそらく多くのユルユリアンにとっても, この楽曲は高評価に違いない. しかし「女と女のゆりゲーム」が 1 位かと言われたら, そうではない. こうしたランキングでは, 多くの場合, 1 位は, ランキング作成のための基準には似合わない楽曲が選ばれるものだ. 今回の当ベスト 50 も例外ではない. では 1 位は何か. 既に見出しに記している通り, 2 期ひまわりのキャラソン, 「これは恋ではないですの ?」である.
なぜこの楽曲なのか. それは先ず, 筆者の記憶する限りで, この楽曲を初めて聴いたときの衝撃が, 他の楽曲を初めて聴いたときの感想をはるかに上回っていたからだ. 要するに第一印象が最も強かったのがこの楽曲であり, かつ, その第一印象の強さは, 何度聴いても衰えることがない. この楽曲を初めて聴いたあと, しばらくの間 ( それは何日間もだったかもしれないし, 何週間もだったかもしれない. あるいは, 何ヶ月もだったかもしれない ) この衝撃の理由とは何か, について思いめぐらせた. 以下のレビューは, その思い巡らしと, 書きながらの思い巡らしへの補足である.
さて, このランキングトップ 50 では, ひまわりの楽曲はこの 1 曲のみだ. 要するにひまわりもキャラソンのクオリティに恵まれているとは言えない. このことは主にキャラに原因があると思われる. というのは, 初期のドタバタ・コメディーから, 純度の高い百合モノへと物語が変容するにつれ, ひまわりはどちらかというと大人しい, あんまりキレたりしないキャラになった. 他のキャラには多少なりともキレてる部分があるが, ひまわりの場合は, 櫻子との対立とおっぱいを除けば, よくあるしっかりもののお嬢様キャラだ ( いや, 櫻子との対立では未だに目を逆三角形の白目にして声を荒げるシーンなんてあるんだけどね, それでも, 他のキャラのキレ具合に比べたら, ということである ).ではよくあるしっかりもののお嬢様キャラが自分の胸の大きさについての歌詞を歌うかと言うと, そんなわけはない. そんなことをしたら, 『ゆるゆり』への冒涜になってしまう. そういうわけで, ひまわりの楽曲はどちらかというと, 他の登場人物のキャラソンに比べると, どれも地味だ. この楽曲も例外ではないだろう.
ではその例外ではない楽曲の, まずは曲調からみていこう. 曲調は, ブラジリアンジャズを参考にした小西康陽を参考にしたようなジャズだ. 要するに, 薄められまくったジャズだ. 間奏は『ゆるゆり』楽曲には珍しくギターやシンセではなくピアノが用いられている. 全体的に生音をシュミレートした音色で, とても聴きやすい. なお, この間奏には, 他の『ゆるゆり』楽曲にあるようなセリフはない. 要するに, 全体的には大人しい楽曲である. この大人しさが逆に, 『ゆるゆり』楽曲のなかでの特異さを際立てている. が, それ以上に特異なのはみもりんの歌唱だ.
みもりんの歌唱がどう特異なのか, あるいは異様なのかをみていく前に, なぜこの薄っぺらいジャズになったのか, この点を検討してみよう. 実はこの曲調の理由を, 物語との関連におおいて検討し明らかにすることで, なぜみもりんの歌唱が異様なのかもまた, 徐々に明らかになってくるのである. まあ, おおむね, ひまわりは大人っぽいお嬢様キャラだし, なんかジャズって大人っぽいし, ジャズなんじゃないの, という判断は早計だ. 重要なのは,「ブラジリアンジャズを参考にした」「小西康陽を参考にしかたのような」,「アニソンのジャズ」という, 三重の捻れ構造にある. ルーツは, 本来はジャズのはずなのだが, アニソンになることで, まあ, ジャズだよね, んん, まあでも, ジャズとは言えないけどね, という曲調. これは物語におけるひまわりの櫻子に対する心境に対応している. 要するに, 嫌いなのだが好きなのだが好きとは決して言えない, という心境である. これはもうほとんど, 文章化すると意味不明になるのだが, 言い換えれば, 「嫌い」というのが建前なのだけれども, 本音のところでは好きなんでしょ, でも好きっていうと作品が終わってしまうよね, これはファンも「櫻子とひまわりは相思相愛」と明言してはいけないしいわんや物語内をや, もう, どっちやねん, というのが, この曲調なのだ.
そしてこの「それだけど, それではないし, それだとは言えないよね」という曲調・アレンジに引っ張られるように, みもりんの歌唱もまた「それだけど, それではないし, それだとは言えないよね」という三重の捻れを起こしてしまっている. この楽曲は冒頭がサビになっているのだが, そのサビはメロディーがセリフを追いかける, という構造になっている. この部分の( 正確に言うと, サビの 1 〜 3 小節目および 9 〜 11 小節目 ) メロディーとセリフは同じ歌詞だ. その歌詞は「きっと」や「いっぱい」で, つまり3 音節あるいは 4 音節程度と短い ( 音程的には主音と第 3 音の繰り返しだ ) その短い間にメロディーがセリフを追いかけるので, 聴き手はメロディーがセリフを追いかけているのか, その逆なのかが極めて曖昧になる. メロディーなのかセリフなのか, いやそもそもメロディーの部分も主音と第 3 音を繰り返しているだけなのにメロディーと言ってしまっていいのかいやまあメロディーっちゃメロディーなんだけど. このようなどっちやねんそれ, という三重 ( もはや三重なのかも不明だけれども, )の捻れに引っ張られるのは, 聴き手だけでない. ボーカルであるみもりんもこの捻れに引っ張られている. その結果, サビの部分のみもりんの歌唱はどこか, 不安定とまでは言わないにしろ安定していない. みもりんと言えば, μ’s として, ソロ歌手として, 安定した歌唱力を披露しており, その実力は ( μ’s の一員としてではあるが ) 2015 年声優アワードで歌唱賞を受賞するほどである. そのみもりんをして不安定な歌唱. しかも冒頭から. そしてこの冒頭の安定していなさが印象に残り, 終わりまでこの楽曲のみもりんはどこか安定しない …, ああ, やっぱひまわりの心境なんだな, と. 曲調がなんとも言えず, メロディーもなんとも言えず歌唱もなんとも言えない, 楽曲全体で, ひまわりを表現しているんだな, と, いうことが分かるのだ.
そう, この楽曲以外では, その多くが, 細かい「要素」において, 『ゆるゆり』が見出された. 先に, 筆者にとって, アニソンを楽しむ要素を物語と関連させたとき, 最も「内的必然性の強かった楽曲」は「女と女のゆりゲーム」だとした. しかしこの楽曲もまた, 実は強い内的必然性を持っており, それは要素というよりは曲全体なのである. 「それは恋ではないですの?」全体を覆う, 不安定さ, この全体的な不安定さこそが, ひまわりを, 『ゆるゆり』を表現しているのだ. だから 1 位なのかもしれない… .
てまあやっぱ単純に好きなだけなんだけどね ( 笑 ).
と, いかがだったでしょうか!? いかがだったでしょうか? じゃねえよ, て感じで, しかも 3 期の OP ももう聴けたりするんですが, また 3 期のキャラソンを聴けたら, 改めて今度は 77 曲を書こうと思います. まあ, これ+22 曲やしいけるやろ. いやでももうかなり大変やったし, あんまもうレビューとか書きたくないな ( 笑 ) 今回全部でだいたい 4 万字くらいになってしもうたしな ( 笑 ).
というわけで, 最後に 1 位 〜 50 位まで振り返って, トップ 50, 終わらさせていただきます. 最後までお読みいただきありがとうございました!
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