20世紀後半の音楽(4)テープ音楽・コンピュータ音楽

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さて, 以前「20世紀前半(5)アメリカ実験音楽」でも取り上げた通り、20世紀に発達した電子工学は、電子音楽の発明など、新しい音楽の創造に深く関わりました。第2次世界大戦以降、電子工学と音楽の関係は戦前に比べどんどん発展していきます。

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2種類のテープ音楽

20世紀後半の電子音楽の特徴として、戦時中にテープレコーダーが開発され、1950年代にこれが普及し始めたことが挙げられます。テープ・レコーダーの普及により、テープ編集と電子的な変調が手軽に行えるようになりました。この結果、1950年代には、2種類のテープ音楽が誕生します。

ミュージック・コンクレート(具体音楽)

テープ・レコーダーの普及により誕生した新しい音楽として、1つ目に、ミュージック・コンクレート(具体音楽)musique concrète が挙げられます。

鉄道の音などの現実音や、楽器音のような既成の音響を録音し、編集・加工することによって仕上げられる音楽です。

中心人物は、フランスのラジオ放送技術者だったシェフェール Pierre Henri Marie Schaeffer。

ミュージック・コンクレートはシェフェールによって、パリを中心に展開しました。

シェフェールが最初期にミュージック・コンクレートを制作していた当時は、まだ、テープではなく、ソノシートに録音していました。

1949年には、シェフェールはパリ音楽院出身のアンリ Pierre Henry と出会います。2人は1951年に、「ミュージック・コンクレート研究グループ」を結成しました。

  • ・シュフェール、アンリ《ひとりの男のための交響曲》

電子音楽

テープ音楽の2つ目は、「電子音楽」です。電子音楽は、電子音響発生危機を使った音楽で、倍音を含まない純音や、あらゆる可聴周波数を含んでいる騒音であるホワイト・ノイズといった素材を合成・加工することで構成されます。1951年にケルンの放送局に開設された電子音楽スタジオで、アイメルトが中心になって推進されました。

ケルン派を代表する作曲家、シュトックハウゼン Karlheinz Stockhausen も、《習作Ⅰ、Ⅱ》Electronic Studies 1, 2(1953、54)といった純粋な電子音楽から出発します。続く《少年の歌》(1956)では、声と電子音をいっしょに録音、

《コンタクテ》Kontakte(1960)では、テープと楽器の同時演奏を実現し、ライブ・エレクトロニック・ミュージックの方向性を示しました。

ケルンに電子音楽スタジオができた1951年、ニューヨークのコロンビア大学にも電子音楽スタジオが開設されました。ここでは中心になったのは、ルーニング Otto Luening やウサチェフスキー Vladimir Ussachevsky です。彼らは電子音と楽器音を一緒に扱い、人間ができる演奏の限界を超えた、複雑な構成の音楽の創作を目指しました。

コンピュータの発展

第2次世界大戦後の、電子工学の発達が音楽に与えた影響は、テープ音楽だけではありません。コンピュータの発展も同じように、新しい音楽への創造性を高めました。

コンピュータの発展は、どのように新しい音楽と関わったのでしょうか? 作曲技法の点からみると、先ず作曲の規則を予めインプットしておき、自動的に楽曲を作成させる、つまり、作曲に必要な計算をコンピュータに行わせる、という作曲技法が開発されたのです。

初期の例としては、数学者ヒラー Lejaren Arthur Hiller とアイザクソン Leonard Issacson がイリノイ大学のコンピュータで演算し作曲した《イリアック組曲》Illiac Suite for String Quartet があります。

コンピュータに「自動的に楽曲を作成させる」技法では、のちにクセナキス Ιάννης Ξενάκης が大きな成果を上げました。

クセナキスの《ST》シリーズでは、

音群がどのように密集したり離散するか、あるいはどのような速度で動いていくか、といった決定を、推計学の法則に則り、IBM のコンピュータに計算させます。結果はその都度、楽譜に書き留められ、伝統的な楽器で演奏されます。

IRCAM

1977年、パリのポンピドゥー・センター Centre Pompidou に Institut de Recherche et Coordination Acoustique/Musique = IRCAM(イルカム)が発足しました。

IRCAM は、音響/音楽に関する探究と調整のための研究所です。ブーレーズが創設し、「探究と発展」「制作」「教育」の3部門と、それぞれを統括する委員会から組織されています。

創設者ブーレーズ Pierre Boulez は、 IRCAM に導入されたコンピュータによって、生演奏と電子音響を同時に制御する、ライブ・エレクトロニック・ミュージックに挑みました。代表作は《レポン》Répons(1988)です。

このようにコンピュータは、音素材を合成したり、音像の空間異動の制御に使われる方法としても、音楽に関係していきました。

次回は偶然性の音楽について取り上げます.

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参考文献

  • 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
  • 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
  • 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
  • 山根銀ニ『音楽の歴史』


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