Chance The Rapper が本当に破壊したもの

年の瀬も迫り, 音楽ブログ界隈では 2016 年のベストアルバムみたいなのがどんどん投稿される時期になりました.

わたしも, 今年のベストアルバムについての記事を準備中ですが (29 日にアップする予定です), 2016年, いろんな意味で注目されたのは, Chance The Rapper『Coloring Book』でしょう. いくつか, 今年のベストアルバムの記事に目を通しましたが, 軒並み高評価で, わたしも,『Coloring Book』は今年の最高傑作だと思っています。

音楽的な側面については, 以前書いたコチラの記事を参考にしてほしいのですが,

とにかく語らせてくれ! Chance The Rapper『Coloring Book』がヤバ過ぎる 10 の理由
先週金曜に, ほぼ予告通り, 無事リリースされた Chance The Rapper のソロ新作『Coloring Book』. ...

『Coloring Book』は, 作品の音楽的な完成度もさることながら,「無料で配信された」という流通形態に注目が集まりました。

無料で配信ということだけを取り出せば, ヒップホップのミックステープ文化や, ネット音楽をつぶさに追いかけているリスナーにとっては, そこまで驚くべきことではないかもしれません.

とは言え, ヒップホップのミックステープ文化に限って言えば, Chance 以前は無料のミックステープはあくまでプロモーションで, プロモーションに成功したら有料で流通させるというセオリーを破壊しての成功という点で,「そこまで驚くべきでもない」とはなかなか言い切れません.

余談ですが, Chance による音楽のマネー的な価値の考え方は相当特殊で, Chanceはたとえばレコードショップで買ったレコードを通行人に無料で配布したり, 高騰したライブチケットをダフ屋から買い取って定額で再販売したりしています. こうしたことは, 成功したからできることだとは思いますが, こうした行為の先に音楽産業が果たして健全に機能するかどうか… は, なかなか. 一筋縄にはいかない問いだと思います.

余談でした.

それで, Chance 流の流通方法での成功は, こういった点以上に, 特にリスナーの在り方へ, より限定して言えば音楽オタクを自称している「コアな」リスナーへ大きな衝撃を与えているはずです. Chance の『Coloring Book』は, 2016 年における音楽オタクのアイデンティティを破壊した.

どういうことか. 音楽の消費についてざっくりと整理しながら, このことについてみていきましょう.

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「アマチュア」「マニアック」の崩壊

通信技術の発展により, 録音されたのものを無料で消費できることが当たり前になりました。この, 無料で消費できる録音されたものは, 大きく 2 つに分けられます. メジャー作品の海賊盤か, アマチュア作品の自主流通盤です。

Chance は, それまでの流通のあり方の変化という流れにうまくのれた形で (もちろん, このうまくのれた理由は, Chance の才能に拠るところが大きいです) この 2 つのボーダーを破壊しました.

しかし, このボーダーの破壊は, ほとんど当然の流れで, 前述の通り, ネット音楽をつぶさに追い掛けてきた者にとってはそこまでインパクトはありません.

Chance によるボーダーの破壊によってダメージを受けたのは, たとえばそれまで自主流通で価格をつけて (あるいは name your price で) ネットで音楽を発表してきたアマチュア・ミュージシャンです. わたしのような, ね.

これもまた余談ですが, Chance がまだ日本では一部の熱心なラップファンにしか注目されていなかった時期に, ボーカロイドで Chance をぱくったわたしは, もっと評価されてもいい.

すみません, 余談ではなく冗談です.

ハナシをもとに戻します.

Chance くらいの作品がメジャー・レーベルからではなく, 自主流通で無料でリリースされるとか, もう, どうしたらいいんですかね, ていうハナシです. 才能のあるヤツですら録音は無料で消費されるのだから, 才能のないヤツは… ていう.

忘れてはいけないのは, 録音を消費するのは無料ですが, 録音を生産するのは無料ではない, ということです. もちろん, 生産された録音が市場にとって価値がなければ, それは無料といってもいいのかもしれませんが…

まあ, でもこうしたことも, 実際はささいなハナシです.

Chance The Rapper は, 音楽オタクのアイデンティティを破壊した

前述の通り, いちばんダメージを受けているのは, 音楽オタクなのではないでしょうか.

ここで言う音楽オタクとは, 楽曲やアーティストを消費するヤツ, 主にリスナーを指します. エフェクターを自作してしまうようなそういうタイプは除外します.

Chance の成功が破壊したもの, Chance の成功によってダメージをいちばん受けている者は, 音楽オタクなのではないか, ていうことです. それはなぜか.

まず, Soundcloud や Bandcamp, あるいは日本だとニコニコ動画などのプラットフォームの登場で, 音楽消費における「マニアック」は崩壊しました. どういうことかというと, これらのプラットフォームが登場することで, アマチュア側による自分の作品の流通させるコストが格段に下がったわけですが, これは音楽を消費するコストも下がった, ていうか通信費さえ払ってしまえばインディーズ専門のレコード屋に一生懸命足繁く通う必要がなくなった, もっとはっきり言ったら, 「わけの分からない流行ってないマニアックな音楽にカネ払ってる俺」を誇示することができなくなった. アマチュアミュージシャンが音楽を発表する web 上のプラットフォームが成熟する以前は, カネを払わないと聴けなかったマニアックな音楽が, いまではカネを払わなくても聴けるようになった.

音楽オタクにとってこれは困りモノです. マニアックであることが自慢ではなくなったのですから. しかし, Chance 以前にはまだ希望がありました. カネを払わなくても聴ける音楽に価値を見出す俺, 特殊, カッコイイ, という希望です.

先述の通り, Chance 以前までは, カネを払わなくても聴ける音楽は, 海賊版か, (ライトな音楽リスナーにとっては・ほとんど) ゴミかに限られていました (ちょっとゴミというのはさすがに言い過ぎですが, ここでは便宜上, ゴミと表現させていただきます). 音楽オタクは, ライトなリスナーがゴミと判断している, 海賊版以外の無料で聴ける音楽を評価する俺カッコイイ, ていう自尊心がまだありました. ネット上には (海賊版以外にも) 無料で聴けてもカッコイイ音楽があるよ, 俺だけが知ってるよ, これをちゃんと評価しないともったいないよ, ていう具合です.

Chance が破壊したのは, この, 「ネットで無料で公開されている音楽を評価できている俺, カッコイイ」ていう, 音楽オタクにとっての最後の砦です. Chance の成功によって, ネットで無料で公開されている流行りの・正規流通の音楽は, みんなが評価できる音楽になってしまった. ネット音楽において, オタクが自分の消費を自慢する余地はなくなってしまったわけです.

んー, でもどうだろ, やっぱダメージないのかも. 音楽オタクはツラの皮が厚そうだし, そんなの気にしない. アマチュア・ミュージシャンが音楽作りたい欲が消えないように, 音楽オタクも自分にとって特殊な消費の仕方を追求する欲は消えないかもしれませんね.


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