3 月 9 日はミクの日! ということで, まえまえからちょっと疑問に思っていることについて, 興味深い解説を読みましたので, 紹介したいと思います.
その疑問というのは,「ボカロ曲に共通の特徴ってあるのか?」ていうことです.
小難しい話を一旦脇に置くと, ボーカロイドって, シンセサイザーだし, 楽器なんですよね. シンプルに言って. わたしもものすんごく底辺ですが, いちおう, ボカロ P で, ここ 2, 3 年は. こんなに面白い楽器はないぞ, ていう感じで日々接しています.
だから, ボカロ曲に共通の特徴って, まあ, ほとんど同語反復ですけど, ボーカロイドを使用しているくらいしかない (初音ミクで「4’33″」を演奏した, みたいなのもあるんですけど, その辺は, ちょっと今回は違うかな, ていうことで外します). ピアノ曲ってピアノを使用した楽曲の総称です, て言っているようなもんだと思ってます.
ここで, じゃあ, ボカロ曲ってジャンルの名前だと思うんですけど, ジャンルって一体なんなんだ, ジャンルの定義, みたいな話になるかもしれませんが, その辺はもっと難しいので, 今回は突っ込みません (いつか突っ込むかは不明).
けど, ボカロ曲が, ボーカロイドを使用している楽曲だ, として, ボーカロイドを使用することで, 生身の人の声とか, あるいは他の, ギターがフィーチャーされたインスト作品との何か違いはあるのか, ボーカロイドを使用しているという点を除いて.
リズム, メロディ, コード進行による特徴づけは, 無理ですけど.
その辺って, けっこう気になるところだと思います.
それで, この辺について, 川本聡胤『 J-POPをつくる!-まねる、学ぶ、生み出す』で興味深い解説がありましたので, 紹介します.
目次
アレンジの仕方
ボカロ曲の特徴として川本が 1 つ目に挙げているのが, アレンジの仕方です (この場合のアレンジには, ミキシング的な意味合いも含まれます. ミキシングとアレンジちゃうやろ! ていうツッコミは, すみません).
ボカロ曲は, ボーカロイドが主役ですので, ボーカロイドの音がオケのなかに沈んではいけません. 逆に, ボカロの声ばかりが目立って伴奏のオケが聴こえないのではアンバランスです. 両者の適度な音量バランスを保ちつつ, ボカロの音声が引き立つようにアレンジ, あるいはミキシングされることが重要です.
ですので, ボカロ曲においては, 主役パートの交代, オケ音量の抑制, ハモりの追加などにより, ボーカロイドの音声が引き立てられるような工夫がされていなければなりません. こうした工夫は, 人間のボーカル曲の場合ふつうに行われることではありますが, ボカロ曲では, こうした配慮に特に繊細にならなければなりません.
ボーカロイではない, 人間による音楽では, 多少ボーカル・パートが小さかったりしても, そう大きな問題にはならないことがあります. たとえばロックなどで, ボーカリストよりもギタリストなどの楽器奏者が主役となるような場合がそれです.
しかし, ボカロ曲では, 繰り返しになりますが, ボカロ音声が主役にならなければ意味がないので, 曲のすべてのセクションにおいてボカロ音声を引き立てるために徹底して入念なアレンジ, ミキシングをする必要がるのです.
こうした「入念なアレンジ」の代表例として川本は, mikuru 396「つないだ手」(初音ミク使用楽曲) を挙げています.
機械的な節回しを残す
ボカロ曲の特徴として続いて挙げられているのが,「機械的な節回しを残す」ことです.
ボカロ曲では, どんなに巧みに調声しても, 発音の機械的な雰囲気が残ってしまいます. その機械的な発音が, ボカロ曲らしさを生み出しているということです.
機械的な雰囲気は, 節回し = 音の抑揚や高低について特に現れます.音の抑揚や高低とは,「言葉をどれくらいの強さでどんな間をもってどういうノリで言うか」というふうに言い換えられます. 人間は繊細な方法で節回しを作っていますが, この繊細な節回しをボーカロイドという機械で再現しようとすると, なんとも不自然な感じになってしまいます.
たとえば, 4 度, 5 度それ以上に大きく音程が進行すると, シンセサイザーのポルタメント音を聴かされているような錯覚を受ける人もいるかもしれません.
この, わずかに残る機械的なサウンドが, ボカロ曲においては興味深い響きになっている, と, 川本は指摘しています.
例として挙げられているのは,「You and Beautiful World」です.
型にとらわれない形式
ボカロ曲の特徴として 3 つ目に挙げられているのが,「型にとらわれない形式」です. ボカロ曲には, 人間が歌わない分, 従来のポップスに比べ型破りな形式の楽曲があります.
川本が例として挙げているのが, かにみそ P による篠原涼子「愛しさと切なさと心強さと」のカバーです.
かにみそ P 版「愛しさと切なさと心強さと」では, 原曲のもっている特徴をさらに強調するために, 型破りな形式がみられます.
転調
型破りな形式の 1 つ目が, 転調です.
原曲では, いわゆる「トラック運転手の転調」(曲の最後で, キーを半音 1 つか 2 つ分丸ごと上げる. 正確には移調) が, 篠原が歌い終わって, インストゥルメンタルのサビに入るところで登場します (E マイナーからFマイナー).
一方のかにみそ P 版では,「トラック運転手の転調とは?」と思ってしまうくらい, 曲中に何度も登場します. 最初にでてくるのが, 楽曲が始まって 16 秒の箇所です. 早い!(笑). そしてその合計 6 回! 最初, この楽曲は E♭から始まるのですが, 最終的には, その 4 度上の F# で楽曲が終わります.
フレーズの反復回数
一般的なポップスであれば, イントロの素材は, ふつうは 4 回リピートされます. 4 の倍数というわけです. これは「愛しさと切なさと心強さと」の原曲も例外ではありません. けどかにみそ P のバージョンは, 反復回数が 6 回になっています.
イントロだけではありません. 最後のサビの反復回数にも注目しましょう. 最後のサビでは, 原曲が4回 (歌入り, インストゥルメンタル込み) であるのに対し, かにみそ P は 5 回 (歌 2 回 → インストゥルメンタル 1 回 → 歌 2 回)になっています.
川本によると, こうした手法は, 型にはまった形式よりも, よいものを何度も聴かせたい, という工夫です.
せわしない転調や, 4 で数えられないフレーズの反復は, 人間だとちょっとノリを体得するのが難しいですが, ボーカロイドだと実現しやすいのかもしれません.
まとめ
以上, ボカロ曲の特徴について川本の考えを紹介しました. 川本の考えをみると, ボカロ曲って, ボカロ曲として引き立てられるためには, ボーカロイドを使用している, ていうだけではダメだ, ていうのが分かるかと思います.
特に重要なのは,「アレンジの仕方」っていうか, ミキシングなのではないでしょうか. 人間の歌う楽曲と, ボーカロイドの楽曲では, ミキシングが異なっていて, ボカロ曲には独特の響きがある.
この「異なり」や「独特」は, もっと具体的に説明できるかもしれません.
んが, それはかなり骨の折れそうな作業ですので, 今回は突っ込まないでおきましょう…