「まだロックが ( わたしのなかで ) 世界のヒーローだった頃. デヴィッド・ボウイをいちばん最初に知ったのは, たしか GLAY とかラルクとかそういうビジュアル系が全盛の時期で, 『WHAT’S IN』だか『PATI PATI』だか『CDでーた』だかそれ系の雑誌に, 「元祖ビジュアル系」みたいな感じで紹介されていたときだったと思う. 当時わたしは GLAY とかラルクとかの魅力があまりよく分かってなかったので, 「ビジュアル系の元祖か, ケッ!」みたいに, 聴いたこともないのに若干, いやけっこうデヴィッド・ボウイをバカにしていた. だってまだ Youtube もなんもないしお小遣いもらってた中学生だったし周りに洋楽好きな大人なんていなかったし, そんなデヴィッド・ボウイの音楽を聴けるような環境じゃなかったから. 高校にあがる頃, ビジュアル系とかとは別に, 日本でも R&B とかヒップホップとか流行り始めて, で, その一方で, 邦楽ロックとしては, くるりとかナンバーガールとかスーパーカーとかが注目されていた. いわゆるロキノン系の走りっていうやつで, わたしはそのなかでスーパーカーがいちばん好きだったんだけど, そのフロントマンのナカコーが, 好きなミュージシャンでデヴィッド・ボウイを挙げてて, 好きなアルバムは『LOW』みたいに言ってて, ロキノンかスヌザーかなんかで. 「えぇ!?」てなった. だってデヴィッド・ボウイって元祖ビジュアル系なんちゃうん? GLAY とかラルクなんちゃうん? ていうイメージがでかかったから. でまあ, けっきょく, 高校の頃もデヴィッド・ボウイなんて聴かずに, やっぱでかいのは繰り返すけど環境なんだけど. それで, 大学入って, まあ, 洋楽ロックの雑誌とかけっこう読むようになって, DJ なんかも始めちゃったりして, デヴィッド・ボウイが元祖ビジュアル系という狭い括りに収まらない偉大なミュージシャンだということを知り ( 笑 ), バイトもして高校の頃よりはカネもあるし, デヴィッド・ボウイのアルバムで初めて買ったのは, アナログ盤の『LOW』だった ( まだ時代的には, Youtube にばんばん海賊版がアップロードされる前ね. Youtube はすでにあったと記憶している ). ナカコーが好きだ, て言ってたし. 確か YMO の『BGM』と一緒に買ったと思う. ごめん, それは嘘. で, 『LOW』をターンテーブルで聴いて, びっくりした. ぜんぜん元祖ビジュアル系じゃねえじゃん. ぜんぜんスーパーカーぽくないじゃん. 正直言うと, 初めて聴いた当時は, A 面のよさがわからなかった. なんかぐちゃっとしていてノイジーで声が気持ち悪い, この気持ち悪い声がカッコいいのかな, くらいだった. でも B 面でぶっとんだ. なんだこれ. ぜんぶインストかよ! 実験的! かっけえ! てなった. こういうアルバムの構成は, わたしの音楽と向き合うスタンスへ, かなりデカい影響を与えている. ていうか単純に美しいよね, B 面. 本当に美しいと思うし, それから『LOW』は, わたしにとって大切なアルバムのうちの 1 枚になった ( で, そっからまあ, 何枚か有名なのを聴いた. でも人の音楽の趣味はどんどん変わっていくもので, いつしかわたしはロックによって救われたガキから, ジャズやヒップホップを眉間にしわをよせながら聴くおじさんになっていた ).
今日, デヴィッド・ボウイが死んだ. ていうニュースが流れてきた.デヴィッド・ボウイの名前を観るのなんて久しぶりだった, いや, 何日か前にアルバムをだした, て言ってたな. 今夜は大好きなアルバム, 『LOW』を聴こうがどうしたこうしたうんたらかんたら」
なんていう文章を書こうと思っていた. で, 車の中で Play Music で「David Bowie』で検索して, 『LOW』を聴いていた. いま聴くと A 面の印象違うな, A 面は A 面でカッコいいぞ, なんて思いながら, SNS に流れてくる追悼コメントを眺めたりしていた. そのなかに, 「最後の MV. 鬼気迫るものがある」的なコメントといっしょに, Youtube の動画が貼ってあるのがあった. そういや何日か前にアルバムを出した, て言ってたな, 自分の寿命が分かってて作ったアルバムかあ, どんなんだろう, みたいな, でも, 69 歳だし, 円熟期に入ったサウンドなんだろうし, そんな面白くないんだろうな, みたいにあまり期待をせずにリンクを開いた.
いやいやいや笑 格好良すぎでしょ笑 何コレ!?!?? ちょっといや, かなり感動したんですけど!?!???!?? ロックでこんな感動したの久しぶりなんだけど!?!???
これが死を覚悟したロックミュージシャンが作るロックなのか!
と, おそれおののきつつ, 見終わって「★」の動画を開くと,
いやいやいや, さらにこれヤバいでしょ, これ完全にカッコいいヤツのロックやん!
そっから即, アルバムを聴きましたよ. ぜんぶいい. ぜんぶ完璧. ぜんぶ完璧なロック.
『LOW』の B 面を初めて聴いたときに驚いたあの美しさがしっかりありつつ, 暴力的で, 小汚くて, ひたすら不安定にさせて, じぶんの知っているデヴィッド・ボウイが全部つまってる, 全部つまってるけど, 「イマ」の音になっている. アレンジも音色も.
いやこれも完全にロック. めっちゃロック.
デヴィッド・ボウイが死んだだ?『Ziggy Stardust』とか好きだっただ? 『LOW』が傑作だ? いやいや, 感傷にひたっている方でまだ『★』聴いてない方, 『★』, 聴きましょう. いますぐ聴きましょう. 2016 年最初の, そしてテン年代後半の幕開けにふさわしい傑作です. ありがとう! David Bowie!