中世の音楽哲学(1)後期古代から中世における音楽哲学: アウグスティヌスとボエティウス

本サイトではこれまで古代ギリシアの音楽哲学を紹介してきました。

ピタゴラスの宇宙の調和からアリストテレスとプラトンの音楽観まで、音楽が古代ギリシア社会においていかに重要であったかを見てきました。今回は、その旅を続け、後期古代から中世にかけての音楽哲学の発展を探ります。(参考: History of Western Philosophy of Music: Antiquity to 1800)

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後期古代と中世の概観

約1000年にわたる後期古代から中世にかけての時代は、音楽哲学に大きな革新をもたらしたわけではありませんでしたが、この時期はキリスト教世界観の出現によって特徴づけられます。キリスト教思想家たちは、古代ギリシャから受け継いだ音楽に関する観念、特にピタゴラスの宇宙の調和と音楽が人の性格に影響を与えうるという考えを採用し、適応させました。音楽は科学的な学問として扱われ、聴衆の感覚的な喜びや作曲家の個性といった側面はほとんど注目されませんでした。

初期キリスト教における音楽観

アウグスティヌスの音楽哲学

アウグスティヌスは、音楽を「よく測定する科学」と定義しました。彼の著作『De Musica』は、音楽を実践的な職業よりも、まず第一に科学として捉える中世の視点を初期から示しています。彼は音楽の感覚的な喜びに複雑な感情を持ちつつも、音楽が礼拝において重要な役割を果たすことを認めています。

ボエティウスと音楽の三分法

ボエティウスは、中世の音楽思想における中心的人物で、ギリシャ哲学を中世に伝えました。彼の『De Institutione Musica』は、musica mundana(宇宙の調和)、musica humana(人間内の調和)、musica instrumentalis(実際の音楽、声や楽器を含む)という音楽の三分法を提案しています。彼はまた、音楽が感情を喚起し、人の性格に影響を与えることができるというプラトンの見解を受け入れました。

中世音楽哲学の特徴

中世の音楽哲学は、理論的な観点から音楽を科学的な学問として捉えることが一般的でした。演奏家や作曲家の創造性はあまり重視されず、音楽の実践よりもその理論に焦点が当てられました。しかし、この時期には音楽の社会的な役割や精神的な価値についての重要な洞察も見られ、特に宗教的な文脈において音楽が果たす役割が強調されました。

まとめ:中世が残した遺産

中世の時代を通じて、音楽は主に科学として理解され、その感覚的な楽しさよりも、その理論や宇宙との調和に重点が置かれました。しかし、この時期には、音楽が人間の精神や社会に与える影響についての深い洞察が生まれました。アウグスティヌスとボエティウスは、音楽に関する古代ギリシャの知識をキリスト教の枠組み内で解釈し、後の世代に影響を与える哲学的基盤を築きました。

アウグスティヌスは、音楽の感覚的な魅力と宗教的な価値の間の緊張を探求しました。彼の著作は、音楽が持つ二重性を認識することの重要性を示しています。一方で、ボエティウスは、音楽を宇宙の調和、人間内の調和、そして実際に聴こえる音楽という三つのレベルで捉えることで、中世音楽哲学の基礎を築きました。

中世の音楽哲学は、理論的な探求に重点を置きつつも、音楽が持つ社会的、精神的な力を認識していました。この時代の思想家たちは、音楽が人間の心と行動に深く影響を与えることができるという考えを受け入れ、音楽を通じて人々がどのように高尚になり、また誘惑から逸脱する可能性があるかを探求しました。

このように、後期古代から中世にかけての音楽哲学は、古代ギリシャの遺産を受け継ぎつつ、キリスト教の視点を通してそれを新たな文脈で再解釈しました。

次回はキリスト教における音楽思想について紹介します。


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