近世の音楽思想(3)メルセンヌ、デカルト、ライプニッツ

前回の記事までで、ティンクトリスやザルリーノの音楽思想、そしてフィレンツェ・カメラータについて考察しました。今回は、近世音楽思想のさらなる探求として、音楽における感覚と合理性の探求に焦点を当て、メルセンヌ、デカルト、ライプニッツの貢献を詳しく見ていきましょう。参考は Stanford Encyclopedia of Philosophy の「History of Western Philosophy of Music: Antiquity to 1800」の項目です。

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メルセンヌの調和と実験

フランスの数学者マラン・メルセンヌ はMarin Mersenne 、音楽の数学的性質への興味から、音とその振動の研究を数学的にアプローチしました。彼の著作『ユニヴェルサル・ハーモニー』Harmonie universelle では、音楽と宇宙の調和の間に存在する根本的な関係を探ります。メルセンヌは、音楽の感覚的表れとその背後にある合理的構造との対比を掘り下げ、共鳴とその感覚的な快適さが必ずしも一致しない理由について考察しました。この点において、彼は音楽の合理性と感覚性を統合しようとする近世の探求の先駆者の一人です。

デカルト: 音楽における感情

ルネ・デカルト René Descartes は、若い頃に『音楽提要』(1618) を執筆し、音楽の目的を「私たちを感動させ、様々な感情を引き起こすこと」と定義しました。この考えは、彼の後の作品『情念論』(1649) における感情の機械論的理解に引き継がれます。デカルトは感情を外部の物体が動物の精神に及ぼす作用として捉え、音楽が特定の感情を喚起する手段としての可能性を示唆しました。この考え方は、18世紀のAffektenlehre(感情の教義)に大きな影響を与え、音楽を通じて感情を表現し、聴取者に特定の感情を喚起する方法論の基礎を築きました。

作曲家ヨハン・マッテソン Johann Mattheson の音楽理論書『Der vollkommene Capellmeister』(1739,『完全なるカペルマイスター』) は、デカルトの感情理論に影響を受けたと考えられています。

ライプニッツ: 音楽、感覚、合理性の統合

ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ Gottfried Wilhelm Leibniz は、音楽に関する断片的な観察を通じて、音楽の価値がどのようにして合理的要素と感覚的要素を調和させるかについての洞察を提供します。彼は、音楽が私たちを魅了する理由を、私たちが意識的には認識しないが魂が続けて行う数字の一致と拍子の計数に帰結させました。このようにライプニッツは、音楽がいかにして宇宙の合理的構造を感覚的に表現し、私たちに感動を与えるかについて、独自の視点を提供します。

まとめ: 感覚と合理性の融合

近世の音楽思想は、音楽の数学的扱いとその感覚的表現の間の複雑な関係を探求することで、音楽における感覚と合理性の統合を目指しました。メルセンヌ、デカルト、ライプニッツの仕事は、音楽が単に聴覚の喜びを超え、私たちの理解と感情に深く訴えかける方法を示しています。これらの思想家の貢献により、音楽の感覚的な体験とその背後にある合理的構造の間の対話が豊かになり、音楽を通じて人間の経験のより広範な側面を探る道が開かれました。

この記事では、音楽の哲学史における「近世の音楽思想」を深く掘り下げ、メルセンヌの数学的アプローチ、デカルトの感情論、ライプニッツの音楽と宇宙の調和に関する考察を通じて、音楽がいかにして感覚と合理性を融合させるかについての理解を深めました。

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