20 世紀の音楽思想 (5) 音楽と感情: プラット、マイヤー、クック

本ブログの「音楽の哲学史」シリーズ、前回の記事では、音楽とシンボルの哲学として、ネルソン・グッドマン(Nelson Goodman)やスザンヌ・ランガー(Susanne Langer)の思想を解説しました。今回は、キャロル・C・プラット(Carroll C. Pratt)、レオナード・B・マイヤー(Leonard B. Meyer)、デリック・クック(Deryck Cooke)の視点を中心に、音楽と感情の関係について詳しく探っていきます。

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キャロル・C・プラット

キャロル・C・プラット(Carroll C. Pratt)は、音楽が感情を引き起こすことには興味がないと明確に述べています(Pratt 1954)。私たちは、音楽が感情を引き起こすと考えずに、音楽に感情的な言葉を適用します。では、なぜ私たちは無生物である音楽を心理的状態を表す言葉で説明するのでしょうか?

プラットは、音楽と感情の主観的な経験の間には共通の動的な特質があると主張します。例えば、速いテンポで不規則な音楽が持つ興奮感は、私たちが感じる内面的な興奮感の外面的な対応物です。この心理的状態と外部対象の知覚特性の対応関係が、音楽を感情的な用語で説明する根拠となります。プラットの見解は、「音楽は感情が感じられるように聞こえる」というスローガンによって簡潔に表現されます。

プラットの理論は、音楽の構造と感情生活の現象学との間の同型性というランガーの理論と共通しています。しかし、プラットは音楽を感情のシンボルとは見なしておらず、その動的構造の対応関係は表象的な関係を意味しないとしています(Pratt 1954)。この主張と、音楽が聴取者に引き起こす感情と音楽自体の感情を区別することで、プラットの見解は明確な形式主義的な傾向を持っています。

レオナード・B・マイヤー

レオナード・B・マイヤー(Leonard B. Meyer)は、その著書『音楽における感情と意味』(Emotion and Meaning in Music, 1956)で、音楽の感情が音楽自体の統語的特徴に依存すると主張しました。マイヤーの理論は、反応の傾向が抑制されると感情が生じるという仮定に基づいています。例えば、タバコを吸いたいが見つからない喫煙者は、次第に苛立ちを感じます。このように、反応の傾向が抑制されると感情が生じるとされます。

音楽では、反応の傾向は曲の統語的展開に対するリスナーの期待によって生じます。音楽、特に価値のある音楽は、予想外の展開をすることで一時的に期待を裏切り、それによって感情を引き起こします。この理論により、マイヤーは音楽の価値と理解の問題に対する二つの対立する解決策を調和させようと試みます。形式主義的な立場では感情は音楽の評価に無関係であり、絶対表現主義的な立場では音楽は私たちに引き起こす感情のために価値があるとされます。マイヤーは、期待が意識的であれば反応は知的なものであり、無意識的であれば感情的な反応が生じると提案しています(Meyer 1956)。

デリック・クック

デリック・クック(Deryck Cooke)は、その著書『音楽の言語』(The Language of Music, 1959)で、西洋のクラシック作曲家が感情を伝えるために用いたメロディー、ハーモニー、リズムの構造を特定しようと試みました。クックのモデルは音楽の表現の語彙を特定しようとするだけでなく、音楽を一種のコミュニケーションとして捉え、特に作曲家が感情状態をリスナーに伝える手段として捉えています。これは表現理論の一形態です。

まとめ

プラット、マイヤー、クックの音楽哲学は、音楽が感情とどのように関連しているかについての異なる視点を提供します。プラットは音楽の動的特性と感情の対応関係に焦点を当て、マイヤーは音楽の統語的特徴が感情を引き起こすと主張し、クックは音楽が感情を伝える手段として機能すると考えました。これらの理論は、音楽の理解とその意味の探求において重要な洞察を提供しています。

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