20世紀後半の音楽(7)アレトリー、クラスター

西洋音楽史、20世紀後半の7回目です。前回はコチラ.

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さて、今回は、第2次世界大戦後のアメリカ実験音楽からの影響を受けての、ヨーロッパ音楽について取り上げます。

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1.アレトリー(管理された偶然性)

1950年代中盤、ケージによる偶然性・不確定性の音楽がヨーロッパへ伝わり、衝撃を与えました。

しかしヨーロッパの前衛作曲家たちは、ケージ John Milton Cage Jr. のようにすべてを偶然に任せてしまうのを、作曲家の怠惰である、と非難しました。

そしてアレトリー aleatory music = 管理された偶然性による作品を考案しました。

アレトリーによる作品は、全体としては作曲家がコントロールします。しかし小さな部分の構成、あるいは大きい部分の構成いずれかを、偶然に委ねました。偶然性の柔軟性を吸収しながらも、作曲家の権利を譲らなかったのです。

代表作には、

  • ブーレーズ Pierre Boulez《ピアノ・ソナタ 第3番》
  • シュトックハウゼン Karlheinz Stockhausen  《ピアノ曲XI》

があります。

2.クラスター

1950年代終盤になると、早くもトータル・セリー Total serialism は行き詰まります。

そこでヨーロッパの音楽家たちは、また別の音楽技法に注目しました。それがクラスター Cluster = 音群作法です。

クラスターはもともと、20世紀前半のアメリカの作曲家、カウエル Henry Cowell が考案・命名した音楽技法です。《マノノーンの潮流》The Tides of Manaunaun という作品で使用されています。

また、アイヴス Charles Edward Ives やバルトーク Bartók Béla Viktor János にも、同様の例がみられるようです。

クラスターとは、隣接した複数のおとを同時に演奏して生じる、音の帯のようなもの、もしくは、音の塊のようなものを指しています。この音の塊を構成している、個々の音の高さや強度、音域や楽器の種類を変えることで、楽曲が構成されます。要するにクラスターは、多くの音を1つの面として扱うことを可能にしたのです。

最初にクラスターの応用を示唆したのは、カーゲル Mauricio Kagel の論文でした。ただ、実際の作品で実現したのは、リゲティ Ligeti György Sándor とペンデレツキ Krzysztof Penderecki でした。

  • リゲティ《アルティキュラシオン》Artikulation
  • リゲティ《アトモスフェール》Atmospheres

リゲティは、クラスター手法を洗練させました。いかなる展開もない音楽———、つまり、全体としては静止しているように聴こえても、内部ではテクスチャーが複雑に絡まり合い、運動を繰り広げている、といった音楽を、クラスターで実現したのです。

ペンデレツキはポーランドの作曲家です。代表作《広島の犠牲者に捧げる哀歌》 Tren ofiarom Hiroszimy では、微分音程や特殊奏法が多用されています。

次回はミニマル・ミュージックについて取り上げます.

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【参考文献】

  • 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
  • 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
  • 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
  • 山根銀ニ『音楽の歴史』


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