2019 年春にスタートしたアニメ『キャロル & チューズデイ』.
『カウボーイビバップ』『スペース★ダンディ』を手がけた渡辺信一郎 (総監督) による新作アニメでテーマは音楽, しかも楽曲提供としてクレジットされているミュージシャンが, いわゆる職業作家ではないライブなどで表舞台で活躍する面々ということで, 一部アニメファンや音楽ファンの間で話題になっています.
舞台設定は人類が火星へ移住して 50 年後の世界. AI による作曲が主流となった時代に, 偶然出会ったキャロルとチューズデイという 2 人の少女が, 一緒にミュージシャンとして成長していくというストーリー.
劇中には多くの挿入歌が使用されているのですが, よくありがちな「アニソン」とは全く違う方向性の音楽になっています. 第 6 話の音楽フェスのシーンではなんと! Flying Lotus と Thundercat が楽曲提供.
第6話『Life is A Carnival』音楽シーン
♪unrequited love/SKIP (Vo.Thundercat)
作詞・作曲・編曲:Flying Lotus,Thundercat
♪Unbreakable/CRYSTAL (Vo.Lauren Dyson)
作詞・作曲・編曲:Evan Bogart,Justin Gray#キャロチュー #CandT pic.twitter.com/i9tMss4lXZ— TVアニメ「キャロル&チューズデイ」(公式) (@carole_tuesday) May 15, 2019
といったところからも分かる通り, 提供しているのはテン年代において旬のミュージシャンが多く, また, 音楽性もテン年代らしい仕上がりになっています.
ただ, ここが難しいところで, 人類が火星へ移住して 50 年後の世界で主流の音楽性が, 21 世紀初頭の地球におけるポピュラー音楽の音楽性なのはやや違和感があります. 火星へ移住して 50 年ということは, はるか未来なはずですよね? 早く見積もっても 100 年後くらいでしょうか? もっと早いと 70 年後? 現実的には 200 〜 300 年後くらいかもしれません (もしかして詳しく公式設定されているかもしれません).
作中に出てくる道具や建物は, 未来らしいデザインなのに, 音楽だけがイマっぽいので, 音楽だけが進化していないように思えてしまうのです.
たとえば『キャロル & チューズデイ』の世界がいまから 100 年後だとしましょう. ということは, 現代, 2019 年に当てはめれば, 2019 年に流行している音楽が 1919 年前後の音楽と変わっていないということになります. 1919 年のヒットソングと言えば, Marion Harris「After You’ve Gone」とか, Ben Selvin「I’m Forever Blowing Bubbles」とか, Al Jolson「I’ll Say She Does」とかです. いずれも確かに… 歌のメロディーは今でもあるような楽曲かもしれませんが, アレンジはさすがに現代のヒットソングとしてはありえないでしょう.
このことは,『キャロル&チューズデイ』がダメだというわけではありません. 映像作品において「未来の音楽」を表現するのがいかに難しいかを表していると言えます. 道具や建物であれば, 目の前に現れて使われない限り, 現実にはなりえず, 現代では実現不可能なモノを映像において表現できます. しかし音楽 (そして, 絵画も, もしかして芸術一般…) は, 表現された瞬間にそれは現代か, あるいは過去の焼き増しになってしまい, 決して未来にはなり得ません.
また, 時代が未来設定の音楽ストーリーだからと言って, 現代においてあり得ないような音楽を用いると, 多くの視聴者にとって荒唐無稽な「音」になってしまうでしょう. もし, 誰も聴いたことのないような音楽で, かつ, ポピュラリティを獲得できるような音楽を, 映像作品のなかで表現できたら…, それはもう本当に革命的なことだと思います.
そういう意味で, 音楽に未来は難しい.「未来の音楽」は難しい. と言えるでしょう.