「音楽」という日本語の由来

令和の時代が始まりました. 改元に関係する行事を映像で観たりすると, 自分が日本人であることをいやが応にも意識してしまいます. 日本には, 皇室 (≒ 王室) という制度があって, それは歴史的な長さをもつ文化で, 自分はその日本という国で生まれ育った人間なのだ, と, こう思わされてしまいます.

本サイトでは, さまざまなジャンルの音楽を取り上げてきました. しかし, いままで, 日本の音楽を歴史的に取り上げることはありませんでした. 改元は, 日本について改めて考える, なかなかない機会です. この機会に, 日本の音楽を, 歴史的な視点で取り上げることにします.

今回, 第 1 回目のテーマは, 日本の音楽の歴史を取り上げる前段階として, 「音楽」という日本語です.

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「音楽」は music の訳語である

『哲学・思想翻訳語事典』(論創社, 2003) に掲載されている「音楽」という項目 (遠山菜穂美) によれば,「音楽」という文字は, もともとは中国から輸入されたもので, 日本では, 古くは奈良時代の文献から, 既にその用例を見出されます. しかし, 現在的な使われ方での「音楽」, これは, music の訳語としての「音楽」ですが, このような使われ方での「音楽」は, 明治初期の西洋音楽導入期に, music の訳語として定着しました.

music の意味

ではそもそも, music にはどういった語源があるのでしょうか.

music および, その同属語の語源は, ラテン語の musica , さらにはギリシア語の μουσικη (ムーシケー) にさかのぼることができます.

では, ムーシケーは何に由来するのかというと, さまざまな芸術をつかさどる女神, Μοῦσαι (ムーサイ) です. ちなみにムーサイは, 英語やフランス語だと Muse になります. ムーサイはさまざまな芸術をつかさどる女神ですので, ムーシケーも, そもそもは音楽だけでなく, 詩や舞踊などが一体になったものを表していました. のちに音楽という概念が分離・独立していったと考えられています.

「音楽」の意味

日本の文献に音楽という文字が初めて現れるのは, 713 年 (和銅 6 年) に勅撰された『常陸国風土記』だとされています.『常陸国風土記』には,

天之鳥琴 天之鳥笛 随波逐潮 杵嶋唱曲 七日七夜 遊楽歌舞 于時 賊黨 聞盛音楽

という記述があります.

ここに出てくる「音楽」に,『日本古典文学大系』(岩波書店, 1958) は,「うたまひ」という訓読を与えています. これは,「音楽」という文字は, 当時から用いられていましたが「おんがく」という言葉があったかどうかは, よくわかっていないということです. 当時, 中国から伝来した「音楽」という漢語に, 日本語にもとからあった「うたまひ」という言葉をあてはめたと解釈されています.

「うたまひ」は, 今日的な意味での, 音楽のみを指しているのではなく, 音楽と舞踊が一体になったものを指していました.

「うたまひ」と同じような意味の言葉として,「あそび」があります.

『古事記』(712)・『日本書紀』に (『風土記』で用いられている)「音楽」と類似している漢語である「楽」が登場しますが, この「楽」は,「うたまひ」「あそび」への当て字である可能性が高いと言われています.

では, 中国において「音楽」という言葉が一般的に用いられるようになったのはいつくらいからかと言うと, 唐時代 (618〜907 年) の頃からだとされています. この, 唐時代の頃の中国で使用されていた「音楽」は, 声や楽器の音のほかに, 舞踊的な要素も加えた用語でした. 日本語の「うたまひ」と, 唐時代の「音楽」は共通した意味をもっていたと言うことができるでしょう.

「音」「楽」という漢字

そもそも, 漢字の「音」, 「楽」にはどういった意味があるのでしょうか.

「音」

「音」という漢字は指示文字. 篆文の「言」の口の部分に移転を加えた形で, 弦・管楽器や, 金石草木から発する,「おと」の意味を示します.

「楽」

「楽」という漢字は象形文字で, どんぐりをつけたくぬぎ, または, それに似た楽器, すずを象っています.「楽」には,「たのしい」の意味もありますが, これは, もともと「楽」に音楽という意味があって, 音楽から転じて「楽しい」という意味になりました.

つまり「音」も「楽」も両方とも,「おと」や「うたまひ」という意味なのです.

「うたまひ」から「おんがく」へ

さて, 日本には古くから,「うたまひ」「あそび」のほか, 「管絃 (弦)」「ふえづつみ」「糸竹」「音曲」など, 「音楽」に近い意味の多くの言葉が存在していました. しかし, こういった言葉がつかわれていた時期よりも後に, 「おんがく」と読む「音楽」が普及したとされています. 平安時代初期には,「おんがく」というふうに漢音で音読する外来語として, 雅楽などの外来の器楽合奏曲を指すために「音楽」が用いられていたと考えられています. 日本の伝統的な音楽が「おんがく」と呼ばれるようになったのは, さらに時代を下って江戸時代以降のことだとされています. そして, 今日的な用法で「音楽」が使われるようになったのは, 明治政府によって西洋音楽が日本へ導入されて以降のことです.

西洋音楽が導入されて以降, 1879 年には洋楽の教育や普及において中心的な役割を果たす「音楽取調掛」が発足しました. その後の, 日本において洋楽はめざましく普及し, 現在では,「音楽」と言えば (純) 邦楽よりも (ポピュラー音楽をふくめた) 洋楽を思い浮かべる人の方が多いのではないでしょうか. ただ, インターネットを通じて音楽に接する機会が主流になった現在, 音楽 = (西)洋(音)楽という構図は, どんどん変化していっていると言えます.

参考文献

  • 『漢語林』大修館書店, 1987
  • 『日本古典文学大系 (2) 風土記』(岩波書店, 1958)
  • 石塚正英・柴田隆行 (監)『哲学・思想翻訳語事典』(論創社, 2003)
  • 竹内敏夫 (監)『美学事典 増補版』(弘文堂, 1974)
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