イラン、メタル、表現の自由

音楽と表現の自由が直面する挑戦は多岐にわたりますが、宗教的規範や国家による厳格な統制が存在するイランのような社会では、これらの挑戦はさらに複雑なものとなります。今回は、イランの宗教的規範下でのメタル音楽の現状を通じて、音楽がいかにして表現の自由を模索し、そして保持しようとするのかに焦点を当てます。

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イランの宗教的規範とメタル音楽の挑戦

イランではイスラム共和国の設立以来、シーア派イスラム教の教義が社会のあらゆる側面に深く浸透しています。「国家による宗教の強制がもたらす意図しない結果:イランにおける”冒涜的”メタル音楽と二次的逸脱」(原題: The unintended consequences of state-enforced religion: ‘blasphemous’ metal music as secondary deviation in Iran)という論文は、Pasqualina Eckerström と Titus Hjelm によるもので、イランにおけるメタル音楽とその文化について、宗教的統制の中での挑戦を詳細に分析しています。特に、シーア派イスラム教の厳格な規範下で、冒涜と見なされる行為がメタル音楽にどのような影響を及ぼしているかが論じられています。

メタルミュージシャンの抵抗とアイデンティティ

研究では、イランのメタルミュージシャンたちが、宗教的統制と表現の自由の間でどのように自己アイデンティティを確立しようとしているかに光を当てています。イランでは、メタル音楽はしばしば冒涜と見なされ、禁止されていますが、メタルミュージシャンたちは自らの音楽を通じてシーア派イスラム教の厳格な規範に挑戦し、個人の自由と自己実現を探求しています。バンド「Confess」のメンバー、アラシュの例は、音楽を通じた表現の自由に対する国家の強硬な姿勢を象徴しています。

音楽を通じた表現の自由の模索

イランにおけるメタル音楽の挑戦は、音楽が社会的、宗教的規範に対する強力な抵抗の形態となり得ることを示しています。シーア派イスラム教の規範に挑戦することで、メタルミュージシャンたちは、自由と表現の場を提供し、社会的な変化を促進する可能性を秘めた音楽の力を示しています。

音楽を通じた自由と宗教的規範の間の探求

イランにおけるメタル音楽の現状は、シーア派イスラム教の宗教的規範との闘いの中で、音楽がいかにして表現の自由を追求し、個人のアイデンティティを確立するための手段となり得るかを浮き彫りにしています。この研究を通じて、音楽と表現の自由の関係が、個人が自己実現を追求し、より自由な社会を構築するための重要な要素であることが示されました。

補足: イランのメタルバンド、Confess について

Confessは、2010年にイランのテヘランで結成されたヘヴィメタルバンド。彼らの音楽は、グルーヴメタル、ニューメタル、NWOAHM(New Wave of American Heavy Metal)、スラッシュメタルに分類され、Lamb of God、Slayer、Slipknot、Trivium、DevilDriver、Chimairaなどから強い影響を受けています。バンドの創設メンバーはNikan KhosraviとArash Ilkhaniで、彼らは自らの音楽を通じて反宗教的および反政府的な見解を表現してきました。その結果、イランの厳格なイスラム政府から冒涜罪などの重い罪で訴えられ、長期間の投獄に直面しました。

2015年、彼らの2枚目のアルバム『In Pursuit of Dreams』のリリース後、彼らは逮捕され、孤独な監禁状態に。彼らには、「サタニックな音楽を作成し、外国のラジオ局との対話」など、冒涜、体制への広告、不法なバンド及びレコードレーベルの運営、反宗教的・無神論的・政治的・無政府主義的な歌詞の作成、禁止された外国のラジオ局とのインタビューを行ったとして、様々な告発がなされました。

後に彼らは政治亡命を申請、ノルウェーでの亡命が認められました。現在はノルウェーに住んでおり、新しいメンバーを加えて音楽活動を続けています。2019年11月には「Army of Pigs!」をリリースし、2022年には待望のアルバム『Revenge at All Costs』を発表しました。このアルバムは、メタルハマーUK誌から8/10の評価を受け、「2022年のメタルの重要な柱の一つ」と評されました。

彼らの音楽キャリアは、単に音楽以上のものを象徴しています。政治的迫害と亡命を経験し、自由を求める強い意志を持ち続ける彼らの物語は、世界中のメタルファンや自由を求める人々にとって、強いインスピレーションとなっています。Confessは、社会政治的グループとして、自らの音楽を通じて抗議し、社会、政治、戦争、システムによって注入された信念について歌詞に込めています。

参考


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