ジャズ前史(2)カントリー・ブルースとクラシック・ブルース

ジャズの前史として、ブルースはどのように発展し、影響を与えていったのでしょうか?その答えを知るためには、カントリー・ブルースとクラシック・ブルースという2つの異なる音楽スタイルに焦点を当てる必要があります。これらのブルースの伝統がどのようにして現代のジャズや他の音楽ジャンルに繋がっていったのか、その歴史をひも解いていきましょう。

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カントリー・ブルースの起源と特徴

ブルースは、ジャズが都市で発展していく前に、アフリカ系アメリカ人のコミュニティで地下的に存在していました。ブルースが独自の音楽スタイルとして認識されるようになる以前から、その痕跡はアメリカ南部、特に黒人の農業労働者が多く住む地域で見られました。カントリー・ブルースは、こうした農村部の最も貧しい地域で最も発展した音楽であり、都会のジャズとは対照的に、素朴なルーツを持っています。

カントリー・ブルースは、初期の商業録音ではあまり注目されませんでしたが、1920年代後半にブラインド・レモン・ジェファーソン(Blind Lemon Jefferson)が成功を収めると、その重要性が広く認識されるようになりました。ジェファーソンは、簡素なギターのリフを中心に据えた演奏スタイルと、感情豊かなボーカルで人気を博しました。彼の「ロング・ロンサム・ブルース」や「シー・ザット・マイ・グレイヴ・イズ・ケプト・クリーン」などの楽曲は、今でも多くのブルースファンに愛されています。

さらに、カントリー・ブルースはギターを使った独自の演奏技術でも知られています。特に「スライドギター」と呼ばれる技法が特徴で、ナイフや瓶の一部などの物体をギターの弦に当てて音を滑らせることで、特有の音色を生み出しました。この技法は、音楽の中に柔軟な音の表現をもたらし、ブルース独特の「ブルーノート」と呼ばれる音階の基礎を築きました。

クラシック・ブルースの登場と商業的成功

カントリー・ブルースと並行して、より商業的なクラシック・ブルースも発展しました。クラシック・ブルースは、1920年代から1930年代にかけて、特に女性ボーカリストたちが前面に立つスタイルで広まりました。この音楽は、カントリー・ブルースと異なり、バンドの伴奏を伴うことが一般的であり、よりフォーマルな音楽構造を持っていました。

最も著名なクラシック・ブルース歌手の一人、マ・レイニー(Ma Rainey)は、クラシック・ブルースの最初の大スターの一人として知られています。彼女は、夫であるパ・レイニーと共に南部を巡業し、その力強い声と舞台パフォーマンスで多くの観客を魅了しました。彼女の音楽には、カントリー・ブルースの素朴さと、商業的な要素がうまく融合しており、彼女の影響は後のブルース歌手にも大きな影響を与えました。

カントリー・ブルースとクラシック・ブルースの対照

カントリー・ブルースは、その名前が示す通り、農村部で生まれた音楽であり、通常は男性のボーカリストがギター伴奏で歌うスタイルでした。一方で、クラシック・ブルースは、都市部で発展し、女性ボーカリストがバンドを率いて演奏するスタイルが主流でした。カントリー・ブルースは自由なリズム感を持ち、感情表現に重点を置いていましたが、クラシック・ブルースは12小節形式を厳格に守り、商業的な舞台でのパフォーマンスを前提とした音楽でした。

カントリー・ブルースのもう一つの特徴は、個人の表現が強調された点にあります。歌詞やメロディーはしばしば即興的に生み出され、個々のミュージシャンがその場での感情を音楽に反映させました。一方で、クラシック・ブルースは、より洗練されたアレンジが施され、リハーサルを経た演奏が求められました。

ブルースの商業的成功とその影響

ブルースが商業的に大成功を収めたのは、1920年に発売されたマミー・スミス(Mamie Smith)の「クレイジー・ブルース」がきっかけでした。このレコードは発売から1か月で7万5千枚を売り上げ、その後も100万枚以上のヒットとなりました。この成功により、多くのレコード会社が「レース・レコード」と呼ばれるアフリカ系アメリカ人の音楽を録音・販売する市場に参入しました。

この時期、クラシック・ブルースは特に黒人女性ボーカリストたちによって支えられており、彼女たちのレコードは次々とヒットを飛ばしました。例えば、ベッシー・スミス(Bessie Smith)は、その深い声と力強いステージパフォーマンスで、クラシック・ブルースの頂点に立ちました。彼女の「ダウン・ハーテッド・ブルース」は50万枚以上の売り上げを記録し、その後も多くの名曲を生み出しました。

ジャズへの影響

ブルースの影響は、ジャズの発展においても非常に重要な役割を果たしました。特にブルースのメロディーやリズムの要素は、ジャズミュージシャンたちに多大な影響を与え、ジャズの即興演奏の中にもブルースの要素が取り入れられるようになりました。例えば、ルイ・アームストロング(Louis Armstrong)やフレッチャー・ヘンダーソン(Fletcher Henderson)などのジャズミュージシャンは、ブルースとジャズの境界を自由に行き来し、その音楽に新たな可能性をもたらしました。

また、ブルース特有の「コール・アンド・レスポンス」という演奏形式も、ジャズに大きな影響を与えました。この形式は、ボーカリストが歌うフレーズに対して、楽器が応答するというもので、ジャズの即興演奏にもよく見られます。

結論

カントリー・ブルースとクラシック・ブルースは、それぞれ異なる形でジャズに影響を与え、その発展に寄与しました。農村部で育まれたカントリー・ブルースは、素朴で感情的な表現を重視し、一方のクラシック・ブルースは、商業的な成功を背景に、都市部での洗練された音楽として発展しました。この2つのブルースの伝統は、現在のジャズやロック、R&B、さらには現代の音楽にもその影響を色濃く残しています。


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