本記事では、西洋音楽史を理解する上で欠かすことのできない、「機能和声」について、簡単に紹介します。なお、本サイトの西洋音楽史については、
をご覧下さい。
なお、本来であれば楽譜を用いて説明するべきですが、ワタシの力量不足でできませんでした。ワタシのイメージに最も近い譜例を載せている他のウェブサイトへのリンクを挙げることで、代替します。
まず大まかに、和声とは、西洋音楽の音楽理論の用語のひとつで、和音(高さが異なる複数の音が同時に響く音のこと)の進行、声部 = パートの導き方および配置の組み合わせのことです。狭義には、16世紀ヨーロッパに始まる機能和声のことにまります。機能和声とは、個々の和音には、その根音と調の主音との関係に従って、役割があるという考え方です。
目次
和声
西洋の和声の語源は、「調和」です。つまり、声部の秩序だった結合が、和声ということになります。和声は歴史的には、対位法から始まりました。対位法とは、複数の旋律を重ね合わせる技法です。したがって、和声はあくめで各声部の進行、という発想が基本になります。
度数
さて、具体的な「各声部の進行」をみていく前に、度数について或る程度理解しておかなければなりません。
先ず、2つの音の高さの隔たり = 差を「音程」といいます。音程がズレている、音程が合っている・・・、などと日常的に使われる言葉です。
「隔たり」「差」を、別の言い方にすれば、2つの音の「距離」とでも言いましょうか。そしてこの「距離」を示すための単位が、音楽の場合、「度」です。
例えば、東京から大阪までどれくらい距離があるか、という場合、約500km、というふうに、「km」という単位を使用します。同じように音楽では、「ド」から「ソ」までは、どれくらい「音の高さの隔たり」があるのか、という場合、5度、というふうに、「度」という単位を使用するのです。
では、「ド」を出発点にした場合、レ・ミ・ファ・・・・といった各音は、いったい何度になるのでしょうか。
- ド = 1度
- レ = 2度
- ミ = 3度
- ファ = 4度
- ソ = 5度
- ラ = 6度
- シ = 7度
となり、そして「上のド」が「8度」になります。注意しなければ成らないのは、出発点が「1度」である、ということです。「距離」や「時間」のように、「0」という数字はありません。
ここから詳しくしようと思えばいくらでも詳しくできるのですが(笑、キリがないから次へ進みます。
三和音
或る音の上に3度と5度の音を重ねてできる音の集合体を、三和音といいます。例えば、「ド」の音に「ミ」と「ソ」を加えると、三和音ができるのです。「ド・ミ・ソ」の和音は、ポピュラー音楽だと「C」と呼ばれる和音 = コードです。
和音の構成音は、それぞれ
- 1度 = 根音
- 3度 = 第3音
- 5度 = 第5音
と呼ばれます(Cだと、ド=根音、ミ=第3音、ソ=第5音です)。
なお、3和音には3種類あり、それぞれ、
- 基本形: 根音が最下音にある
- 第1転回形: 第3音が最下音にある
- 第2転回形: 第5音が最下音にある
です(譜例: 転回位置 | 音楽辞書なら意美音)。和音は記号で表されます。根音のそれぞれの度数をローマ数字で表し、和音記号と呼ばれます。例えば、ハ長調(ポピュラー音楽ではCメジャースケール)だと、
- ド・ミ・ソ = Ⅰ
- レ・ファ・ラ = Ⅱ
- ミ・ソ・シ = Ⅲ
- ファ・ラ・ド = Ⅳ
- ソ・シ・レ = Ⅴ
- ラ・ド・ミ = Ⅵ
- シ・レ・ファ = Ⅶ
です(譜例: (79) ドレミは階級社会? | 聖光学院管弦楽団 の「譜例1」)
三和音の機能
三和音の機能には、トニック Tonic(主和音)、ドミナント Dominant(属和音)、サブドミナント Sub Dominant(下属和音) があります。それぞれ頭文字をとって、トニック = T、ドミナント = D、サブドミナント = S と通常は表記されます。S、T、Dのそれぞれの機能(はたらき、性格)は、次の通りです。
- トニック: 調性の基本になる和音。
- ドミナント: トニックへ解決することにより、トニックを確立する。
- サブドミナント: トニックとドミナントを軸として、それい以外の要素、つまり不安定さや色彩の変化をもたらす。
調性
ちょっと「調性」という言葉が分かり難いので、噛み砕いてみましょう。手許にある文献をあたってみます。
「長音階あるいは短音階が、特定の音を主音とすると特定の調ができる」(出典: 石桁 真礼生 他『楽典―理論と実習』)
「楽曲を支配する原理」「長音階を基礎とする長調 major と、短音階を基礎とする短調 minor に大別することができる」(出典: 芥川也寸志『音楽の基礎』)
なるほど(笑、ムズい、もしくはぼんやりだ(笑。ちなみに、「調」と「調性」は違いますので、ご注意ください。
要するにワタシとしては、先ず、長調・短調がある、と。長調、短調というのは、例えば「ハ」、つまりを「ド」を中心にすると、
- ハ長調 = ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド
- ハ短調 = ド・レ・ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭・ド
(※ちなみに短調には3種類ありますが、ここでは触れません!)になる。そしてこの長調・短調を基本とした音楽が、調性のある音楽だ、というふうに理解しています。これくらいでいいでしょう。この記事は調性がテーマではありませんし。
三和音の機能
さて、「3.三和音」でローマ数字(Ⅰ〜Ⅶ)で表された三和音ですが、それぞれに「トニック」「ドミナント」「サブドミナント」と役割が与えられています。
- トニック = Ⅰ、Ⅵ
- ドミナント = Ⅴ
- サブドミナント = Ⅱ、Ⅳ
3和音の機能についていくつか補足です.
Ⅵの和音はトニックとして十分な機能を果たすわけではありません
トニックは、ある楽曲が「終わった」感じを出すために役立ちますが、明らかに「終わった感じ」を出すためには、Ⅰの基本形が必要になります。
Ⅱの和音の次は、しばしばⅤの和音が続きます
なお、或る和音から別の和音へ続くことを「進行する」と言います。ポピュラー音楽で「コード進行」という場合の「進行」です。
Ⅲの和音とⅦの和音は、機能和声の体系では用いられません
これは文字通りで, これ以上説明しようが現段階ではありませんね…
和音の進行
前述の通り、或る和音から別の和音へ続くこと、移ることを「進行」と言います。トニック、ドミナント、サブドミナントは、次の通り進行します。
- T←→D
- T←→S
- S→D
つまり、トニックからドミナント、あるいはサブドミナントへ進行すること、そしてその逆もまた可能です(ただし、Ⅱの和音はサブドミナントでもDのみに進行し、Tへ進行するのはⅣの和音のみ。)。しかし、サブドミナントからドミナントへの進行は可能ですが、ドミナントからサブドミナントへの進行は禁止されています。D→Sへの進行を禁止することが、Tを中心にした和声の体系の基盤に成っているのです(図: (79) ドレミは階級社会? | 聖光学院管弦楽団の「図1」)。
何故「禁止」されているのか、その理由は割愛しますが、もう、「何故?」と考えてはいけない「規則」みたいなものです。もちろん、世の中に音楽はたくさんありますので、Cメジャーの楽曲でコード進行が「G→F」(ハ長調で「Ⅴ→Ⅳ」という進行)なんていう例はいくらでもあります。ただ、或る時期の或る音楽ジャンルにとっては、「Ⅴ→Ⅳ」という進行が禁止されていた、ということです。
ドミナント進行
ドミナントがトニックへ限定的に進行することを、ドミナント進行 = ドミナント・モーションと言います。このドミナント進行によって、ある楽曲の「終わった感」が得られます。
全音/半音
何故、ドミナント進行で「終わった感」が得られるのか、一応理由付けがあるようですが、その前に「全音」「半音」について知っておかなければなりません。
ピアノの黒鍵を思い起こして下さい(思い起こせない方は、「音感クイズ付きWEBピアノ『ピアノピアノ♪キーボード』」を参考にして下さい)。
ピアノの1オクターブ内(ドから上のドまで)には、黒鍵と白鍵合わせて12の鍵盤があります。「ド」から「レ」、「レ」から「ミ」のように、1度から2度、2度から3度へと移動するように弾く場合には、必ず黒鍵を1個飛ばします。このように、鍵盤1個分を飛ばした音程を、「全音」と言います。「半音」は、「飛ばさない」音程です。ドから次の黒鍵へ移動すると、全音ではなく半音移動したことに成ります。
そこで、ピアノの鍵盤の「ミ」と「ファ」、「シ」と「ド」の間を見て下さい。黒鍵がありません。つまり、「ミ」と「ファ」、「シ」と「ド」の間は、半音しか上がらないのです。
この「半音」というのが、次のドミナント進行を理解するカギとなります。
ドミナント進行
ドミナント進行は、Ⅴの導音が、主音へ半音進行することから生まれると言われます。例えば、ハ長調であれば、「ソ・シ・レ」の「シ」の音が「導音」と呼ばれ、この「シ」の音が、「ド・ミ・ソ」の主音である「ド」へ進行することで、「終わった感」が得られるということです。「シ」と「ド」の間が、半音だからです。いや、あまり説明になっていない気がしますが、これが教科書的な説明です。なお、このような進行を導音進行といいます。
属7の和音
属和音であるⅤに、第7音を付加した和音を「属7の和音」といいます。和音記号は Ⅴ7 です。ポピュラー音楽だと「セヴンスコード」などと呼ばれます。Cメジャー(=ハ長調)だと、属7の和音は「G7」、構成音は「ソ・シ・レ・ファ」です。
Ⅴ7は、典型的なドミナントの和音だと言われます。例えばハ長調で、V7からⅠへと進行する場合の、構成音をみてみましょう。「ソ・シ・レ・ファ」→「ド・ミ・ソ」になります(図: music school M-Bank 和声の機能一覧表)。「シ→ド」に加え、「ファ→ミ」も半音進行します。これによって、大きな「終わった感」を得ることができるのです。
カデンツ
カデンツ cadence とは、フレーズや曲の終止のパターンのことです。西洋音楽では、カデンツは和声法に依存します。当初は楽曲の終止でのみ用いられていました。後に、曲の途中でも使用されることになります。重要なカデンツは、以下の通りです。
- T→S→D: 変格終止、または賛美歌などの最終部分で常套的に使われることから、アーメン終止とも呼ばれます。柔らかい印象のある終止です。
T→D→T: ドミナント進行による明確なカデンツです。しかし、終止感はありません。 - T→S→D→T: ドミナントの前にサブドミナントを配した、十分なカデンツです。楽曲上の大きな段落の終止で用いられます。
以上のように、西洋の機能和声は、和音を機能付けし、ドミナント進行を中心に組織化された和音体系なのです。
参考文献
- 芥川也寸志『音楽の基礎 (岩波新書)』
- 石桁 真礼生 他『楽典―理論と実習』
- 井桁学『ギタリストのための楽典 (Guitar magazine music theory series)』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 久保田慶一 他『キーワード150 音楽通論』