西洋音楽史、古典派の7回目です。古典派とは、ハイドン Franz Joseph Haydn 、モーツァルト Wolfgang Amadeus Mozart 、ベートーヴェン Ludwig van Beethoven の3人を指し、より厳密には彼らの活躍した時期でも1780年〜1820年を指します。前回のエントリーでは、この3人のうちモーツァルト、特に彼の声楽曲について取り上げました。今回は、モーツァルトの器楽曲を取り上げます。
交響曲
モーツァルトの残した器楽曲の中で、最も重要なジャンルは、交響曲だと言われています。
ロンドンでバッハやアーベルを手本にした8歳から、1788年の「3大交響曲」までの間、モーツァルトは約50曲の交響曲を作曲しました。
3大交響曲とは、1788年に作曲されたモーツァルト最後の交響曲で、
- 第39番変ホ長調 K. 543
- 第40番ト短調 K. 550
- 第41番ハ長調《ジュピター》K. 551 Jupiter
の3作品を指します。
50曲のうち、「自由音楽家」として活動していたウィーン時代(1762年〜81年)の楽曲は6曲と少なく、大半は旅行が中心だったザルツブルク時代(1781年〜91年)です。
ザルツブルク時代の楽曲は、旅行先々の様式を反映しています。
また、楽章構成においては、
- オペラ序曲のシンフォニア型
- メヌエット楽章を含むドイツ・オーストリア風の交響曲
が混在していて、交響曲の成立過程を反映しています。
交響曲に近いジャンル
交響曲に近いジャンルが、
- セレナード Serenade
- ディヴェルティメント divertimento
- カッサツィオン
です。
※セレナード: 「セレナーデ」とも。音楽ジャンルの1つ。なお、一般的な言葉としては、恋人や女性を称えるために演奏される楽曲。音楽史において最も重要で一般的なセレナーデの種類は、18世紀以降における複楽章による大規模な合奏曲のこと。
※カッサツィオン: 「カッサツィオーネ」とも。18世紀の野外用器楽音楽の形式の一つ。シンフォニーと組曲との双方の要素を有します。
これらのジャンルの楽曲は、楽章数が多く、祝祭や娯楽を目的に作曲された「機会音楽」です。合わせて20曲ほど残されています。
特に有名なのは、
- セレナーデ第7番 ニ長調《ハフナー》K. 250 (248b) Haffner ※後に交響曲に転用されました。
- セレナーデ第13番 ト長調《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》K.525 Eine kleine Nachtmusik ※ウィーン時代の作品
です。
また、交響曲に近いジャンルとしては他に、行進曲や舞曲など、多数残されています。
協奏曲
協奏曲は、ピアノのための曲(約25曲)と、ピアノ以外の楽器のための曲(約20曲)に分かれます。
ピアノ協奏曲
ピアノのための曲 = ピアノ協奏曲は、主に作曲者自身のために書かれたと言われています。ザルツブルク時代のピアノ協奏曲は
- ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調 K. 271《ジュノーム》Jeunehomme
など6曲のみで、他はウィーン時代(のうちの特に1782年〜86年)に多く残されました。モーツァルトのピアノ協奏曲は、形式・表現において古典的な完成に達したと言われています。
ピアノ以外の協奏曲
ピアノ以外の協奏曲は、特定の演奏家のために作曲されました。
ザルツブルク時代のヴァイオリン協奏曲(7曲)、マンハイム・パリ旅行中のフルートやハープのための協奏曲、ウィーン時代のホルン協奏曲(4曲)がよく知られています。
- ヴァイオリン協奏曲第1番 変ロ長調 K. 207
- フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K. 299
- ホルン協奏曲第2番 変ホ長調 K. 417
室内楽
室内楽で重要なのは、弦楽四重奏曲です。
約23曲残されていますが、13曲がイタリア旅行およびウィーン旅行で作曲され、残り10曲がウィーン時代に作曲されました。
有名なのは、
- 弦楽四重奏曲第14〜19番《ハイドン・セット》K. 387、421、428、458、464、465 Haydn Quartets ※ハイドンに献呈されました
- 弦楽四重奏曲第21〜23番《プロイセン王》K. 575、589、590 Prussian Quartets ※プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム Friedrich Wilhelm III に献呈されました。
です。
ウィーン時代の作品は、ハイドンの弦楽四重奏曲作品33の影響を受けたと言われています。
- ハイドン〈弦楽四重奏曲作品33〉
「作品33」の影響を受ける前までの作品は、上声部優位のホモフォニー様式でした。しかし影響後、4つの声部が均等に主題や主題に由来する素材を展開する作品になっています。
- 弦楽四重奏曲第16番 変ホ長調 K. 428
この他には、五重奏曲、三重奏曲、二重奏曲、ヴァイオリン・ソナタなど、様々なジャンルで作曲し、特にピアノが重要な役割を果たしました。
モーツァルトとピアノ
モーツァルトの生きた時代は、ピアノの改良期で、次々と新しく優れたピアノが製作されていたと言われています。モーツァルトはこの、当時の新しい楽器のために、ソナタ、変奏曲、幻想曲、ロンドなどを作曲しました。
※幻想曲: ファンタジア (伊: fantasia、独: Fantasie、Phantasie、仏: fantaisie、fantasye、phantaisie)の訳語。作曲者の自由な想像力に基づいて創作される器楽作品のことです。即興的なものから、厳格な対位法によるものまでその内容は様々です。
ピアノ・ソナタ第1番〜6番 《ザルツブルク・ソナタ》K. 279 〜284 や、マンハイム・パリ旅行中のソナタ、ピアノソナタ第7番〜9番 K. 309〜311を除き、残り14曲はすべてウィーン時代の作品です。
- ピアノソナタ第1番 ハ長調 K. 279
- ピアノソナタ第7番 ハ長調 K. 309