私たち音楽ファンはウクライナのために何ができるか

「やっちまったな、プーチン」。

「ひるおび」で速報が伝えられたとき、思わず Twitter にそう書き込みました。おびただしい数の速報が流れてくるなかですでに記憶は曖昧になってしまいましたが、確か「ひるおび」で伝えられたのは、キエフで爆発音が聞こえたという速報でした。そこから、速報、速報、速報。海外のニュースではこのように伝えられています、アメリカではイギリスでは、このように伝えられています。国連ではウクライナの大使がロシアの大使に対し、非難を表明、そしてプーチンの実質「開戦宣言」が発表されました。

キエフの空港が占拠された。キエフは2日で陥落する。ウクライナの大統領が暗殺されるかもしれない。ロシアの先鋭部隊がキエフに既に侵入している。避難する車で混乱する道路、日本の国会ではコロナ対策が議論され蓮舫議員が一時中断を申し入れた。避難する人たちで埋め尽くされた鉄道、発令された国家総動員法、民家上空を低空飛行する軍事ヘリ、 街の向こうで燃え上がる爆発炎… SNS に投稿される「現実」。そして顕わになった、避難をめぐっての人種差別、なぜウクライナだけ注目を集めるのか。Muslim Lives Matter。世界は一気に混乱へ陥った。分からない。新型コロナで一喜一憂していた方がまだマシだったかもしれません。

「株価がまた下がる。どうしてくれるんだ」。私はそう思いました。日本でも新型コロナ感染症流行の出口戦略を模索し始めた矢先の「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻」。コロナが終わったらきっと、未曾有の好景気がやってくる! そう信じていたから、この 2 年間、我慢してこれた。しかし愚かな国の愚かなリーダーの愚かな決断が原因で、小麦の値段はきっと上昇し、ソバ粉も上昇するし、経済制裁が強化されれば、化石燃料の価格ももっと上がるに違いない。コロナが終わったのに、景気上昇どころか、景気後退も起こり得るかもしれない。

「おいプーチン、どないやねん!」

同時に、ウクライナという国、そしてそこに住んでいる人たちのことを考えると、とても言葉では表せないような、暗澹たる気持ちになりました。私は 10 数年前に、ウクライナ出身の方と一緒に仕事をしたことがあります。今でも連絡をとっているとか、そういうわけではありませんが、一緒に仕事をしたことがある数少ないヨーロッパ系の人だったので、印象に残っており、それ以来、ウクライナには一方的に・個人的に親しみを持っていました。別にウクライナにすごく詳しいとかそういうわけではなかったんですけどね。けど、だから、侵攻直前、ロシアが一方的にウクライナの東部の州を共和国・独立国として承認したあたりから、ほんとにエゲつないことするなと思ってしまいましたし、同時に、おいロシアどうした、と逆にロシアが心配になったり、確かに、クリミアを併合した時も、ロシアがウクライナ東部へ侵攻した時も、こんな強行なことをするような国家だったのか、ロシアは、と、大変驚いたことも覚えています。ただ、今、ロシアという国の歴史などを調べるに連れて、私がロシアという国について何も知らなかったのだと自覚にいたりました。

どのニュースを見ても、アメリカあたりの戦争研究所によれば、キエフは 2 日で陥落する。ウクライナがロシアに勝てるわけがない。侵攻当初は、日本中がそう思っていたのではないでしょうか。いや、世界中がそう思っていた。ウクライナがロシアに勝てるわけがないのです。ただし、ウクライナ人は、世界中でウクライナ人だけが、自分たちのことを信じていました。ウクライナ人以外は世界中が、ウクライナの大統領は数日以内には拘束されるか暗殺されるかして、ウクライナにロシアの傀儡政権が成立する。そう確信していたことでしょう。こんな強行手段が、許されていいのか。許されるわけがない。これが許されたら本当におぞましい世界になってしまう。

ウクライナ国外に住んでいてもこんなにどうしようもない気持ちになる… ウクライナ国内の人たちの気持ちは想像に絶する… そこに、キエフの亡霊。そしてセルフィーでキエフの街の様子を伝えるゼレンスキー大統領。このとき私は、はっきり、この人はウラジーミル・ゼレンスキーという名前なんだと知りました。

「プーチンと同じ名前じゃないか」。

奇妙な偶然を奇妙だと思いながら、インターネット上の情報では、ウクライナはまだ耐えている。

「レーニンとも同じ名前だ」。

キエフは 2 日では陥落しませんでした。しかし、まだ、ウクライナがロシアに勝てるなどとはほとんど誰も思っていなかったでしょう。もちろん、ウクライナ人を除いて。そして、侵攻が続く中、SNSは、凄惨な映像、画像で埋め尽くされました。ミサイルがキエフの高層マンションに着弾し、ビルの間の道路では民間人が運転する乗用車を戦車がが踏み潰す。爆発で足を吹き飛ばされ、失い、運ばれていくこちらも、民間人の若い女性。戦車から降りてきてウクライナのスナイパー銃殺されるロシア兵。火炎瓶で炎上するロシアの戦車。拘束され、母国の母親に強制的に電話をさせられるロシア兵捕虜。

ひまわりの種を持って出て行けと、ロシア兵に向かって叫ぶ中年女性。

私は全てが気になって、Twitterに「ウクライナ」と言うリストを作り、そこにウクライナ現地から様子を伝えるアカウントを追加し、常に情報を得ようとしていました。

そこに流れてくるのは、本当に人が死に、殺されていく様子。ふつうのテレビの報道番組では、こんな様子は絶対に映されない。どんなリアルな映画やドラマでも、絶対にこんな映像は流れてこない。何度も言う。おぞましい。何度も言う。言葉にならない。そして、正直に言おう。これは感覚は確実に残しておかなければならない。映像としては退屈だ。ドラマや映画で描かれる戦争は、ディレクションされていて、劇的で感動的で…、でもそれは編集されたドラマや映画だから。BGM もなく予兆もなくただ爆発音がいきなり鳴り、次の瞬間には血まみれ。その背後には廃墟と化した建物。捉えているのはスマホの縦長の画面。生々しい。そこには感動も何もない。ただただ、ノーカットの退屈な残酷さが現実存在するだけ。

気持ちはツラくなりばかり。もうキエフが陥落したんじゃないか、今日はまだ大丈夫だった、明日になったら? 朝、Twitter を開く。今日もまだ大丈夫だったみたいだ。仕事の合間も、昼食をとっている時も、キエフはまだ陥落していない、まだ大丈夫。ゼレンスキーは殺されていない。まだ大丈夫。でも 1 時間後には? 30 分後には?

Twitter とは対照的に、私は、Instagram ではそういった情報収集は一切していませんでした。私が Instagram でフォローしているのは、きらびやかな世界で活動している音楽家やモデルたち。侵攻前から罵詈雑言が飛び交う、侵攻以降は侵攻な様子が流れてくる Twitter の雰囲気を、あえて Instagram には持ち込まないようにしていました。Twitter で見るに耐えない情報ばかりに触れ、さすがにちょっと疲れたとき、Instagram を開くようにしていました。Instagram 。憧れの世界。フォローしているウクライナ人 DJ が車内での避難生活を余儀なくされていました。

Miss Monique はウクライナ出身のハウス DJで、そのアグレッシブなプレイ・スタイルで世界的に活躍しています。私も侵攻が始まる以前からファンでした。来日する機会があれば、ぜひ聴きに行きたいと思っていました。彼女は定期的に、自前のDJブースから YouTube を配信をしていました。侵攻の 12 日前にも、動画を後悔していました。

23 日、ウクライナ国外でのDJ公演を終えキエフに一次帰国しました。

翌日、軍事侵攻は始まりました。

彼女の素敵なDJブースが今どのような状況なのか、想像したくもない。あらゆる冒涜。こんな軍事侵攻は決して許されません。許される軍事侵攻などありません。

日本人としてウクライナを支援すると考えた場合、やはりある一定の世代の日本人は、過度なまでの平和教育を受けてきたので、ロシア兵にも死んでほしくないと考えてしまいます。ですので、例えば募金などをした場合、そのお金がウクライナ側の武器に使われるようなことは、ある世代の日本人は大きな抵抗を感じます。1980 年代生まれの私も同じです。例えば大使館におカネを寄付するといった方法もありますが、そのおカネが武器に変わるのではないかと考えると、足が重くなってしまいます。寄付するおカネは、状況が落ち着いたとき、復興に使ってほしいのです。

私は侵攻開始当初、Twitter に反射的に次のように書き込みました。「軍人ではない日本のわたしたちができることは、相変わらず、戦争を始めたくなるような独裁者が二度と出現しないようにするにはどうすれいいのか、これをしつこく考え続けることだ」と。
 
いま思えば、半分は間違ってますが、半分は正解だと確信しています。戦争が始まったら、その始まってしまった戦争に対してどのように対処するのか、これはこれで真剣に考えなければなりません。一方で、極端に理想的なことを言えば、世界中の国家が平和ボケになれば、軍事侵攻なんて絶対に起こりません。プーチンが平和ボケだったら、ウクライナへ侵攻することなんてなかったはず。
 
日本では、多くの人が「平和ボケ」だと言われています。いいことです。他国から侵攻されることなんてありえない、と、全世界中に浸透して、全世界が平和ボケしてしまえば、軍事侵攻なんていう発想は出てこないはずです。
 
…さて、支援金に関してですが、いちばんは、ウクライナにいたり、ウクライナに関係したりしている人たちに、直接届くことです。どうすればいいのか。音楽ファンとしてベストな、支援行動は何か。私は、MIss Monique の DJ プレイを、YouTube を通じてたくさん聴くことにしました。また彼女だけでなく、現代ウクライナのポピュラー音楽を調べて、その人たちの音楽をたくさん聴くことにしました。調べるといっても簡単で、サブスクで、ヒットチャートをウクライナに設定すれば、それで今ウクライナで流行っている音楽を聴くことができます。私が音楽を聴くことで、ウクライナのミュージシャンの支援に少しでもなるように。

私はさっそく、ヒットチャートをウクライナに設定して、流れてきてカッコいいな、と思ったインディー系ロックバンドの名前をググりました。ヒットした Instagram のストーリーを開くと、メンバーが軍服を着ていました。

こんなの何もかも無駄だ。意味がない。早く終わってくれ。

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追記

Miss Monique は、侵攻から2週間後に無事、ウクライナから避難し、ウクライナ国外でDJ活動を続けるそうです。

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