子離れできなかった父の物語:『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』レビュー ※ネタバレ有り

『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』、言わば劇場版エヴァの最終章、観てきましたよ、公開初日に。

はっきり言って、めちゃくちゃよかったです。絶対見るべき。これは。アニメファン、映画ファン、エンタメファン、とにかく全員観るべき。前 3 作を観ていないから今さら… という人は、とにかく旧世紀版 TV アニメシリーズ全話と、旧劇版と、前 3 作をきっちり観て、それから観るべき。スゴい。めちゃくちゃ面白かった。

いや、正直、私が小学 5 年か小学 6 年くらいの時からほぼリアルタイムで TV シリーズも追いかけてきてて、旧劇もきっちり見て、前 3 作もきっちり見て、ていうふうに考えると、だからもう、25 年とか? それくらい? TV シリーズの最終話を観たときの「!?!???」がようやく、本当にすっきり晴れて。だからその、25 年待った、ていうのもあるから、自分にとっては感無量な、スゴく良い映画だった、ていうのもあるんだろうけど。

自分の中では、TV  シリーズがやっぱり、エヴァの「聖典」みたいな。あとは旧劇も含め壮大な蛇足だ、くらいのね、評価だったんですが、今回のシンエヴァ最終章で、エヴァの物語、TV シリーズから旧劇から、新劇 3 作から、もちろん今作も含め、全部が聖典に、ようやく全部が、本当に聖典になりましたね。

それくらいね、自分にとってはすごく良い映画でした。こんな良い映画を観たのは本当に久しぶり。いや、初めてかもしれない。

終わった後、見知らぬオタクに話しかけてしまいましたからね。その見知らぬオタク、「ようやくこれでエヴァ離れができる…」て言ってましたよ。そうですよ、25 年を経て、ようやくエヴァ離れできる映画を観てしまったんですよ。それはもう、いろんな意味でね。

ここからは、もっと具体的に内容に踏み込んで感想を述べていきますので、思いっきりネタバレ要素がありますので、読む際には気をつけてください。また、ちょっと興奮状態で書いているので、かなり用語が不正確なところがあるかと思いますが、ご了承ください。

21 時上映の回で見てきて、日付変わってそのまま家に着いて書いてますので、夜のテンションということで、お許しください (ところどころ、後日加筆修正しています)。


なおこの記事は以下の音声を元ネタにしています。以下の音声は、映画館からの帰りに録音したものです。


まずですね、先行公開されていたパリ復旧作戦に続いて、シンジ、レイ、アスカの 3 人が、ニア・サードインパクト後にある集落にたどりつくんですけど、その集落は、ニア・サードインパクトをなんとか生き延びたひとたちが前近代的な生活を営んでいて、そこでシンジたち大人になったトウジたちに出会うんですよね。

そこがまずいいですよね。トウジや委員長たち… 生きとったんかワレェ! ていう。

それで、綾波もその集落で暮らす人たちと交流するなかで、人の心が芽生えてきて、ニア・サードインパクトを引き起こしてしまったシンジくんはずっと心を閉ざしてたんだけど徐々に立ち直ってきて… プラグスーツで田植えをする綾波を観ながら、「あれ? 宮崎駿かな?」てなったところで、綾波が消滅してしまうんですよね。文字通り、しかもシンジくんの目の前で。綾波はネルフの外では生きていけない設定で、時限が来たので消滅した、ていう。

そこで、シンジ君はヴィレに戻る決意をして、アスカと一緒にヴィレに戻るんですね。ここから、手に汗握るロボットアニメの戦闘シーンが始まるんですよ。

アスカとマリが活躍して、フォースインパクト? アディショナルインパクト? でしたっけ? それを食い止めるためにエヴァに乗り込んで、ゲンドウと冬月率いるネルフと直接対決するんですけど、そうそううまく、ネルフを食い止められるわけないんですよね。

ネルフの方が作戦として 1 枚も 2 枚もウワテで、アスカは倒されてしまう。ちょっとね、この辺、アスカの扱いがやっぱ雑だな、て思ってしまいましたね、わたしは。それに比べてマリは最後まで優遇されているように見えました。それはともかく、ネルフによってアスカは倒され、ヴィレのヴンダーもボロボロ、ていうところで、そこでシンジ君がエヴァに乗って、アディショナルインパクトを食い止めようと試みます。アディショナルインパクトは、ゲンドウが起こそうとしているので、シンジ君はお父さんを食い止めようと、父子対決を挑もうと決意するんですよね。

この、父子対決になるのか! ていうところで、かなりグッとくるんですけど、その前に、シンジ君がエヴァに乗る前に、シンジ君がエヴァに乗るのを食い止めようとするヴィレのメンバーが、誤って葛城を銃で撃ってしまう… のですが、こういうふうに旧劇要素を入れてくるんだな、と思ったり。

その前に、リツコがゲンドウを銃で撃つシーンがあるんですが、完全に倒すことはできないしにしろ、リツコは何発も撃ってて、ここでも、そういうところで旧劇と新劇の対比を見せてくれるんだな、と思ったり。

それで、槍がどうとかなんか難しい説明があって、父子対決ですよ。ゲンドウがね、めちゃくちゃ感情的なんですよね。こんな感情的なゲンドウ、観たことないので、けっこう滑稽でしたね。

父子対決というのは、エヴァ 13 号機 (= ゲンドウ)  とエヴァ初号機 (=シンジ君) との対決なんですが、エヴァ 13 号機とエヴァ初号機は格好がそっくりなので、あたかも、エヴァ初号機同士が戦っているように見えるんですね。あの、予告編で先行公開されていた、エヴァ初号機同士の戦いのシーンは、父子対決だったんですね。

父子対決、最初は殴り合いの物理対決だったのですが、徐々に「話し合い」の精神対決とでもいうような様相になってきて、ここで、おそらくアニメでは語られてこなかったゲンドウの過去が描かれます (漫画版では描かれていたかもしれませんが…、チェックしていないのでなんとも)。要するに、ゲンドウは小さい頃から孤独な少年だったんだけど、唯一心を通わせたのが、成人になってからのユイで、ただ、そのユイを、自らの実験で失ってしまった、それで、また、心を閉ざしてしまい、ユイを復活させ、ちゃんと「さようなら」を言うために、あらゆる手を尽くしている…、そのあらゆる手の  1 つが人類補完計画で、雑に言えば人類滅亡したら魂になって故人に会える、みたいな 、雑過ぎますけど、ただ、その、「ちゃんとさよならを言えなかった」ていう理由だけで巻き添えをくらう人類はたまったもんじゃないですよね。

そういった、父親の精神状態を知ったシンジ君なんですが、ちなみに、ゲンドウ自身も AT フィールドを張ってて、「そうくるか〜〜〜」て思ったんですけど、シンジ君は父親に「自分の弱さを認めなよ」的なことを言って。

この辺、記憶が曖昧なんですが、ゲンドウの魂はそこで成仏して、それで、アディショナル・インパクトをなんとか、シンジ君は食い止めることができた。

アディショナル・インパクトをちゃんと阻止するためには、シンジ君はエヴァを破壊しなければいけないんですが、ただ、シンジ君はその、破壊しなければならないエヴァに乗っているわけで、そうなると、シンジ君は自らを破壊しないと、人類滅亡 = 他者の喪失 = アディショナル・インパクトを阻止できない。その自己犠牲を遂行のために、継母 = ミサトが託した槍を自らに突き刺そうとするのですが、そこで、ユイ =  血縁の母が、身代わりになるんですね。

それで、シンジ君は、自己犠牲することなく、自己犠牲の代わりに、血縁の父と、母と、それから継母たるミサトもヴンダーと一緒に爆発していますから、そういった「親」の喪失によって、他者の喪失を阻止する。

この辺、ありがちなフロイト的フレームワークに落とし込むと楽しい解釈ができそうですね。

こういった描写は、メタ的な視点も導入されつつ、旧劇よろしくデカい綾波が 、今回は  CG  で描かれてて、映像的美しさ・快楽はスゴいものがありました。

こうして「インパクト」を阻止できたあとの世界…、というのは、かなり含みを持たしていて、なんでシンジとマリがくっつくんだろう、スーツ姿のシンジとフェミニンな格好のマリが駅の階段を駆け上がっていく映像、なんだかリクルートの新卒就活の CM みたいだな、と思いつつ、最後は宇部の実写映像で終幕。

最後、やや、妄想の余地を残しつつ、ただ、その本当に最後の最後だけ「余地」があって、それ以外は見事に「卒業」できる内容でした。

特に、やっぱりね、いちばんよかったのは、ゲンドウの想いがはっきり分かった、ていうのもあるんですけど、それ以上にね、アスカがシンジ君に好意を寄せていた、ていうのがはっきり分かったことですね。これ、アスカはシンジ君を好きなのかどうか、逆に、シンジ君はアスカを好きなのかどうか、ていうのは、長年、オタク・評論家の間で議論になっていた、記憶してるのですが。主に、アスカの気持ち、アスカはシンジ君を好き派と、アスカはシンジ君をガチで嫌い派で、はっきり別れていたんですね。ちなみに、わたしは、アスカはシンジ君をガチで嫌い派だったんですが、その予想は見事にはずれましたね。アスカはシンジ君を好きだった… どうするんだ! アスカはシンジ君をガチで嫌い派だった論者は!

ではなぜ、アスカはシンジ君にツラく当たってきたのか… それは、綾波がシンジ君のことを好きだということを認識していて、シンジ君が綾波にまんざらでもない、ちなみにシンジ君もアスカのことを好きなんだけど、シンジ君は綾波にもまんざらでもない、ていうのを見て、もうね、そういうところでアスカはシンジ君にツラく当たってたんですね。綾波はシンジ君のこと好きですから。そういうところも、気に入らなくて、思春期特有に、ヒステリックに、シンジと綾波に当たってしまう…


*** 以下、翌日追記***

といったところが気になって、この記事を書いたあと、朝起きてネットで検索してみたんですけど、どうも思ってたのと違いましたね。記憶違いでした。

そもそもアスカがシンジを好きだ、ていうのは、公式設定だった。

それで、アスカがシンジを好きだったかどうか論争というのは、山川賢一が東浩紀を非難するときに例として出していたものです

な、なつかしい…

まあ、東浩紀なら、「ファンのSSを公式に取り入れられちゃったよ!」といったところかもしれませんが、でももう、正直どっちでもいいというか、後述しますけど、旧劇版のラストを再現しているシーンで照れるアスカを見れただけで、いいじゃないですか!

*** 以上、翌日追記 ***


いや、もしかして、視聴者を安心させるためにあえて「好き」とセリフで言わせたのかもしれない。

けど、そうではない。と。旧劇のラストシーンに、「インパクト」阻止後に戻るのですが、そこで、ちゃんと艶かしく「照れる」アスカを描写していますしね。

これでね、ようやく平成も終わった感じがしますね。アスカとシンジのあいだの、恋愛感情問題、これにちゃんと決着がついた、ていうのは、平成にとって大きなインパクトですね。

最後、ラストは宇部の実写映像で終わります。この辺、どうして (庵野の出身地の) 宇部なのか、というのは、「謎解き」要素になりそうですね。

といったところで、だいたい、この辺りで、今回の『シン・エヴァ』最終章は最高だった! 感想は終わりなのですが、ついでに若干の気になる点を指摘しておくと、まず、ところどころ CG がいかにも「CG」然としていて、ちょっと気になりましたね。

あと、全体を通して、ロボットアニメの美学としては素晴らしかったのですが、一方で、ロボットアニメというのを抜きにすると、骨格となるテーマが血縁親子の対決と昇華、というのと、思春期男子女子の「好き嫌い」の感情の機微、この 2 点に帰結されそうなんですよね。血縁親子とか、思春期男子女子が「ややこしい」もので「微妙」なものだというのは、2000 年代中盤くらいまでの価値観で、それ以降を生きている私たちにとっては、あまり現代性のあるテーマではないのではないでしょうか。

もう少し突っ込んで言うと、旧世紀版は、シンジくんの成長の物語だったと思うんですよ。シンジくんがいかに父親を乗り越えていくかの物語だった。でも、25 年の時を経て、オタクも声優も監督も大人になって子どもができて、そこで、エヴァという物語は実は、子どもを認める物語なんだ、と変化していった。

そのきっかけが 3.11 だったかどうか分からないですけど、不慮の事故で愛する妻を失った、少年の心のまま親になったゲンドウが、どうやって息子を息子として認めるか。愛する妻の死と、息子の存在を、どうやって受け入れるか、という物語に、物語自体が時熟していったように思えますね。

ゲンドウは、息子の成長を認識したことで、ようやく父になれた。そして父になるとは、父をやめること、子離れすること、息子を 1 人の人間として認めることなんですね。だから、ゲンドウは、シンジ君たちのいる世界から消えた。

これはミサトさんも同じで、継母として育てたシンジ君、実の息子であるリョウを受け入れたから、物語から消えていったんですよね。

ここがちょっと違和感があるというか、ミサトさんもゲンドウも幸せになるエンドはなかったのかな、とも思っちゃいますね。人生 100 年時代、現役引退後のシニアライフの在り方が課題となる現代に、子離れしたからといって、物語の表舞台から消えるしかない、というのはちょっと寂しくないですか。

それから、子離れするためにトラウマと向き合うんですが、ゲンドウが。これもけっこう前時代的というか、マインドフルネス、認知行動療法の時代に、アドラー心理学本がコンビニにも並んでいる時代に、フロイト的トラウマと向き合うことで自己の成長を促す物語って、どれくらい現実性があるんですかね。

だから、エヴァの、最も核となると言っていい物語の推進力が、ちょっと古臭いというか、平成で終わりな感じは否定できないですね。

平成を引きずりつつ、平成を引きずったから、平成を終わらせられた映画、それが『シン・エヴァ』最終章なのかもしれません。


2021 年 3 月 15 日追記

公開 1 週間が経ち、シンエヴァについて評論・感想記事がネット上で充実するなかで、それらをいくつか読み、自分に抜け落ちていた視点を補った記事を書きました。

ぜひお読みください。

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