昨日今日と, 「CD 3000 枚」がなんとかという 2 ちゃんねるのまとめ記事が, はてなブックマークで複数人気エントリー入りし, ちょっとした話題になっているようです.
いったいどんだけ同じ内容のエントリーが人気になってるんだと検索したら, 「CD3000枚購入し“乃木坂46”の生駒里奈に告白してフラれたファンがまだクレカを作ろうとしている?」という記事を見つけてしまい, なんとも言えない気分になってしまいました.
紹介されている音楽についてはよく知らないものもあるし, 知ってるのでもそんな名作かな? て思うのもあるし, こういうのは個人の趣味がどうなっているのかを楽しむもので, 「わかる」があれば注目されるし, なければ注目されないような感じの記事なのでしょうけれども. たくさん注目されているということは, それだけ多くの方の琴線にふれるなんかあったんでしょう.
CD 3000 枚は多いのか?
さて, はてなブックマークのコメントでも言及されていましたが, 「 3000枚は多いのか」どうか, と. 個人的には少ないと思いますが, いかがでしょうか. ただ, 最近は, わたしは自分の CD とかレコードの枚数を数えてないので, わたしと比べたらだいーぶたくさんの音楽をお聴きになっていると推測されます.
話はそれますが, いや, そんなにはそれませんが, 「CD 3000 枚」で思い出したのは, 日本を代表するロック・ミュージシャン押尾学で, 彼の語録にも「俺は CD 3000 枚持っている」というのがあります.
こういったいわゆる押尾語録は 98 %がウソらしいのですが, 当時のインターネットの反応なんかを思い出すと, 「米軍基地でライブやった」「ニルバーナの生まれ変わり」みたいな, これもまあ, ウソなんでしょうが, そういった伝説的な語録にまぎれて「 CD 3000 枚」というのがあって, この「 CD 3000 枚」発言に対しては, 「あれ? 普通じゃね wwwwwww」ていう, 「かわいくね wwwwww」みたいな, そういう反応があったと記憶しています.
それで, 記憶をたどってネットを検索してもまったく結果に出てこなかったので, わたしの記憶が捏造されている可能性も否めません.
所有 CD 枚数 = 音楽たくさん知ってるではない
そんでね, けっきょく何が言いたいかと言いますと, あんまりね, わたしも以前そうでしたけど, 俺は音楽知ってるんだぜ! ていうののアピールに, CD の枚数とかレコードの枚数ってそんな説得力ないと思うんですよね. そもそも録音物だけが音楽じゃないし. それに, 何枚持ってるんだぜ! て, まあ, 音楽は深く時間に関係するので, 限界があるかと思いますが, やっぱりね, インフレを起こしちゃうんですよね, 万単位とかになって. それで, けっきょくそのうち何枚聴いてるの? みたいなことにもなりますし ( このあとその話になりますが ), けっきょく聴かなくなってしまうんですよね.
あと, 10000 曲を 1 回ずつ聴くのと, 1 曲を 10000 回聴くのと, みたいなそういうのもありますし. この辺になると話がだいぶとっちらかりそうなので, また別の機会にしますが.
CD・レコード蒐集家のリスニング方法
さてさてそれで, 世の中には音楽というより録音楽曲蒐集癖のような方々がいて, それはもう 3000 枚とかかわいく感じるような枚数を所有していらっしゃるようです. ではそういった方々は, どうやって聴いているのか. 寝る間を惜しんでいるのか, めっちゃカネ持ちで仕事行かんでかまんから 1 日中聴いていられるのか. それとも全く別の, ふつうのわれわれのようなその辺のリスナーでは想像のつかないような聴き方があるのか.
いや, 想像つくんですけど, 聴かないんですね, あの方々笑
ミチョラーと呼ばれている方がですが, クラシックで新しい録音がボックスなどでリリースされると, 迷わず買う. でも聴く時間がない. ちょっとずつ消化しているあいだに, また新しい録音がリリースされる. 買う. でも聴かない. みたいな. そうやって未聴 CD が山のようになっていき, 未聴 CD チョモランマ, ミチョランマをつくりあげる… 聴かないという全く新しい聴き方. 彼らは音楽に興味があるのではなくて CD に興味があるのではないか, と思われるかもしれませんが, きっと違います. だって考えてみてくださいよ? 同じ楽曲でも録音が違えば違う音楽経験ができるわけです. それをあの方々は買っている. こんなに音楽を聴こうとしている人なんてそういないですよ. しかし現実的に聴く時間がない. それを「買う」「積む」という行為で, 聴くに代えている, 聴かないことが聴くこと, これこそ究極の聴き方 … , なわけないですね. がんばって理屈をつけようと思いましたが, 無理でした. やはり実際に鳴らして聴いてなんぼです.
しかし, 世の中, 上には上がいます. ミチョラーの方々は, まだまだ枚数のインフレ・レースの段階. おカネさえあれば, 誰でも実現可能です.
音楽の聴き方は, 枚数を積み上げて聴かないことも選択肢のうちの 1 つですが, それはけっきょく量的な問題にとどまっているわけです. 量的な問題, CD を 3000 枚持っていようが 8 万枚持っていようがきっと達することのできない, 質的な飛躍のある CD の聴き方をしている方が, 世の中にはいらっしゃいます.
ジャズピアニストの山中千尋の CD の聴き方
彼女は音楽家としてだけではなく, その歯に絹着せぬ物言いで文筆家としても人気で, 2013 年には雑誌への執筆をまとめたエッセイ集を出版しています.
わたしはあまり音楽家のエッセイ集には興味ないのですが, この本はめっちゃ面白かったです. この本のなかで彼女の「CD の聴き方」( pp. 22 – 25 )が紹介されているのですが, もうそれがヤバい. これが質的飛躍か. という感じです. ちょっと引用しましょう.
「基本的に CD は買ったとたんにジャケットやケースを捨ててしまうものです」
昨今の, サブスクリなんとかサービス開始で CD の存在意義はどうなるのか ? ジャケットや歌詞カードといった「モノとしての所有欲」! みたいな議論を全否定する姿勢. まあ, 3年前に執筆されたものなので, まだまだ CD が買われていた時期だと言えるので, こういう扱い方をしている方も山中千尋以外にもいらっしゃるかもしれません. いやでもそれじゃ CD の盤面傷つくよな ? てかどう収納してるの. ということで, もう少しみてみましょう.
「 CD は穴にロープを通して洗濯物みたいに吊るしておくのがわたしの収納法です」
ちょっと意味わからないですね. ていうかこれじゃ聴けないですよね, いちいちロープから外すのめんどくさいし. ではどう聴いているのでしょうか.
「一枚の CD を取り出すのにほかの CD を全部外さないといけないので、また戻すのが面倒でオーディオで聴かなくなってしまうのです。結果、CD は穴の開くほど ( 穴開いてますね ) 見つめながら, 記憶を辿って「ここのコンプ最高だなあ」とか「いいね! このフレーズ」」などぶつぶつ言いながら楽しみます。こうしていると本当に頭のなかで音楽がなるときも時々あるのです」
これはもう完全に危ない人ですね. こんなにも深い録音物の聴き方があるのか, という感じです. どんなにたくさん, 量をこなしても決して辿り着けなさそうな, 真似できないいや真似したくない, ミチョラーがかわいく思える音楽の聴き方がここにはあります.