東日本大震災について、2012年に思うこと 2-1.日本人として

東日本大震災が起こった直後、
自覚的にしろ無自覚的にしろ、
「日本人としての自分」という意識が非常に強かったように記憶している。
すなわち、
「これから自分はどうなるのか」
という考えではなく、
「これから日本はどうなるのか」
という考えの方が、
意識の全面に出ていたのだ。

例えば、
「自粛する」ことへの違和感のなさであろう。
むしろ、
反「自粛ムード」を掲げている連中への違和感の方が強かった。
犠牲者が今まで聞いたことのない数に上ったのだ、
自分の親類に犠牲者はいなかったにしろ、
「日本全体が喪に服す」ということがあって当然なのではないか、
という考えがあった。

また、
「自粛ムード」に対する賛成以上に自分が日本人であると強く意識していた例として、
東日本大震災後の日本の状況について、
(愚かにも大した歴史的知識もないくせに)第二次世界大戦と比較しながら思い巡らせていた時期があったことが挙げられる。
これに関しては、
「東日本大震災後の日本は「戦争中の日本」と似ている」、
という考えをもっていた。
いつ終わるか知らない余震や原発問題、
そして〈節電〉に対し、
〈戦争〉を重ねていみていた。

〈戦争中〉と似ている、
と思えた原因は、
これらだけではない。

例えば、
津波直後に住人に避難を呼びかけ続けた故に殉職した公務員への英雄視は、
日本のために戦死した兵士への英雄視に重なった
(この「英雄視」がいかに無責任なものであるか!
殉職した公務員自身は、
決して自ら望んで死のうなどとは考えてはいなかったはずなのに!
また、
彼/彼女らの遺族は、
決して彼/彼女らが死ぬことを望んでいないはずなに!
このような〈望まれなさを無視した英雄視〉が、
いかに無責任であるか!)。
また、
原子力発電所が事故を起こした際に電力会社の職員が逃走したことへの非難は、
戦争に反対し徴兵を拒否する態度への非難に重なった
(私は、
逃走した電力会社員を非難している人々に問いたい!
「あなたが同じ状況に立たされたとき、
あなたは逃げずにそこにとどまることができるか」
この問いに対し、
「逃げずにとどまる」
という覚悟のある者だけが、
逃走した電力会社員を非難することができるのだ。
私だったら逃げる。
だから私は、
電力会社員を非難できない)。
自民党と民主党の(実現こそしなかったが)大連立という話題は、
大政翼賛会と重なった。
これに加え、
何かと不謹慎発言への自粛雰囲気が広がり、
挙げ句の果てには「一つになろう」くらいしか積極的な発言はしてはいけないかのような状況が、
言論統制にも思えた。

このような考え方は個人的なものであるにせよ、
東日本大震災直後の自分は「戦争に似ている状況が個人へと悪い影響を及ぼす」という考えをほとんど持ってなかったように思う。
個人ではなく、
このような〈戦争〉に重なる〈日本〉を、
憂いていたのである。

すなわち、
〈日本〉を自覚するあまり、
日本人個々人の個々人性が奪われはしまいか、
と憂いていたのである。

と同時に、
期待していた。
日本が変わる、
閉塞感に満ちて利己的なヤツばかりがのさばってクソみたいな日常が終わって、
利他的な社会へと、
日本は変わるのだろう、
と。

しかしこれは杞憂に終わった。
期待はいつしか失望となった。
自分も含めた(被災地以外の)日本人は、
物の見事に時間とともに、
日本人であることへの自覚が希薄化していったかのように思える。

いつからか。
9月9日の「電力使用制限令の解除」が境目だったような気がする。
この日、
3月11日を最後に暗かった通勤駅のホームが、
急に明るくなった。
眩しい、
今までこんなに電気を使っていたのか、
無駄だ、
という思いと同時に、
安心を覚えた。

それからというもの、
自分からも周りからも、
毎月11日を迎えるたびに「もう何ヶ月経ったのだなあ」という会話が、
あまり聞かれなくなった。

こうして、
それへの言及が少なくなることによってその状態が安定化する、
という意味で、
日本は東日本大震災以前の日本に戻った。

自分も、
日本のことなどほとんど考えもしないような、
個人としての意識が優先される人間となった(戻った?)。

そして、
1年経った今、
このような自分を恥ずかしいと思う自分がいる。
1年経って、
何か東日本大震災への精神を示さねばならぬと思い、
こうして文章を書いているのだが、
自分にそのような資格などないように思える。

こうした葛藤のあることが、
唯一の望みであることを自分に言聞かせながら。


東日本大震災について、2012年に思うこと

  1. 日本人として
  2. 原子力発電所問題について
  3. 音楽について
  4. 個人として
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