ミュージシャン以外が書いた, 超・具体的な音楽批評 7 選

ぼくのりりっくぼうよみのツイートに端を発する一連のやりとりの togetter をみて,

ミュージシャンサイドにだいたい同意しつつ, でもそれは相当ピュアな理想でそれを実現するのはかなり困難ななのではないか, と思っていたところです.

なぜ困難なのか, ていう点について「音楽評論に期待するだけ無駄」みたいなタイトルの記事を書いていたのですが, あまり生産性がなさそうなので, その代わり, 日本語でわたしが読ん限りで印象に残っている, 音楽を本業にしていない方が音楽について真正面から取り上げた文献を紹介します. うえに挙げた togetter で主にテーマにされているのは,「音楽のうち」「音楽のそと」の対立だとわたしは思っているんですけど (そして, おのおのの発言者が, その人なりの「音楽の「うち」」について述べているんですが), 以下に挙げている文献は, いずれも特に作品における「音楽のうち」に取り組んでいるものばかりです.

一部, メタ音楽批評のような,「音楽のうち」に取り組もうとした故に,「音楽のそと」にも言及せざるを得なかった文献も紹介しています.

それで, 本題に入る前にいくつか言い訳をしておきたいのですが, まず, 以下のリストは, わたしが読んだかつ記憶に残ってすぐ引き出せる文献のみを取り上げています. この記事を書くにあたって, いちいち本棚をひっくりかえしたりなどはしていません. ですので, この記事と同じテーマで「もっとこういう資料があるよ!」みたいなのをコメントなりなんなりで教えていただければ幸いです.

次に, この記事のタイトルの「ミュージシャン以外」の範囲ですが, 作曲や演奏, あるいは作曲・演奏の教育, 楽曲の販売などでメインの生計を立てていない (はずである) 方を指します. 以下に挙げた文献の著者には, 実際に演奏できたり, 場合によってはレーベルを運営したりしている方が含まれている. けど本職は違う (はず. この辺を正確に調査するには, わたしの力量では無理でした. すみません), ていう, そういう意味での「ミュージシャン以外」です.

それから, これはもっと重要ですが, そもそも何を以って「音楽のうち」とするかは, この記事では不問いにしています. ただ, 以下のリストの文献をいくつか読んでいただければ, この記事において「音楽のうち」という言葉で指し示していることが何か, というのはぼんやり掴んでいただけるかと思います.

なお, ポピュラー音楽限定です.

では前置きはこれくらいにして, 本題に入りましょう.

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川本聡胤「音楽学的ポピュラー音楽研究 : 批判と擁護」(2012)

論文ですのでこちらから読めます.

『J-POP をつくる』(2013) で知られる著者による, ガチの学術論文です. 批難されているのは, 日本での, 音楽に関する言説における「音楽のそと」主流的な現状です. この批難が非常に丁寧なのですが, そのうえで,「音楽のうち」的な言説の可能性を, クリスティヴァの間テクスト性を論拠にしつつ, LINKIN PARK とドビュッシーを結びつけることで探究する, ていう非常にロックな論文です. ていうかこれを読んだら,「音楽のうち」「音楽のそと」議論はいちおう, 整理されると思います.

ていうか, おまえ LINKIN PARK 好きなだけやろ, 感は否めないんですが.

ここで, お前の LINKIN PARK 解釈はおかしい, みたいな評論がでてきたら面白いんですけど, 無理でしょうね.

同じ著者が, 久保田慶一 (編)『キーワード150 音楽通論』(アルテスパブリッシング, 2009) で, ポピュラー音楽の項目を担当しているのですが, こちらもめちゃくちゃ面白いです. Public Enermy について分析している箇所を引用しましょう.

ジェイムズ・ブラウンの《ファンキー・ドラマー》(1970) をサンプリングしたものにドラム・マシーンの音を合成した 16 音符にもとづくパターンが, ファンカデリックの《ゲット・オフ・ユア・アス・アンド・ジャム》(1975) の冒頭ポルタメント音のサンプリングにおける 5 連符的なリズムとからみ, 複雑精緻なポリリズムを作り出している. またブラス音はト短調を予期させるが, ラッピングやサンプリングに頻繁に現れる変ニ音や他の微分音的なピッチにより調性が崩れている点も特徴

やっぱこういう分析は読むだけで面白いですね.

LINKIN PARK とドビュッシーっていう個人的に強烈な関連性のある文章を紹介したあとなので, 次に紹介したいのはどれもインパクトが薄れてしまう感じがありますが, つづいてはとりあえずビートルズにおける「音楽のうち」の例を, 入手しやすいヤツを 2 つ紹介します.

田村和紀夫『ビートルズ音楽論―音楽学的視点から』(東京書籍, 1999)

音楽学だけでなく, 思想もバックグラウンドにもつ著者による, ビートルズ論です. 代表的な楽曲が, 譜例をもって分析され, さらにそこに文学的な印象が付加されています. さきの togetter で何回か「具体的」という言葉が使用されていますが, この本は, さきの togetter で使用されている意味の範囲内で具体的かつかなり単に具体性に収まらないビートルズ論だと.


ただ, 田村のもつ, 作品を超えた音楽という何かについての考え方については, わたしは否定的です.

田村和紀夫『音楽とは何か ミューズの扉を開く七つの鍵』
著者の理想とする音楽というものがあって、各章で事例を挙げながら、それを正当化しているだけなのではないか(もちろん、ほとんどすべての「~とは何...

山下邦彦『ビートルズのつくり方』(太田出版, 2000)

これに関して言えば, 非常に評価は難しいところですが,「おまえ, 言ってること雑だよ」て片付けてしまうのは, 本記事のテーマからはちょとしにくい, ていう. 非音楽家が「音楽のうち」に止まろうとした結果どうなるのか, ていうののお手本だと思います. のちに著者は, 坂本龍一から「病気だ」と批難されているようです.


山下邦彦『Mr. Children Everything 天才・桜井和寿の終わりなき者の冒険』(太田出版, 2000)

『ビートルズのつくり方』と同じ著者. これも評価については, うーん, という感じですが, うろおぼえですが, この本をもとに, ミスチルは『DISCOVERY』くらいの頃にミーティングを行ったそうです. うろおぼえですが, ロッキングオンジャパンかなんかにそう書いてありました.

ミスチルを「音楽のうち」において分析しようとする姿勢はすごい. けど, まあ, といったところです.


ミスチルがでてきたので, ミスチル関連で「音楽のうち」な文章を紹介します.

高増明『ポピュラー音楽の社会経済学』(ミネルヴァ書房, 2013)

バンドやレーベルの運営を経験している大学教員による著書です. 第 9 章において, ミスチル「Sign」と AKB「ヘビーローテーション」を比較しながら, それぞれのメロディー, コード進行などなどがかなり詳しく分析されています.


ミスチルついでに, J-POP 関連で 1 つ.

石川伊織「椎名林檎における「歌」の解体と再生」(2004)

ヘーゲル研究者による椎名林檎の評論です. 論文ですのでこちらから読めます.

著者の論文では, ヘーゲルの音楽美学と同時代の音楽家との関係をつづったものが最も興味深いのです. が, 本記事では, 日本語で読めて・ポピュラー音楽で「音楽のうち」が 目指された文献を紹介する, ということで, 著者の椎名林檎の評論をオススメします.

この評論がどれだけ成功しているかは測りかねますが, メロディー, リズム, そして歌詞をそれぞれ関連させながら, 人文的な結論を下す, という点で, かなり読み応えのある「具体的な」内容であることは間違いありません.

木村 直弘「初音ミクは浮遊する―神話装置としての冨田勲《イーハトーヴ交響曲》―」

最後に, J-POP に関連して, 初音ミクが使用された楽曲に関する, 具体的な評論を紹介したいと思います, というところなんですが, 本記事, いちおう, 可能な範囲で文献をぱらぱら再読しながら書いているんですが, この論文が掲載されている岩手大学のリポジトリにアクセスできなくてですね, 現時点で. すみません. 記憶が確かなら, この論文は非常に読み応えがありました. こちらから読めるはずです.

こちらからだとアクセスしやすいです. なんでなんでしょう.

著者は音楽美学者です.

以上, だらだらと挙げてまいりましたが, 最後に. 音楽評論とは, 他者が制作した・演奏した音楽について文章で表現する, という活動であるとするなら, それ自体はぜんぜん, それが好きな人はやってもらったらいいと思います. が, まあ, でもやっぱり, あまりにも具体性に欠けると, うっとうしいだけですね, ある種の人にとっては. それでも, 書きたいように書けばいいんじゃないんですかね, 音楽について書くのが好きなら.

で, そこで問題なのは, 演奏しない・作曲しないで何が書けるか, みたいな, そういうこだわり持っちゃうパターンで. そこは気にせず, 演奏したり作曲したりしながら, 書きたいことを書けばいい, と. むしろ, 書くために演奏とか作曲しろよ, と. 評論家は. あまりにも詳しすぎると読者がつかない, ていう意見も分かるけど, そうですね, そんなこと言うなんて, お前はいままで一体音楽から何を学んだのか, ていう. 音楽を, 音楽っていう現象自体の面白さでたしなむ, ていうのも全然ありですけど, 音楽で勇気付けられたり, もっと自由でいいんだって気付かされたりみたいなことも, あるでしょう? 特にポピュラー音楽だと. 音楽で勇気付けられて, 譜面を読めないコンプレックスある評論家が譜面を読めるような努力をするみたいなさ (笑), そうのがあってもいいと思うんだよね.

なさそうだけどね〜.


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