音楽における表現について、田村和紀夫『音楽とは何か ミューズの扉を開く七つの鍵』「第三章 音楽は表現である」を引用しながら、あれこれ思い巡らしているところです。こちらも参考にしてください。
『音楽とは何か~』によると、音楽は「気分」や「雰囲気」といったいわば曖昧なものしか表現できません。そして、「気分」や「雰囲気」といっても、何故悲しいのか、嬉しいのか、といった理由や、もちろん、場所とかそういった具体的なものを描写することもできません。
しかし『音楽とは何か~』によると、こういった「音楽の描写力の限界」は、むしろ音楽の魅力の最大の特徴です。この点に関して本書では、シューマンを例に、次のように述べられます。
「こうした深い感情をシューマンはフモール Humor と呼びました。フモールとはジャン・パウル Jean Paul(一七六三~一八二五)が提唱した概念で、無限たりえない存在への哀惜の情といえるかもしれません」(同書、同ページ)
感情には、言葉にできない感情というのがあります。シューマンはそのような「名状しがたい感情」を、言葉ではなくて、ピアノで描写した、というのです。
そして、その深い感情は「無限たりえない存在への哀惜の情といえる」フモールと呼ばれます。ちょっと今、手許に文献がないので、確かなことは言えませんが、クリストファー・スモールの『ミュージッキング~』では、言葉について、 同 時 に 描 写 で き な い といった考え方が紹介されています。フモールからは、これに共通した考え方が看て取れるのではないでしょうか。つまり、 あ ら ゆ る も の を 同 時 に 描 写 で き な い 言葉の代わりに、 音 楽 な ど の 芸 術 で 表 現 す る 、と言えるのではないでしょうか。
そしてこの点にこそ、音楽の最大の魅力がある、ということになるでしょう。