西洋音楽史、ルネサンスの4回目です。一口にルネサンス音楽といってもその間は15〜16世紀の200年程あり、そして音楽的特徴の変化は中世以前に比べ非常に豊かでした。そのため、今回から16世紀のルネサンス音楽がテーマになりますが、具体的に取り上げる前に、15世紀と16世紀のルネサンス音楽の特徴の差異を概観することにします。
目次
世俗音楽
16世紀がすすむにつれ、ヨーロッパ各国(フランス、イタリア、イギリス、ドイツ)では、自国の言語を用い、かつ民族的な音楽性を生かした世俗音楽が盛んに作られるようになったそうです。こうした世俗音楽のテーマは主に恋。そして無伴奏の多声音楽でした。
- ジャヌカン Clément Janequin《鳥の歌》Le Chant des Oiseaux
こうした世俗音楽の種類には、
- シャンソン(フランス)
- マドリガーレ(イタリア)
- ヴィッラネッラ(イタリア)
- バッレット(イタリア)
- マドリガル(イギリス)
- リート(ドイツ)
があります。
教会音楽
1520年のジョスカン没後、教会音楽、特にミサ曲においては新しい手法がみられなくなりました。つまり保守的な傾向が強まったのですが、16世紀のミサ曲ではパロディ手法が多く用いられるようにまりました。
パロディとは、既存のモテットやシャンソンなどの楽曲の一部、または全体を、音楽的素材としながらミサ曲を創作していく手法です。
しかしこうしたパロディ・ミサ曲形式も、既にジョスカン以前の作曲家たちによって用いられてはいました。
保守的な傾向が強まったミサ曲に代わり、モテットが16世紀教会音楽の中心になりました。ミサ曲よりもモテットの方が、歌詞を自由に選択でき、また、その意味内容を音楽的自由に表現できる可能性が高かった為です。
ラッスス
このようなモテットを中心として創作する傾向は、フランドル楽派最後の代表的作曲家ラッスス Orlandus Lassus から最も見てとることができます。ラッススの主要ジャンルは、ミサ曲ではなくモテットであり、彼のモテットには16世紀後半のモテットの典型的な姿を見てとることができます。
ラッススの代表作が、《シビラの予言》です。
この作品では、半音階的手法などの大胆な和声的工夫によって、劇的な表現力が発揮されています。
ラッススは、前述の世俗音楽の分野でも作品を残し、そしてフランドル楽派のなかで最も国際的に活躍しました。
ただフランドル楽派は、1594年のラッススの死により終わりました。
バロック音楽の兆候
16世紀後半には、バロック音楽の兆候ともとれるような作品が発表されるようになります。例えば5声部以上の作品が多くかかれ、響きの豊かさや対比の効果が求められるようになりました。
このような音量的な力強さや響きの急激な変化が好まれるようになる傾向は、二重合唱(複合唱)のための作品が書かれるようになったことにも表れています。
声楽・器楽の発展
16世紀後半には、本格的な独唱曲も盛んになったと言われています。声楽の分野だけでも、様々な面で新しい動きが目立ちました。
また、器楽様式独自の展開もみられるようになりました。器楽が質・量ともに充実していくのも、16世紀後半の重要な特徴です。
参考文献
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』